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【改稿中】地球から来た妖精  作者: 妖精さんのリボン
二章 嵐の中の来訪者
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変化のネックレス

 とにかく黙って俺様を飲め、というワインのオーラに忖度して、しばし無言で至高のワインを堪能すること十分。

 酔いがまわったのか、お腹が満たされたのか。いよいよ電池が切れたラプンツェルはコテリと寝てしまった。

 少し気分が良くなった俺は、謎の美少女に話しかけた。


「俺はドリア・ポーリュシカって言うんだが。ところで君は、どこのどちら様で? こんな夜の森の中に何の用だ?」

「ああ、これは申し遅れた。ケオスコスモス・ギフト・フォン・アルカルド伯爵だ。こんなナリでも、正式に家督を継いだアルカルド家の末裔である。まあ、共に酒を飲んだ仲だ、コスモスとでも呼んでくれ」


 アルカルド伯爵はそう名乗って整ったカーテシーを披露する。


「ほほう、貴族様だったか。若いのにやるじゃん」

「そんな立派なものではないさ。実務を部下に任せて、こんな夜の森の中をほっつき歩いているような当主だ」


 追加のワインを注ぎ、くぴっ、とまた一口飲む伯爵。


 すっかり夜も更けて、月が高く昇った。こんなに遅くまで起きていたのは異世界に来て初めてかもしれない。

 いや、一度だけあったか。おおよそ十ヶ月前に……。


「そう言えば、東の遺跡で君たちを見かけたのだよ」

「おっ、そうだったのか。全然気づかなかったぞ」

「ずいぶんと熱心に宝探しをしていたようだったし、私にもやることがあったからな。声はかけなかった」


 ササミの肉を串に刺して、俺は火に当ててゆく。ぱちっ、と薪が爆ぜて火花が散った。

 この森にいるうちに、炭作りもやってみれば良かったかなあ。なんだかこうしてみると、俺はまだこの森に未練があるのかもしれない。


 しかし、俺たちはもう決めたのである。ラプンツェルの故郷を探して旅に出ると。


「どうだ、何か面白いものはあったか? 宝石なんかはどうだ。これでも私は宝石の鑑定に関してはそれなりに自負心があるのだが」

「宝石ねえ。そういや、ネックレス型の魔道具があったんだよ」


 俺はストレージから例のネックレスを出して、伯爵に見せる。一言目こそ彼女は、宝石に関しては普通だなと告げたものの。その正体が分かったのか、暗い火の明かりでも分かるほどに顔色を変えた。


「これは、変化のネックレスじゃないか。なんて珍しいものがあんな遺跡に」

「そんなに言うほどの品なのか?」

「うむ……かつて月詠の民が手がけたとされる逸品だ。見た目だけではなく、装着者の身体構造まで変えてしまうのだよ」


 えっ、なにそれ凄くね?

 なるほど、つまりネズミに変身して敵の根城に潜入したりといった芸当ができるのか。そりゃ間違いなくスパイ道具ですわ。


 同時に、演劇関係者が欲しがるのも分かる気がするぜ。カキワリなんかじゃなく、本物のドラゴン(に変身した役者さん)を舞台に出すことができるのだから。そのリアリティは非常に高いに違いない。


「これは一つしか無かったのか?」

「いや、二つあったよ」

「なら丁度いい。これは大切に持っておきなさい」


 伯爵は変化のネックレスを丁重に俺の手へ返した。


「それを着ければ、人間やワービーストにも変身できる。ピクシーは長年他種族と関わりを断ってきたからな、もはやピクシーの存在を知っている者も少ないだろう。街に入ることがあれば、それが有れば面倒はあるまい」

「おお、なるほど。それは参考になる」


 それに関してはラプンツェルとも相談しておこう。


「いかんな、少し長居しすぎてしまった。私は用事があるから、もう失礼するよ」

「こんな夜中に大丈夫か? ウチで良ければ泊まって行っても良いぞ」

「ありがとう、だが私は夜型なので大丈夫だ。残りのワインとグラスは差し上げよう。これでお暇する。焼き鳥、美味かったぞ」


 伯爵は豪華な椅子を亜空間に仕舞うと、まるで森歩きに適していない服装にもかかわらずスタスタと闇の中へ消えて行った。


 俺は伯爵の残したワインをもう一口分注いだ。いかんせん瓶が人間サイズなので、溢さないよう慎重に。焼き上がったササミをじっくり堪能し、次を焼こうとして、俺はすでに自分の腹が一杯になっていることに気がついた。

 ラプンツェルも寝ちゃったし、俺もそろそろ寝ますかね。


 またかつてのようにラプンツェルを担いで、すぐそこにある家に帰宅する。ふわりと浮遊して、ラプンツェルを二階の部屋に届ける。


「なんか、この寝室、ずいぶんと様変わりしたな」


 自給自足生活ゆえ、決して物がたくさん増えたとかでは無いのだが。壁一面に醤油の作り方や発酵実験の結果が貼られており、ラプンツェルがいかに頑張って醤油を作ってくれたのかがよく分かる。


 女性の部屋に長居するわけにもいかないので、ラプンツェルをベッドに寝かせてさっさと退室する。


 寝る前に、少しシャワーでもと思い、俺は脱衣所へ向かった。脱衣所にはもともと鏡は無かったが、三年前に旧カンデラ遺跡から見つけてきた比較的綺麗な鏡を俺が手直しして置いてある。


 鏡に写るのは、ピクシーとなった俺の姿。哺乳類ではなくなり、精霊の一種になった俺には、もはや乳首とヘソは影も形も無い。人間と違って胎盤も無く、乳で子を育てることもしないのだろう。


 イチモツはちゃんとあるんだがな。生殖方法は人間と変わらないのだろうか?

 気になるところではあるが、その辺りをラプンツェルに尋ねるのはちょっとな……。もうすぐ28のおじさんが妙齢の女性に子作りを学ぶとかアウトだろ。


 ラプンツェルは優しいし、俺の出自を知っているから、丁寧に教えてくれるであろうけれども。俺のメンタルのほうが多分耐えられないんじゃないか?


「……もうピクシーのことを知ってる人も少ない、か」


 ふと、伯爵の言葉を思い出した。

 伯爵は、どこで俺たちピクシーのことを知ったのだろう。歴史ある貴族の末裔なら、ピクシーについて書かれた古い文献でも所有しているのかもしれない。


 ……アレ、もしかして彼女、ペクセィ大陸への手がかりを知っていたんじゃね?

 やっべ、今から追いかけるか? でもすでにしっかりじっくりワインとササミを堪能してしまったし、なんならゆっくりゆったりシャワーを浴びるところであった。どれだけ離れてるかも分からんし、伯爵がどっちへ行ったのかももう覚えていない。


 こういうのがあるから、酒は困る。いつものように考えて動くことが難しい。特に俺は酒を飲むとアホになるきらいがあるので、日頃から注意したいものだ。


「てか、冷静に考えたらあの美少女、ツッコミどころありすぎじゃん」


 旧カンデラ遺跡に何の用事があったのか。ここから森の出口までは百キロ以上あるのに、なぜこんな奥深くまでドレスでやって来たのか。


「……まあ良いや。レディの謎は探らずにおくのが紳士の心得よ」


 どうせ、もう会うことも無いだろうしな。


 俺は明日からの旅立ちに備え、浴室のドアを潜るのであった。

次話でいよいよ二章完結です。

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