年が明けたらすべてリセット
正月は実家に帰った。
なぜかはわからないが、無性に帰りたくなったからだ。
長いこと電車に乗って、揺れる車内に閉じ込められていると段々と感覚がおかしくなっていく気がする。
いくつもの窓に切り取られた風景はどれもこれもが違って見えた。
スーツを着た男性がブラインドを閉めてしまって、世界は少し狭くなる。
自分が一瞬で通り過ぎていくあの町にも、きっと自分がいる。自分と同じ馬鹿で憐れなな男子高校生が、きっといる。
オーディオプレーヤーから流れてくるいつも聞いているはずの曲が、どこか違って聞こえた。
姉さんがいない世界で頑張っても、もう姉さんが僕を褒めてくれることはないから。「姉さんのため」みたいな言葉で、自分を騙し続けることに疲れたから。僕は人間ごっこをやめることにした。
冬休みが明けてから三木と相澤には、結と別れたことと、部活をやめることを伝えた。
顧問に退部届を出して、そのまま練習場所へ向かった。「あけましておめでとう」と新年にふさわしい晴れやかな表情で言っていた相澤の顔が途端に固まっていくのがわかった。
三木は「どうしてだ?」と見たこともないくらいこわい顔で尋ねてきた。
僕は言葉を探した。でも結の絶望にくらんだあの顔が一瞬頭をよぎった直後、僕の口はひきつった笑みを浮かべながら、勝手に動き始めた。
「普通の理由だよ。榛原さんは、僕のことを勝手にこういう人間だって思い込んでて、でも付き合ってみたら僕がほんとはヤな奴だって気づいて、愛想が尽きたんだ」
心の底から浮き上がってくる言葉は、嘘の中に本当を隠すような、とても卑怯なものだった。
「それで……なんか、部活とか、どうでもよくなっちゃってさ。このまま続けても迷惑かけるだけだから、やめようと思って」
相澤は今にも泣き出しそうな顔をして、「迷惑かけていいから、続けてよ、部活。つらいのはわかるけど……」と言ってくれた。
でも僕が一言だけ「ごめん」と絞り出したら、悲しそうな顔をして、もう何も言わないでいてくれた。
三木は、「椎名は、自分が思ってるほど悪い奴じゃねえって、俺は思うぞ」と言ってくれた。
僕にはそれが少し、苦しかった。
「ありがとう。でも、自信がないんだ」
そう言って、僕はとびっきりの愛想笑いをつくった。
三木はもう、何に自信がないのかを聞きはしなかった。
こうして僕の狭い交友関係は、あっという間にリセットされた。




