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【改稿中】地球から来た妖精  作者: 妖精さんのリボン
【改稿中】三章 萌えた大輪の花
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ゴブリンのダンジョン

 ところで、『ゴブリンばかりの洞窟』と『ゴブリンばかりのダンジョン』には明確な違いがある。


 洞窟はあくまでも洞窟だ。その中にいるゴブリンが全滅してしまえば、新しくゴブリンが来ない限りもうそこにゴブリンが生まれることはない。


 だがダンジョンは、魔物が自然発生する摩訶不思議な空間だ。よって中のゴブリンを掃討したとしても、時間が経てばまたゴブリンが湧いて出る。

 ダンジョン産のゴブリンも当然体内には魔石があるし、それはそのまま人間にとって資源となる。主に魔道具を動かしたり、単に磨いて宝石にしたり、色んな使い道があるのだ。これを見逃さない為政者はいない。


 特に危険の少ない、例えばゴブリンばかりのダンジョンなんかは最寄りの街が管理していることが多い。グルテンやもっと強い魔物も出るようならば女性や子どもの立ち入りができなかったりもするが、そこは住人が小遣い稼ぎによく訪れる場所なのだ。


 市民に金が入るため経済が回りやすくなり、街としても魔石はいくらあっても困らないので全員が得をしているというわけだ。

 以上、ラプンツェルの解説より。


 街から出て西へ。グリンダのダンジョンは洞窟のような造りになっている。特に階層構造になっているわけでは無いが、横よりも縦方向への穴が多く、落下には十分注意するようにとのこと。


「もちろん、不用意に穴を登ったりもしないように。何かあってもじっとしていれば救助が派遣されますから」


 ダンジョンの入り口に併設された案内所で、俺は職員から説明を受けていた。

 このダンジョンは街の所有物なので、そこから出た魔石は全てここで買い取っているそうだ。もちろん、魔石以外のお宝は各自で持ち帰っても構わないらしい。


 ここはあくまでもダンジョンであって、洞窟ではない。落盤や天然ガスなどの危険は基本的に起こり得ない場所なので、何かあったらとにかく動かず魔物に気づかれないようにすること、と俺は強く言われた。


「それと……魔法使い、なんですよね。杖はどうされましたか?」

「うーん、それさっきも聞かれたんだが、別に杖が無くても魔法は使えるぞ」


 パチン、と指を打ち鳴らして、俺は人差し指の先に小さな火を点けた。


「おや、失礼しました。魔法にはあまり詳しくないもので」

「逆に聞くんだが、魔法ってのはあまり一般的なものじゃないのか?」

「イエスとも言えますし、ノーとも言えますね。まさに今普及しているところ、と言いますか」


 ふむふむ。科学で言うところの啓蒙時代にでも入っているのだろうか。


「田舎者にも詳しく教えてはくれないか。俺の村じゃ隠居しに来た魔法使いのじいさんがみんなに魔法を教えてくれたんでな。そんなに珍しいものじゃなかったんだよ」

「ほんの三〇年も前には、魔法なんて庶民にはあまり馴染みが無かったそうですよ。当時の魔法使いは基本的に秘密主義で、その技術は全て弟子達のみが継いでいたそうです。その流れが変わったのは、幼年学校が出来てからですね」

「幼年学校?」


 幼年学校とは、王都や、エルトアールみたいな主要都市に建てられた学校のことらしい。その都市に戸籍を持つ子どもは全員二年間学校に通わなければならないという、義務教育制の実験的導入のために建てられたようだ。グリンダには無いが。

 そこで、魔法についても教えているらしい。


 だからもう二〇年もすれば、魔法は庶民にも広まっているんじゃあないですかね、と職員は言った。この国だけじゃなく、他の国も似たようなことはしているみたいだ。


「ふむ。それは歴史が動いているのかもしれないな。畑作りも、魔法が無かったらと思うと考えられないくらい大変だったろうし」

「魔法は畑作りにも使えるんですか!」

「料理にも家事にも使えるさ」

「うーん、学ぶ機会が無いのが残念です。あなたはラッキーでしたね。今、時代の最先端に居ますよ」

「はっはっは、嬉しいこと言ってくれるじゃないか」


 実際、グリンダでは全然魔法の気配を感じなかったからな。各国が主導しているのなら、この街に魔法がやってくる日もそう遠くはあるまい。


 ゴブリンの魔石は、一つで五〇ゴールドらしい。グリンダの街のごく一般的な宿が二人一泊でだいたい五百ゴールドだとノローマさんが言っていたので、この街に居る間にその二ヶ月分くらいは稼いでおきたい。となると、600匹か。……案外あっさりいけそうじゃね?

 一通り説明を受けて、俺はダンジョンへと向かう。


 もっといかつい武器を担いだいかついお兄さん達でごった返している様を想像していたが、あまり人の気配は無い。

 そんなのはごく一部の高難易度ダンジョンの話。ダンジョンはこういう街の経済を陰から支えている小規模なものが大半なのだ。


 そして少し歩くと、すぐにゴブリンの群れとかち合った。


「よっ」

「「グェ〜〜!」」

「ほっ」

「「「ギェア〜〜!」」」

「ひっさつわざを選んで、左、右、左、A!」

「「「「ゴゴン!」」」」


 はい、撲滅。

 ん? 良いじゃないか、ゴブリン狩りなんて今更長々と書き出すようなことでもあるまい。


 いやあ、レベルを上げてきた甲斐がありましたよ。


 さくっと解体して、魔石をほじくり出す。ゴブリンに関しては野生(?)産でもダンジョン産でも、右胸に魔石があるのは変わらないようだ。


 うむうむ。今ので9匹。一週間もあれば集められるな。


 俺はナイフを構え魔法の準備をしながら、薄暗いダンジョンのさらに奥へと入ってゆくのだった。


 ――――――


 ジャラリ、と案内所のカウンターに置かれた袋には、一杯の銀貨が入っていた。その額は五千ゴールド。

 キリ良く百匹倒したところで、俺はダンジョンから帰還した。ダンジョンからは財宝などが産出することもあるらしいが、今回は見つからなかった。職員曰く、ゴブリンしか出ないような小規模ダンジョンでそんなお宝が見つかることはほぼ無いらしい。ちょっと残念だ。


 まあ、お宝はお好きにどうぞと言われている時点でなんか引っかかりは感じていたが。


 俺が百個もの魔石を持ち帰った時、職員はかなり驚いていた。普通の旅人は宿一泊分の十匹程度しか狩ってこないので、若く見える(おそらく身長のせい)俺にそんな実力があるとは思わなかったらしい。


 これでももうすぐ28なんだがな、と言うと、職員はえっ年上でしたか? と目を丸くした。


 ちなみにゴブリンは無限に湧いて出るとは言っても、一日のリスポーン数には限度があるようなので、あまり狩りすぎないように、とのことだ。

 グリンダのダンジョンの場合、一日あたり最大で三百匹くらいしか湧かない。さらに、ゴブリンを乱獲しすぎると次第にリスポーン数も減ってゆくようだ。


 この時期はまだ旅人もあまり来ないので、百匹程度なら俺一人で毎日倒しても良いとのこと。


「お節介になるかと思って魔石の浄化はしなかったが、良かったか?」

「魔石の浄化って、専門的な知識が要るんじゃ」

「そんなことは無いぞ。まあ魔力と瘴気の扱い方がわからないといけないから、練習は必要だがな」


 その辺も各国が作り始めたという幼年学校とやらが広めてくれると期待しよう。


「あなた、大物になりますよ……。何にしても、こちらは公の商売ですからね。浄化をやってもらう以上は、あなたに報酬を出さねばなりません。そして、私に公の金を勝手に動かす権限は無いので」


 まあ、そうだろうな。俺とて顔も知らぬとはいえ浄化術師たちの仕事を奪う気はない。


 ちなみにダンジョン産の魔物は、死体をダンジョンの外へ出すと一日と保たずに消滅してしまうらしい。不思議だなあ。なので今回の利益は、魔石による五千ゴールドだけだ。


「なあ、ダンジョン以外で取れた魔石も買い取ってくれるのか?」


 おれはふと思いついて言った。ゴブリンの魔石ならストレージに数千個ほど残っているので、全て手放せばかなりの金額になる。

 宿が一泊五百ゴールドとのことなので、日数にして約一年分。めちゃめちゃ大金だ。


 まあ、一度に大量の魔石を売ったら値崩れしかねないので、そんなことはしないが。


「そういうのは民間の商店にお願いしますね」

「やっぱりそうか」


 このダンジョンを街が管理しているのは、街が活動するためのエネルギー確保のためだ。営利目的でないとは言い切れないが、利益は二の次なのである。


 俺は親切に色々と教えてくれた職員にチップを払おうとしたが、そういうのは受け取れないと突っ返された。真面目な青年だなあ。こういう人がいると安心するぜ。


 俺は職員に謝罪して、案内所を後にするのであった。

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