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虐げられたローズ

 ユブルームグレックス大公国のラ・トレモイユ侯爵家の長女として産まれたローズは、母でありラ・トレモイユ侯爵家当主のセレスティーヌや使用人からたくさんの愛情を受けて育った。しかし、ただ愛されるだけではなく、次期女侯爵としての教育もしっかりと施され、成人(デビュタント)していないにも関わらず僅か十歳にして完璧な所作であり、令嬢の鑑と噂されていた。

 ローズは艶やかなプラチナブロンドの髪に、母親譲りのアメジストのような紫の目の、まさに名の通り薔薇を彷彿とさせる美しい少女であった。

 しかし、ローズが十二歳になった年に悲劇が起こる。視察先でセレスティーヌが事故に遭い亡くなったのだ。

 突然のことだったので、ローズはとても悲しんだ。しかし、父であるオーバンはそんな素振りを見せず、セレスティーヌが亡くなった直後に後妻デジレと、その娘ペネロープをラ・トレモイユ侯爵家に迎え入れたのだ。ペネロープはローズと同じ十二歳。栗毛色の髪にアクアマリンのような青い目をした、可愛らしく庇護欲そそる少女である。髪色はデジレ譲りであるが、顔立ちと目の色はオーバン譲りであった。そう、オーバンはセレスティーヌが亡くなるずっと前からデジレと関係を持っていたのだ。つまり、ペネロープはオーバンとデジレの娘である。

 そしてローズはセレスティーヌが亡くなって以降、父オーバン、義母デジレ、義妹ペネロープから虐げられていた。

「あの、旦那様、こちらの書類は」

「そんなのローズにやらせておけ。ミスがあった場合の責任も全てローズに押し付けろ」

 ラ・トレモイユ侯爵家の家令ルノーが領地に関する書類を持って来るものの、父オーバンはそれを当たり前のようにローズに押し付ける。

「しかし旦那様、ローズお嬢様はまだ十三歳で」

(うるさ)い! 使用人の分際で俺に指図をするな! 私がローズにやらせておけと言っているんだ!」

 ルノーは困惑した表情をしていた。

 旦那様などと呼ばれているが、オーバンは元々ラ・トレモイユ侯爵家の人間ではない。ローズの母セレスティーヌがラ・トレモイユ侯爵家の当主であり、オーバンは単に婿入りしただけなのだ。しかし、何を勘違いしているのか自分がラ・トレモイユ侯爵家の当主だと思い込んでいる。

 オーバンは、ダークブロンドの髪にアクアマリンのような青い目をしており、見た目だけは良いが愚かな男であった。

 そこへローズがやって来る。

 ローズのプラチナブロンドの髪はくすんで傷んでおり、アメジストのような紫の目の下には濃い隈がある。更に、肌は荒れており不健康な程に痩せ細っており、昔の美しさは消え去っていた。枯れ果てた薔薇である。着ているドレスも流行遅れの古びた物だ。しかし、所作だけは美しく洗練されていた。そして、ローズは髪色、目の色、顔立ち全てがオーバンと全く似ていない。

「おい、ローズ! そんな見窄らしく醜い容姿で私の前に現れるな!」

 アクアマリンの目を吊り上げてローズに怒りをぶつけるオーバン。

「申し訳ございません」

 ローズは俯いて謝るしかなかった。

「まあ良い。ローズ、お前に仕事だ。ルノーがまた領地関連の書類を持って来た。全部お前が処理しておけ。万が一ミスがあればそれは全てお前の責任だ。分かったな?」

「……承知いたしました」

 ローズは俯いたまま、生糸のように細い声で答えた。

「辛気臭い返事だな」

 オーバンはそう吐き捨て、そのまま行ってしまった。

「ルノー、貴方も大変ね」

 ローズは弱々しく微笑む。

「ローズお嬢様こそ、こんなにボロボロになるまで……」

「仕方ないわ。あの人達はお母様の血を引く(わたくし)が気に入らないみたいですもの」

 ローズは肩を落とし、弱々しく諦めたように苦笑する。

「お嬢様、私はお嬢様の味方でございますから。いえ、私だけでなく、使用人全員はローズお嬢様の味方でございます」

 ルノーは力強い目でローズにそう言った。

「ありがとう、ルノー。そう言ってくれるだけで(わたくし)は心強いわ」

 ローズは弱々しく微笑んだ。

 ルノーを始めとするラ・トレモイユ侯爵家の使用人はセレスティーヌとローズを慕っているのだ。

 その後、ローズはルノーから書類を全て受け取り、自室に向かう。ルノーはローズにやらせまいと断ったのだが、ローズから「何かあったら貴方が解雇されてしまうわ。そうなってしまった場合、まだ(わたくし)では庇えないもの」と言われ、渋々ローズに書類を渡すのであった。

 自室へ向かう途中、ローズは義妹ペネロープから声をかけられる。

「あら、お義姉(ねえ)様じゃない」

「ペネロープ……」

「お義姉様は相変わらず貧相な格好ね」

 蔑んだような表情でペネロープはローズを見ている。

 出会ったばかりの頃よりも可愛らしさに磨きをかけたペネロープ。栗毛色の髪は艶やかで、アクアマリンのような青い目も生き生きとしている。そして肌も美しく、健康的な体つきである。

「そう言えば、最近ドナシアン様はお義姉様ではなく私に会いに来てくれるようになったのよ。婚約者であるお義姉様ではなく私に」

 ペネロープの口から出たドナシアンというのはショワズール侯爵家の次男で、ローズの婚約者である。しかし、ドナシアンは見窄らしくなったローズを邪険にして最近はペネロープと一緒にいることが多い。

「そう……」

 ローズは少し悲しそうに微笑む。そしてペネロープが身に着けている銀のバラにアメジストが埋め込まれたネックレスに目を向ける。それはローズが実母セレスティーヌから誕生日に貰ったプレゼントだった。しかし、それを見たペネロープは、「お義姉だけそんな綺麗なネックレスをして狡いわ! 私もそれが欲しい!」と言った。すると、義母デジレが抵抗するローズから無理やりネックレスを外し、ペネロープの首に着けるのであった。「やっぱりペネロープの方が似合うわ」と実の娘に笑みを向け、ローズには冷たい目を向けた。ローズがそれは実の母親からの誕生日プレゼントで思い出の品だから返して欲しいと訴えてもペネロープもデジレも聞く耳持たずだ。それどころかデジレは「義姉(あね)の癖に我儘(わがまま)を言うなんてみっともない」と、ローズをぶつのであった。そこからローズは自身のドレスやアクセサリーをペネロープに奪われ続けることになるのであった。

「ねえお義姉様、さっきから何を見ているの?」

 ペネロープの口元はニヤリと釣り上がる。嫌な笑みだ。

「……いえ、何も見ていないわ」

 ローズは俯く。

「嘘よ! お義姉様は私のネックレスを見ていたわ! さては盗むつもりね!?」

「盗むだなんて」

「一体何の騒ぎかしら?」

 そこへ義母デジレがやって来た。栗毛色の髪にペリドットのような緑の目の婦人である。デジレはジェンヌ男爵家の三女として生まれ、元々オーバンの生家であるヌヴェール伯爵家の使用人だった。当時働き始めたばかりのデジレは、丁度ヌヴェール家に戻っていたオーバンと出会い、関係を持つのであった。それが、セレスティーヌがローズを身籠もったばかりの頃の話。そしてデジレは間もなくペネロープを身籠るのであった。その後はヌヴェール家の使用人を辞めて、オーバンの支援を受けながら市井で暮らしていた。お情けでジェンヌ男爵家に籍だけは残してもらえたが。そして、セレスティーヌが亡くなると、オーバンから娘ペネロープと一緒にラ・トレモイユ家に招き入れられたのだ。

「お母様! お義姉様が私を睨むの! それに、このネックレスを盗もうとしたわ! 私の物なのに!」

 ペネロープはデジレにそう訴える。ローズは諦めたようにため息をついた。

 ペネロープの言葉を聞いたデジレは目を吊り上げてローズを頬をぶつ。パシッと痛そうな音と共に、ローズはよろけて床に倒れてしまう。持っていた書類もバラバラだ。

「いい加減にしなさい! ペネロープを睨みつけた挙句物まで盗もうとして! 罰として夕食抜きよ! オーバン様と使用人にもそう伝えておくわ!」

 切り裂くように鋭い口調でそう言い放ち、デジレはペネロープと共にその場を去るのであった。

 ローズは俯きながら散らばった書類を集める。その時、彼女がどんな表情をしていたのか誰も知らなかった。

 しかし、食事を抜かれると言っても使用人達がこっそりサンドイッチなどを持って来てくれる。ただ、やはりそれでも食事量は十分(じゅうぶん)ではない。

 仕事を押し付けられて睡眠時間が削られ、食事を抜かれて肌は荒れて髪は傷み不健康な程に痩せているローズ。彼女は父、義母、義妹から虐げられながら生活していた。

読んでくださりありがとうございます!

「面白い!」「続きが読みたい!」と思った方は、是非ブックマークと高評価をよろしくお願いします!

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新連載開始です!

この物語は『小公女ベルナデットの休日』と同じユブルームグレックス大公国が舞台です。これからローズがどうなっていくのかお楽しみにしていただけたら幸いです!

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こちらはベルナデットとテオドールの物語! 小公女ベルナデットの休日 シリーズ全体はこちらから! 小さくて大きな恋物語シリーズ
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