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【改稿中】地球から来た妖精  作者: 妖精さんのリボン
一章 森と家と遺跡
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星座

「おっ、これは!?」


 森を調べて回っていた俺は、野草を一つ一つ検索しているうちにこんなものの群生地を見つけた。




『タマニオン』

 タマネギのような野菜。そっくりだがDNA的にはそれほど近縁でもない。よく似ているが故にタマネギと同じく球根を食べる人が多いが、辛味が強くあまり美味しくはない。むしろ葉をハーブとして使うとタマネギの香りが食欲をそそる料理となる。




「よし、育てよう」


 美味しくないと書かれているが、タマネギはタマネギだ。タマネギはトマトやジャガイモに並ぶ万能野菜である(個人の感想です)。

 俺はいそいそとタマニオンを半分ほど回収すると、その群生地を克明に地図に記した。


 この地図は俺が普段メニューで見ているものではなく、地下室にあった製図用紙にトレースしたものである。


 製図紙とペンだけあっても工具が無いとな……と思っていたが、魔法の勉強に使ったり、To-Doリストを作ったり意外と重宝した。


 この調子で色々な食材が見つかれば、俺の食卓は豊かになるに違いない。……今のところタンパク質が希少なのが悩みどころだ。

 俺は昼下がりを過ぎた探索を切り上げて、家に帰ることにした。


 本日、異世界生活はついに十日目に突入しました。


 あれから、一日一ゴブリンを目標に体当たりでゴブリン狩りをしている。レベルも少し上がったが、相変わらず物理防御が伸び悩んでいる。


 ゴブリンの魔石の浄化に関しても、俺としては本の通りにやっているのだが、現在上手くいってはいない。


 とりあえず生活自体はできそうだということで、余っていた熟練ポイントは全部『魔法の才』に突っ込んだ。それで何が変わったかと言うと、正直言って劇的な変化は無いが。


 ただ、魔法大全はある程度であれば学習順が前後しても良いように作られているらしい。ちょっと難しいホーミング魔法はひとまず他所に置いて、今は魔力というものの実感を掴むために、魔力とは何なのかを中心に勉強している。


 魔力は人の心に反応するエネルギー体だ。そしてその魔力を効率よく扱うためには、「属性」というものへの理解が必要になる。


 この属性というものが少し難解なのだが、簡単に言うと魔力の性質のことだ。

 例えば火という属性を持つ魔力は、火に関連した変調をしやすい。つまり、火に関する魔法を使いやすい魔力ということ。


 この属性というものに焦点を当てて、効率良く大魔法を使うことを目的としているのが『属性魔法』である。


 属性には互いを打ち消しあう正反対の属性がある。火の属性は水の属性と対を成しているため、この二つの魔力を一緒に使うと普通なら魔法が上手く発動しない。


『以上の点から、魔力の強さと性質を計量化するとベクトルを使うやり方が一番適切です。火と水の属性ベクトルは互いに逆ベクトルの関係にあると言え……』


「だから、何で魔法の勉強なのに数学をやらされているんだ俺はっ!」


 魔法とは、『願いを叶える技術』である。そして願いというものは、ある程度具体的に抱かないと叶えるための方向性が定まらない。

 魔法を本当に使いこなすのであれば、魔法以外の知識、というか世界というものに対する深い理解が不可欠なのだ。


 俺が物理やら数学やらをついでに勉強させられているのも、その辺りに関係がある。

 魔法大全の目次を見てみると、星々の力を借りる星魔法なんてのもあるらしいんだよな。おそらく星魔法の章でも、この本はついでに天文学を勉強させてくるに違いない。


 しかし、星魔法には興味がある。俺、星を見るの好きだし。


「そろそろ日が暮れるな……準備するか」


 以前、娯楽を作ると言ったのを覚えているだろうか。


 もちろん、まともな工具もない現状であるから。何か複雑な道具を作ることはできない。

 だが人間は最初から、脳というこの世で最も複雑な道具を持っているのだ。こいつさえあれば娯楽を創造することは容易い。


 まあ、まずは夕飯だがな。


 かなりの量が集まった木の実をむしゃむしゃと食い、いつものように夕飯とする。

 毎日の食事は朝と昼と日暮れ前に、外で食っている。焚き火用の石の囲いを家の側で組んでおり、その近くで食べるのだ。


 この日はものの試しということで、タマニオンもついでに食べてみる。食事用のナイフでタマニオンを輪切りにし、よく洗った枝を菜箸代わりに、焼いた石の上で焼く。

 俺の鼻に強く刺さってくる香りは間違いなくタマネギのそれだ。本当に美味しくないのだろうか?


 表面が少し焦げたそれを、俺はぱくりと食べてみる。


「ぐぉえええ辛っっっっっ!?」


 これは毒だ。俺はたまらずタマニオンを吐き出す。

 おいこれ、辛味が強いってレベルじゃねーぞ。


 舌の上を硫酸が通って行ったかのようなビリビリした痛みが残る。ちゃんと火を通したはずなのに、生のタマネギの十倍は辛い。


 大人しく葉の部分をハーブにしよう。それか、念入りに辛味抜きをしないとな。


 何度か口をすすいでやっと立ち直った俺は、菜箸やら焚き火の火やらを片付けた。

 そして俺の家の屋根、つまり大樹の枝の先っちょに向かってふよふよ飛んでゆく。


 ここには枝を少し刈ってスペースを確保し、ちょっとした足場を組んでいる。

 と言ってもピクシーの身体でも寝転がれないほど小さいし、ロクな材料が無いので安定感も耐久性も無いのだが。


 俺はそこにちょこんと座り込んで、見晴らしの良い景色を眺めた。


 この世界には二つの太陽があるが、明るさは同じではない。まず強い光の太陽が沈み、空が少し暗くなる。その次に弱い光の太陽が徐々に朱色に変わり、地球のそれより真っ赤な夕陽となって地平線に溶けゆくのだ。

 逆に日の出は光の強い太陽から昇ってくるらしい。


 そして朱色の太陽が沈みきると、一体どこに隠れていたのかというくらいに、無数の星が空で輝きだすのである。

 寝転がれないので、ずっと見ていると首が痛くなるけどな。やはり近いうちにこの足場は拡張するとしよう。


「いやあ……どこへ行っても、星だけは見てみて飽きないな」


 もちろん、星を見ているだけで満足しているわけではない。

 俺は魔法大全に載っていた小さな灯りの魔法を唱え、手元の製図紙に星空をトレースしてゆく。この世界の星座は、地球のそれとは全く違うので、毎日少しずつ正確に描いてゆく。


 そして夜空の星座を観ながら、地球にあった神話のように自分で勝手に物語を作ってゆくのだ。


 例えば、東の空に浮かぶ八つの星。あれは蝙蝠に似ている。きっと奴は光が苦手なので、太陽が沈んだ途端、西とは反対側の東から空に現れるのだ。


 ん? 結局星を見ながらニタニタ妄想するのが娯楽なのかって?

 娯楽だよ。良いじゃん、俺は楽しいんだから。


「うーん、なんかこのカーブ、ゴブリンの曲がった背中に似てるんだよな」


 南の空にある、綺麗にカーブを描く五つの二等星……三等星か? あれはゴブリン座とでも呼んでやろう。一等星が一つもないところがそれっぽい。


 と、俺が星と製図紙を交互に見ていると。

 その声は突然聞こえてきた。


『隠しクエストが発生しました』


「んぁい!?」


 あまりに急だったものだから、ビックリしたぞ。

 何だって、隠しクエスト?


『【クエスト:星界の観測者】が発生しました。天に最も近い場所から星を観てみましょう』


「……」


 …………。

 ……………………。


「えっ、それだけ?」


 誰だよ、今の音声。男とも女とも判別できない機械のような音声だった。


 俺に何をさせようって言うんだよ。

 ……いや、天に最も近い場所から星を観させるつもりなのか。そう言ってるしな。


「ただ……何処だよそれ」


 天に最も近い場所というと、高い山とかだろうか?

 ここから見えるのだろうか。普段からマップ頼りで、あんまり明るいうちに辺りの景色を見たことが無いから、高い山なんてちょっと記憶に無いな。


「まあ、後回しで良いか」


 少なくともまともな攻撃魔法が使えるまでは、この森を動くつもりはない。


 一応To-Doリストに今のクエストとやらを書いた俺は、いったんそのことを忘れることにして星座を見続けることにした。

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