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【改稿中】地球から来た妖精  作者: 妖精さんのリボン
二章 嵐の中の来訪者
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旧カンデラ遺跡とドリアの発見

「ドリア、ローズコブラはどうなったの?」


 少し休んで気力が回復したのか、ラプンツェルはしっかりした足取り――いや羽取りか?――とにかく安定した飛行軌道でドームから中へ降りてきた。


「ああ……倒したよ。さすがに死んだと思う」


 つい歯切れの悪い言い方になってしまったが、確かにローズコブラは討伐した。


 落下の衝撃で床を突き破った奴は、下の階で伸びていた。その腹部に、俺は十本以上の氷の槍を突き刺したのである。

 たまたま心臓を貫いたのか、ただの失血死か。見た目ではわからないが、今はもうピクリとも動かなくなった。


「えーっと……にしては喜びが足らないような気がするんだけど」

「いや、嬉しいよ? ただちょっと困惑してて」


 実はな、と俺は前置きして、横たわるローズコブラの遺体を見下ろした。


「このホールってさ、一階じゃん」

「そうね」

「俺が調べた時はな、この遺跡、地下なんて無かったんだよ」


 もちろん、探索の途中でローズコブラに占拠されたので、隅から隅までみて回ったというわけではないが。それでもレベルが15になるまではこの遺跡でゴブリンを狩り続けたくらいだ、それなりの時間は探索した。


 ラプンツェルは下の階に落ちているローズコブラを見た。


「下階、あるけど?」

「うむ……だから、おどろきとまどっていた、というわけでな」


 俺がそう言うと、ラプンツェルは確かに知らないかもねと前置きして、俺に告げた。


「あのねえ、劇場の下には、演出のための様々な仕掛けや舞台道具を隠しておく『奈落』と呼ばれる地下スペースが必ずあるのよ。演劇関係者でもなきゃ知らないでしょうけど」

「え、そうなの?」

「まあ普通は一般の人には分かりにくい位置に入り口があるから、気づかなかったのも仕方ないわ」


 ラプンツェルは高度を下げて、照明魔法を起動しながら奈落を覗き込んだ。

 ローズコブラの身体からは未だに血が流れ、奈落に血だまりを広げ続けていた。


「うーん。でも奈落にしてはずいぶん広いわね。倉庫、あるいは避難通路とかを兼ねていたのかしら?」

「まあ、木造の建物なら火への備えくらいしているだろうな」


 基本的に火や煙は上へ上へと広がってゆくので、地下に避難路を作るというのは間違ってはいない。

 いや、別に防災学に詳しいわけじゃないから、それが正しいのかは知らんが。ただ、この世界のかつての人々が地下は安全だと考えたことは、不自然なことじゃないと言いたかったのだ。


「よし、降りてみましょう。何かあるかもしれないわ」

「戦闘の直後だぞ? 少し休んだほうが……」

「大丈夫よ。もう回復したし。ドリアは休んでいても良いわよ」


 そう言うとラプンツェルは何のためらいもなく地下へと降りてゆく。やれやれ、この子は思いつきで行動するタイプなんだよな。


 まあ、俺は紳士だからな。危険かもしれない場所にレディを一人突撃させるわけにはいかないのだ。


 俺はローズコブラをストレージに入れるためにも、とにかく地下へ向かうことにした。


 ――――――


 とか何とか言いつつ、俺は宝探しに乗り気になっていた。

 二人でがめつく奈落を探索していると、ラプンツェルが何か見つけたらしく俺を呼んだ。


「ねえ、これ銀食器じゃない?」


 そう言うラプンツェルの手には、光沢を放つ黒い食器が。


「何っ。おお、結構黒ずんでるが確かに銀だな」


 まあ、銀なんて重曹つけて磨けばいくらでも綺麗になるさ。

 サイズが人間向けであり、俺たちピクシーには大きすぎるのが気にはなるが。しかし、銀さえあれば錬金魔法で溶かして再び俺たちの手に合う食器に作り変えることができる。


「俺のほうも、すごいものを見つけたんだ。これ見てみろよ」


 俺はストレージから探索の成果を取り出して見せた。


「あら、派手な服。これは舞台衣装かしら。ずいぶんと状態が良いわね」

「なんかこれだけガラスケースに保管されていてな。地下にあったおかげか色褪せてもいないんだ」


 俺が見つけたのは、首なしマネキンに着せた真っ赤なドレスだ。

 材質は多分サテン系だろう。胸元と背中が大きくブイ字に開いたイブニングドレスだ。遠くから目立つ過度な、しかし見事な装飾が施されていることから、やはり役者たちの衣装なのだろう。


 胸や背中を見せているあたりが礼服のデコルテに近いが、肩はモコモコした……鎧の肩当てみたいにこんもりした布の塊が覆い隠している。何て言うんだっけ、こういうドレスのこんもり。


「ある種貴重な資料になるかもしれないわね……ペクセィ大陸に帰ったら、買い取っても良いかしら?」

「そりゃもちろん」


 俺はとりあえずドレスをストレージに突っ込んだ。


 その後も宝探しを続けたが、所詮は劇場の舞台裏、べつに金銀財宝があるわけでもなく、見つかるのはガラクタばかりだった。


「はっはー、こんだけボロボロだと貴族の衣装だったのか、貧民の衣装だったのか分からんな」

「あら、井戸のセットね。すぐに組み立てられるようになっているわ」

「『ベルゼラの舞踏会』? おっ、もしやこれは台本か!? ……って、虫食いと落書きと座長の悪口だらけでまともに読めねえぞ」

「なんか外見だけ大層で何の魔力も感じない杖ね……魔法使い役の錫杖かしら」


 当然だが、ここはあくまでも劇場の奈落。そこにあるのは芝居で使う外見だけはよくできた偽物ばかりで、あまりめぼしいものは無い。


「……ん? 何だこの引き出し。開かないぞ」


 あらかた探索し尽くした時、俺は一つの無骨な棚を見つけた。


「何よ、鍵でもかかっていたの?」

「いや、鍵穴は見あたらんのだがな。なぜかこの段だけ開かないんだよ」

「待って。もしかしてこの棚魔法がかかっているかも」


 ラプンツェルは棚からぴったりと出て来る気配のない引き出しを引いたりノックしたりして具合を確かめると、棚に魔力を流した。


 すると、パリン、と乾いた音がして、するっと引き出しが早くようになった。


「すげえ」

「これくらい拙い魔法錠であれば、ピクシーの子どもがよくスパイごっこをして開け合ってるわよ。それで、中は?」


 そこに入っていたのは美しい宝石を使ったお揃いの二つの装飾品だった。形状的にネックレスだろう。

 偽物のガラス玉かと思ったが、この輝きようはどうもちゃんとした宝石に見える。

 俺はこのネックレスを、ディクショナリーの画像検索にかけてみることにした。




『変化のネックレス』

 身につけた者の姿形を変える魔道具。かつて大きな戦争で使われたスパイ道具で、現存するものは極めて少ない。




 なんと、このネックレスは魔道具だったのか。

 俺は検索の結果をラプンツェルに伝えた。


「大きな戦争、ねえ」

「当然ながら、この世界の歴史は全く知らんのでな。何か心当たりは?」

「さすがに年代も戦場も具体的な規模も分からないんじゃ、何とも言いようが無いわよ」


 そう言えばゲームの中にも、かつて大きな戦争があったという設定がある。

 と言っても、ストーリーを円滑に語るための形ばかりの設定だがな。実際にプレイしても、戦争を匂わせる要素はほとんど登場しなかった。


「スパイ道具が何でこんなところに」


 どう考えても劇場にあるような品じゃないんだが。


 ……いや、待てよ。姿形を変えるなんて、まさに演劇のためにあるような道具じゃないか。

 戦争が終わった後、この劇場が不要になったネックレスを引き取ったのかもしれないな。


 しかし、現存数が少ないのであれば、これは貴重な魔道具に違いない。


「何にせよ、アタリはこのネックレスと銀食器とドレスだけか」

「そうね。……そろそろ日も暮れるだろうし、帰りましょうか」


 そう言うラプンツェルは大魔法を使ったときのようにふらふらしていて、少し眉が寄っている。だから探索は今度でも良いと言ったのだがな。


 しかし確かに、ローズコブラが開けた大穴から入ってくる光量は、かなり少なくなってきた。

 俺はふらつくラプンツェルにそっと肩を貸すと、帰宅するべくドームの外へ向かって飛び上がった。

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