プロローグ アキラという少女。
修繕師系のほっこり人助け物語です。
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「さすがに『手先が器用』ってだけで、パーティーに置いておくのは限界だよ」
「そ、そうですよね……」
――それは、冒険者界隈ではよく見かける光景だった。
クエスト終了後や、何気ない酒場での会話中。そのパーティーの中で実力を発揮できていない人物が、爪弾きになるというものだ。もっとも今回の場合は、パーティーリーダーも渋々、といった様子ではある。
「色々と直してもらったし、それ相応の給金を支払いたい気持ちはあるんだけど。それだと剣は武器の専門家に頼んだ方が出来は確かだし……」
「……ですよね。大丈夫ですよ、言葉を選ばなくても」
「いや、本当に済まない。せめて今日は送別会を開くから――」
他のメンバーも、心から申し訳なさそうに頷いていた。
だが、解雇を言い渡される側の人物は首を大きく左右に振る。そして、
「だ、だだだだ大丈夫です! 僕、もう帰るので!!」
「あ、アキラ――行っちまった」
リーダーの制止も聞かずに、踵を返して走り去ってしまうのだった。
残されたパーティーメンバーはみな、顔を見合わせている。
「あの子、一生懸命なんだけど心配になるのよね」
「良い子なんだけど、良い子過ぎるというか」
「いまだって、生活は厳しいんだろ?」
そうして口々に、アキラという人物について語るのだった。
分厚いレンズの黒縁眼鏡に、黒のボサボサ髪をしている女の子。一見して少年のような出で立ちをしており、曰く祖父の残した服を着回しているとのこと。それだけ生活が厳しいのか、あるいはオシャレに興味がないのか。
その真偽は結局のところ不明だが、何かに向けて一所懸命なのは傍から見ても分かるほどであった。だからこそ、周囲も心配になるのだろう。
「本当に、大丈夫なのか……?」
そんなこんなで、メンバー全員が最後にそう漏らすのだった。
アキラという少女が消えていった宵闇に向かって……。
◆
「うううう、明日からどうしよう……」
――そんな元仲間たちの心配は、見事的中していた。
祖父の残した自宅へと戻ってきたアキラは、思い切り頭を抱えている。その理由というのも単純明快で、明日以降の生活費をどうするか、というものだった。
それ以外にも、新しい仕事を見つけなければならない。
だが、どれもこれもアテがない。
「うそ。僕の収入、低すぎ……」
結果として、雑多な部屋の中で膝を抱えるに至るのだった。
そして、そのまま時間だけが流れて。
「……うぅ。とりあえず、いつものアレやろうかな」
ふとアキラは、思い出したようにそう言って立ち上がった。
フラフラとした足取りで隣の部屋へと向かい、彼女には大きすぎる椅子に腰かける。その前には作業机があり、置かれていたのは――ひとつの小さな箱だった。
「お爺ちゃんの残した問題、頑張って解かなくちゃ」
そう言って少女は、集中力を高めて小箱の鍵開けに励むのだ。
それというのも、大好きだった祖父が残した遺品、そして課題である。幼い頃から祖父の仕事を手伝っていたアキラは、彼と同じ機巧弄りが好きだった。
機巧というのは、曰く『失われた古代の文明』だとか。
祖父が語ってくれた通り、世界には誰も仕組みが分からないものがたくさんあった。それを機巧と呼ぶかは知らないが、たしかに古いものであるのは確かだ。
しかし、使い道がないなら所詮はガラクタ。
祖父の趣味と仕事は、最期まで誰にも理解されることはなかった。
「うーん、もう少しなんだけど……?」
だが、アキラはその夢を追いたい。
そう思って彼に、弟子入りを志願したのだった。
そして最後の最後に手渡されたのが、この小箱である。見たところ、何の変哲もない金属の箱、であるように思われた。しかし、鍵穴の奥は複雑怪奇。
入り組んだ仕組みになっており、手先にだけは人一倍の自信を持つアキラでも難儀していた。これのために様々な工具を購入して試してみたが、どれも外れ。
「むー……」
終いには、生活費もままならなくなった。
それでも彼女は、この問題を解くことをやめない。そして、
「ここを……こう?」
ふとした拍子だった。
いつもとは反対方向に、工具を捻ってみる。すると――。
「え、えええ……!?」
――小箱から小気味の良い音が聞こえ、眩い輝きが放たれた。
その光はとても強く、目を開けていることも困難で。しかしアキラの視線は自然と、その小箱の中に吸い寄せられていった。
そうやっていると、彼女の身体に何かが入ってくるような感覚があって。
「こ、これって……!?」
厚底の黒縁眼鏡がズレて、円らな瞳が露わになるアキラ。
その瞳には彼女自身、信じられない光景が広がっていたのだった。
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