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【改稿中】地球から来た妖精  作者: 妖精さんのリボン
二章 嵐の中の来訪者
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けっせん!ローズコブラ 後編

納得いかなくて何度も書き直してたら何故か日が暮れていました。


これが相対性理論……!(違う)

 ローズコブラが魔法を使う。俺はその可能性をすっかり失念していた。


 魔物は瘴気をコントロールするために、魔石という形で魔力を保有する。ということは、魔物は瘴気と魔力の両方を扱えるということではないか。


 もちろん魔力を消費しすぎると瘴気のコントロールが効かなくなるので、普段は魔法を使わないんだろうけれども。こうして命の危機を感じれば、魔法を使って対抗してくることもあるのだろう。


「回避なら任せて!」


 ラプンツェルの取得しているスピードエインセルは、その速さに関してはニンフに勝るとも劣らない。というかフツーに今の俺より速い。


 魔銃を構えたラプンツェルは銃弾のようなもの(主成分は魔力らしい)を続けて二発撃った。

 ローズコブラに命中した銃弾のようなものは奴の注意を引くには十分な力があったようで、ローズコブラは発射直前になって標的を俺からラプンツェルへ変更した。


 この銃弾のようなもの――もう銃弾でいいや――銃弾には魔法を刻むことができて、攻撃はもちろん、着弾した対象を弱体化させたり回復させたりといった芸当もできるらしい。

 なんか、ゲームの時より銃が発展してね? いや、今はありがたいけど。


 銃弾の魔法はおそらく相手に強い不快感を与える効果があるものを選んだのだろう。でなきゃ小石より小さな銃弾が当たったくらいでローズコブラが取り乱すわけがないからな。


 ローズコブラの口からラプンツェルに向かって飛び出した岩石砲は、危なげなく回避したラプンツェルの横を通り抜けて森を山なりに消えていった。


「あれっ。そういえば攻撃魔法って普通、追尾機能が付いているんじゃないのか?」


 魔法は原則、指定がない限りは物理法則に従わない。普通に攻撃魔法を使うと、魔法が星の自転に置いてゆかれて、術者から見ると明後日の方向へ飛んでゆくのだ。

 かといって自転に沿うように魔法を飛ばすと、慣性の法則を術式の中に定義したりとしち面倒な変調が必要なのだ。


 だから、攻撃魔法は対象を自動追尾するように術式を組むのが一般的、のはずなのだが。

 まあ、所詮は魔物だしな。攻撃手段として成立していればそれ以上改良することもしないのだろう。


「むう。追尾機能が付いているなら、岩石を誘導してローズコブラにぶつけようと思ったのだがな」


 あれだけデカければローズコブラにも良いダメージが入るに違いない。


「悪い、ラプンツェル! ちょっと考えがある。そのまま引き付けていてくれ!」

「なるべく早くね!」


 俺は第三射を撃つ姿勢を見せるローズコブラをラプンツェルに任せて、俺は一旦ホールの目立たない場所に隠れる。


 奴のMPがどれだけあるのかは分からないが、岩石砲を回避し続ければ集中力も欠けてくる。もともとピクシーのステータスで持久戦をやること自体が高リスクなのだ。


 やはりここで、もう一発何かをぶちかますしかない。

 とは言え、また腹板を狙って氷を突き刺すには、奴には隙が無さすぎる。


 しかし幸いにも、アイデア自体は既にいくつか浮かんでいた。


 例えば、焼畑をする時に使った火の玉の魔法。あれはかなりの破壊力が出ていた。


「畑作りに使った巨大な火の玉は、木造の遺跡じゃ使えない。なら、何か他のものをぶつけるか?」


 ローズコブラと同じ岩石砲は、ナシだ。土の魔法は、周囲に土がないと使えない。魔法で無から土を生み出すことはできるが、匙の一杯分を生み出すだけでMPがごっそり持っていかれるだろう。


 じゃあなんでアイツは土の無いところで岩石砲が撃てているんだという話になるんだが……あれはおそらく本物の土じゃない。土の色をしていて、質量がバカでかいだけの魔力の塊。

 だから正確には、魔力砲というべき魔法なのだ。


 魔力という目に見えない、つまり存在感の無いものは質量を持たせようと思っても上手くゆかない。それをぶつけてもあまり生物にダメージは無いのだ。

 だからこそ、岩石のもつ存在感で魔力の存在を補強しているのだろう。


 原理としてはおそらくそんなところだろうが、今すぐ奴の魔法を再現できるかと言うと……ちょっと無理があるな。やれやれ、初めて見た魔法でも再現できるようにならないと、一流の魔法使いとは言えないな。


 やはり、十八番でもある氷の塊をぶつけるべきか? 氷の材料となる水は生み出すのは簡単だし。ただ、そんなに大量の水は生み出すだけでかなりのMPを使う。一発の氷塊砲を撃つのに、水を生み出すだけで100くらいは消費するんじゃないか?

 漫画の中なら、異能力少年が空気中の水蒸気を凍らせてくれるから楽なんだがな。アレ実は、実際にやった場合、屋内だと大して強くないんだよ。


 例えば学校の体育館の空気から氷を作ったとしよう。体育館の体積はおよそ二万立方メートルだ。

 たいていの学校の体育館は、バスケのコートが二つ分入るように縦と横を、バレーボールをしても支障がないように高さを決めているからな。この条件を十分満たすのがだいたい二万立方メートル前後なのだ。


 体積二万の空気から作られる氷は、温度や湿度次第だが多くても四百キロ。おおっすげえ、と思った奴は良く考えて欲しい。水は一リットルで一キログラム。水と氷の重さは違うが、今回は誤差だ。

 たった・・・四百リットル分の氷だぞ。一人用お風呂がだいたい半分の二百リットルだぞ。野外と変わらないほど換気が良い屋内でない限り、一度空気中の水蒸気を使い切ったら、もう氷を補充できないんだぞ。


 雑魚くないか、その異能力?


 ……めちゃくちゃ脱線はしたが、とにかく。普段のゴブリン狩りで撃つ小さな氷ならまだしも、巨大な氷をぶつける場合、弾数にはあまり期待できないということだ。


「ものをぶつけて攻撃する場合、重くて速いほど攻撃力は上がる。ぶつけるものを重くするか、スピードをつけるか」


 あるいは、蛇の弱点を利用するという手もある。

 別に、蛇にここを叩くと弱いという場所があるわけではない。蛇の変温動物としての性質を利用する。


 要は、蛇は寒さに弱いのだ。だから冬眠するし、冷えると動けなくなる。


 結局氷じゃないか! と思うかもしれないが、実は空気を冷やすだけなら氷なんて必要はない。もっと単純な物理現象がある。


 君たちの部屋には、エアコンというものがあるじゃろ?


「ラプンツェル、作戦が決まった! ダウンバーストの逆をやってくれ!」

「逆ぅ!? ……そこから空気を奪うつもり? さすがに生物を窒息させるほど空気を抜くなんて相当な大魔法になるし、そもそも魔物は生きるのに酸素をほとんど必要としないのよ!」


 マジで? めっちゃエコじゃん。


 いや、今の何気に重要な情報だぞ。全然知らんかった。今後のために覚えておこう。


「大丈夫、空気は薄いと冷たくなるんだ! エアコンもそうして冷たい空気を作って部屋を冷やしてる!」

「エアコンって何!? でもそうか、蛇を冷やしたいのね!」

「俺は結界魔法を使って、空気を通さない壁で蛇を丸ごと覆う! ラプンツェルは結界から空気を抜いてくれ!」


 高校で習う、ボイル・シャルルの法則という言葉を覚えている人も多かろう。気圧は空気の量に比例するので、空気がめっちゃ薄くなれば、温度はめっちゃ下がるのだ。

 結界魔法なら、農業で何度も使った。改良も数十回と重ねたし、即席で新しい結界ぐらい作ってやるよ。


 ラプンツェルが魔法銃でローズコブラを引き付けている間、急いで空気を遮断する結界を作り上げる。何、簡単だ。窒素と酸素と二酸化炭素とアルゴンと水分を通さないよう設定すれば、それは実質空気を通さない壁と一緒だ。


 洗濯魔法で汚れ物質の指定に難儀したのは、汚れ物質の種類が膨大すぎるからであって、たった五種類の物質を指定することなら簡単にできる。


 そして結界は空間上に境界面を作るだけの魔法なので、生きものを通さないみたいな大そうな効果ならまだしも、たった五種類の物質を通さない結界であれば実はそんなにMPは必要ない。


 ちなみに、もし結界でローズコブラの身体を分断して真っ二つにできたら話は早いが、そんなにうまくはいかない。生きものの身体には外界から直接魔法を使われると強い抵抗を発生する仕組みが備わっているのだ。

 要は、例えばローズコブラの身体の中に直接炎を発生させて中から焼いてしまおうという真似は、極めて難しいということだ。


「よし、これならいけるぞ。五種のエレメントを絶て!」


 即席の呪文を唱え、結界を発動。ローズコブラの周りをぐるりと囲うように、空気の主成分を通さない壁が出現した。


「ラプンツェル、こっちは大丈夫だ!」

「分かったわ。銃を渡すから、奴を引きつけて」


 ぽいっ、とラプンツェルが放った魔法銃は、俺に向かって落ちて、足元にころりと転がった。

 念のために、魔法銃はラプンツェルから借りてある程度練習してある。と言っても、難しいのは銃弾に刻む魔法を変更する技術の部分であり、使うだけなら単に魔力を流してよく狙うだけで良い。


 幸いにも、射撃には経験がある。


「おうい、こっちだローズコブラ!」


 引き金を引いてローズコブラを結界越しに数発撃つ。すると奴の狙いが再び俺に向き、岩石が飛んでくる。

 とりあえず銃をストレージに突っ込んで、俺は結界の維持と回避に専念した。


 正直言って同時にやるような簡単な作業じゃないんだが、ワンダーニンフなんて形態を貰ったのだ、これくらいの魔法制御は片手間でやってみせる。


 ローズコブラは結界に気づいてないのか、その場から動こうとしない。まあ、例え結界から出ようとしても、身体の水分が通り抜けられないからすぐには出られないんだがな。


 生きものを外に出さない、と設定すると消費MPが跳ね上がる。マルチプロセス化は基本のテクニック。水分を出さないと設定することでリソースはずっと節約できる。


 まあ、集中していないと、岩石砲まりょくのかたまりが結界を通り抜けるたびに岩石に干渉されて結界が不安定になるので、いつかは俺の集中力が切れるんだがな。ラプンツェルの詠唱が終わるまでは耐え切ってやるよ。


 そうしてここ二年間で一番脳みそを覚醒させること一分、上空のラプンツェルから詠唱が終わったという報せを受けた。


「結界は上面だけ開けてある。そこから空気を出せ!」

「ええ。全てのMPを使い切ってもやってやるわ。『リバース・ダウンバースト』!」


 ブォォオオオオ!


 ……みたいな音がすることは無かったが、一気に空気がなくなったことに気づいたローズコブラの反応は顕著だった。


 怒り狂って次々飛んできていた岩石砲が、ピタリと止んだのだ。そして、ローズコブラの動きが明らかに鈍くなっている。

 気圧が下がり始めたことで相対的に血圧が上がり、腹部の傷からどんどん血が噴き出した。

 結界の中の床には霜が降り始め、ぐんぐん温度が下がっているのは明らかだった。


「シ……シェーー」


 ローズコブラはこの寒い空間から脱出したいと結界にぶつかってきたが、身体に水分がある限り奴は結界に弾かれる。


 しかし、こちらも大量の水分が通り抜けようとした反動で、一気に結界が不安定になる。

 もう岩石砲の警戒をしている余裕は無い。集中力を結界の維持という一点に注ぎ込み、絶対に水分ローズコブラを外へ出さないように踏ん張る。


 すぐにローズコブラは結界にぶつかることもままならなくなり、ぐったりし始めた。悪化した出血で血を失ったことも響いているのだろう。


 あとはローズコブラを冷やせるだけ冷やしてから、二人でタコ殴りにすれば討伐完了だ。俺はそう思った。


 だが、手負いの生き物相手に油断をしてはいけなかった。


「しぇーー……シェー!!」

「……っ!?」

「なっ、ラプンツェル!」


 空気の流れから、上に逃げ道があると本能で判断したのかもしれない。ローズコブラは全身に力を込めて、ラプンツェルのいるホールの天井目掛けて飛び上がった。


 しまった、そういやコイツ、ジャンプ力が凄まじいんだった!


 ラプンツェルは続けて大魔法を行使したせいかMPをほとんど使い切っているようで、フラフラとうまく飛べていないようだ。このままじゃ真下から上に突進するローズコブラとぶつかって大怪我をするぞ!


「くそっ、うおおぉいラプンツェルゥ!」


 俺はとっさに新しく魔力を変調させ、ぽっかり空いている結界による囲いの上面を、結界を一枚追加して塞ぐという荒技に出た。


 間一髪、ローズコブラは結界の上面にゴチンと頭をぶつけ、真っ逆さまに落下した。と同時に、桁違いの勢いで水分が通過しようとした反動で、俺の結界が粉々に砕け散る。


 ラプンツェルの魔法によって奪われていた空気が一気にホール中央へと殺到し、ハリケーンのような暴風がホール内を吹き荒れた。


「びょびょびょびょびょぉ〜〜!? ちょ、退避、退避!」


 俺は必死に中央への吸引力を振り払うと、空中でうまく飛行をコントロールできていないラプンツェルを抱えてドームの外に飛び出した。


 刹那、ドシン! ガラガラガラ! という凄まじい音がホール内から響き、数秒の後に風が止んだ。


「はあ……はあ……」

「…………うええ、やった、のかしら?」

「いや、まだだ。今のうちに、動けないローズコブラの身体に致命傷を与えないと」


 俺はラプンツェルを上空に残し、何本もの氷の槍を作って再びドーム内に突撃した。これだけの槍を腹板の隙間に撃ち込めば、さすがに致命傷になるに違いない。


 そう思い、ホールの床に横たわるローズコブラに接近した俺だったが。


「……なんだ、これ」


 そこには、俺が予想もしていなかった光景が広がっていた。

今まで登場した魔法の知識が少しずつ戦闘で活かされるという胸熱展開を書きたかったんですが、これはどうでしょうね……。


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