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いつか終わりがくるのなら  作者: キムラましゅろう


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王女来たる

いつもお読みいただきありがとうございます!


失われた王家の魔法を復活させる為に努力と研鑽を重ね続けた結果……


とうとうエゼキエルが倒れてしまった。



その原因が過労からくるものなのか、それとも魔法によるものなのか、王室の医療魔術師(侍医)は分からないという。


知らせを受け、アンリエッタはエゼキエルの寝室へと駆け込んだ。


顔色なくベッドに横たわるエゼキエルを見て、アンリエッタは胸が締め付けられる思いがした。


「意識はいつ戻りそうですかっ?」


アンリエッタがそう訊ねると、侍医は告げた。


「残念ながらそれは解りかねます……陛下の今の状態が魔力が欠乏したもののようであり、逆に魔力過多による中毒症状にも診えるのです」


「相反する症状が同時に起こっていると言うのですか?」


「左様にございます。そしてどちらか解らない状態で偏った治療をすれば確実に悪化する、という事しかお答え致しかねます……」


「そ、そんなっ……」


アンリエッタはエゼキエルの手をぎゅっと握った。


「玉体にその他の異常は見受けられません。今は陛下ご自身の回復力に期待するしか方法は無いかと」


「エル……」


握っている手はこんなにも温かいのに。


この温かく大きな手で力強く握り返して欲しい。


それなのに今のエゼキエルの手は人形のように力なく、アンリエッタが少しでも力を緩めるとその手から滑り落ちてしまう。



「エゼキエルっ……!」


ショックのあまり王太后ベルナデットがその場で(くずお)れた。


「お義母様っ」「王太后様っ!」


アンリエッタがベルナデットの側に駆け寄ると、ベルナデットは震える手で力無く訴える。


「アンリちゃん……どうしましょう…どうしたらいいの……?エゼキエルに何かあればっ…この国は、民たちはどうなるの……?」


「お義母様……」


アンリエッタは自分も悲しげな顔をしていてはより一層ベルナデットが不安になると思い、努めて気丈に微笑んだ。


「大丈夫ですわお義母様っ。エルはちょっと頑張り過ぎて疲れただけです!ゆっくり休んだらすぐにまた元気になりますわ」


「アンリちゃん……」


アンリエッタは近くにいた侍女長に告げた。


「お義母様をお部屋にお連れして。温かいハーブティーを淹れて差し上げてね」


侍女長はアンリエッタに「かしこまりしました」と返事をして、ベルナデットを支えながら退室して行った。


「妃殿下」


宰相のモリスがアンリエッタの名を呼んだ。

そしてエゼキエルを除き、この寝室の中で最高位であるアンリエッタに確認するように問う。


「隣国の第三王女のご来訪が迫っておりますが如何なされますか?事情を説明して此度は中止、または延期という形を取られますか?」


「………」


アンリエッタはその場で思案した。


他国に国王の健康状態を知られたくはない。

だが今ここで来訪を断れば、この国で何かが起きていると告げているようなものだ。


アンリエッタは毅然としてモリス侯爵に告げる。


「いいえ。この状態であるならばこそ、予定通りお迎え致しましょう。緘口令を敷いたとしてもこのような事は不思議と漏れ出してしまうもの。それならばいっそ陛下は風邪だとでも告げた上でこちらの懐に入れて、何も無い状態だと見せつければよいのです」


アンリエッタの考えに、モリス侯爵は満足そうに頷いた。


「私もそれが得策かと存じます。どうせ全て隠しきれないのなら、こちらが情報を出して操作すればよいのですから」


「王女殿下のお相手は私が責任を持って務めます。その他政務の事等は引き続きモリス侯爵にお任せいたしますね。そして王宮医術師達は陛下の治療に努めて下さい。皆さま、陛下がお目覚めになるまで、力を合わせて乗り切りましょう。良いですね?」


「承知いたしました」「かしこまりました」

「御意に」


モリス侯爵と同じく寝室に集まっていたアーチーやリック、その他の側近達に医術師、そして侍従長らが口々に返事をしアンリエッタに臣下の礼を執った。


そしてそれに対しアンリエッタが頷くと、皆一斉に己の務めを果たすべく動き出した。



アンリエッタはベッドに横たわるエゼキエルに心の中で話しかける。


さらさらの髪をすくように撫でながら。



ーーエル。貴方が守ろうとしているもの、守りたいものを私も全力で守るわ。

だからお願い、早く目を覚まして……。




アンリエッタの願いも虚しく、

依然としてエゼキエルの意識は戻らなかった。


そうしてとうとう隣国から王女が来訪する日となる。



国境線を越え、王女殿下と随行した者達がオリオル王国ベルファスト領内に入ったと連絡を受けた。


そこからタイラーを始めとする辺境騎士団所属の騎士数名に伴われ、王女殿下御一行は特別な転移魔法にて王宮入りをした。


王女らしき人物の姿を認めると、

出迎えの為に王宮内の転移スポットまで赴いていたアンリエッタが一歩前に進み出て礼を執った。


「ようこそおいで下さいました。わたくしはオリオル国王エゼキエル陛下の第一妃アンリエッタにございます。王女殿下のご来臨を心よりお待ち申し上げておりましたわ。どうぞごゆるりとご滞在下さいませ」


アンリエッタがそう挨拶をすると、


エゼキエルに会いに来たという第三王女ヴィルジニーが軽く会釈をして返した。


「お出迎え感謝いたします。滞在中は何かと世話になる事と思いますがよろしくお願いしますわ。……それにしても、何故エゼキエル様のお姿が見えないのかしら?」



この場にエゼキエルの姿が無い事が気に入らないのか挨拶もそこそこに、ヴィルジニー王女が訊ねてくる。


その不満に思う心を隠そうとしない態度に、

コレはなかなかに気難しい王女かもしれないぞと

アンリエッタを気を引き締めて微笑んだ。



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