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【改稿中】地球から来た妖精  作者: 妖精さんのリボン
二章 嵐の中の来訪者
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けっせん!ローズコブラ 前編

 ローズコブラはとても不愉快な気分だった。


 この地に移り住んでもうすぐ三年。旧カンデラ遺跡周辺は魔力に富んでおり、寝ぐらとしては大変に居心地が良い。腐敗した木の床や壁が出す熱も、冬眠のしやすい環境を整えてくれる。しかし、エサとなる肉が全く足りなかった。


 ローズコブラは基本的に魔力や瘴気をエネルギーとして活動しているが、それだけでは不十分だ。身体を構成するタンパク質を摂らなければ、脱皮も満足に出来ない。


 ここには自分の美しさを披露するメスもいない。居心地が良いのは間違いないが、この冬が明けたら巣を捨てようと思っていた。


 しかし、どうやら引っ越しにはまだ少し早いらしいとローズコブラは感じた。


 無礼にも寝ぐらに入って来た、肉の匂いがしたからだ。


 ――――――


 ローズコブラは初めて出会った別棟ではなく、中央のドームの中、かつて劇場のホールであっただろう場所に居た。


 奴はあの時と変わらず……いや、少しデカくなっているか?

 全長は四〇メートル超え、幅は二メートルもあろうかという巨大な大蛇。赤いバラ模様が映える緑色の鱗に覆われた身体は、きらりと光沢がある。


 身体を折りたたんで休んでいたのか、ローズコブラはのそりと身を起こし鎌首をもたげて「シェーー!」とこちらを強く威嚇してきた。


「警戒してるわね」

「前はいきなり襲いかかって来たんだがな」

「強い魔物は、相手の力量を測る感覚に長けていると聞くわ。レベルの高いドリアを見て慎重になっているんでしょう」


 ふむ、そういうものか。


 ローズコブラは舌をチロチロさせるだけで、全く身動ぎをしない。しかしそれでも俺とラプンツェルを視界から外すことはなく、しっかりと見据えてきている。

 こちらを警戒しているのは間違いなさそうだ。


「じゃ、作戦通りに」

「ええ」

「ラプンツェルは上、俺は下だ。伝えた通り、こいつはジャンプ力もあるから気をつけろ!」

「分かったわ」


 ラプンツェルの同意を合図に、俺は地面スレスレ、ラプンツェルは天井付近を飛行し、分かれてローズコブラに接近した。


 今回、ローズコブラと戦うにあたって、俺は作戦と合図、撤退時の段取りをきちんと組んできた。

 勝負は水物なんだから考えても仕方ないでしょ、というラプンツェルの発言は無かったことにした。作戦と対策、どんなゲームでもボスと戦う上では必要なことだ。


 あと、勝負は水物ってのは、しっかり準備をしても運が絡むから油断はできないってことであって、準備が要らないとは言ってないからな?


 ローズコブラは二手に分かれた俺たちを見て一瞬迷ったが、よりレベルの高い俺のほうを捉えて追ってきた。


 蛇の目は人間と違い顔の左右に付いているため、分かれて撹乱するなら左右に分かれてもあまり意味はない。ピクシーの特性を活かして、俺たちはまず上と下に分散することにしていた。


 見かけによらず慎重な性格なのか、チラチラとラプンツェルのほうも確認してはいるが、注目は間違いなく俺に向いている。タゲ取りは成功したらしい。


「氷塊よ貫け、『追尾氷柱』!」


 まずはローズコブラの防御力を確かめよう。いつもゴブリン狩りに使っている魔法を使い、槍のように細くするどい氷の塊を奴の頭めがけて撃った。

 今の俺はブレイブニンフなので、あくまでも小手調べの魔法だ。


 突然襲いかかった氷柱にも、奴は怯む様子が無い。のそりと尻尾を持ち上げたローズコブラは、そのまま俺の追尾氷柱をぺちんとはたき落とした。


「シェーー!」


 俺の魔法がしゃくに障ったのだろう。ローズコブラは大口を開けて俺を一飲みしようと襲いかかって来た。

 俺はぶるんと羽を震わせて、ギリギリまで引き付けてから回避する。


「うむ。冷静になってみると案外あっさり避けられるな」


 ピクシーの飛行に助走は要らず、好きな方向へ瞬時に急加速できる。きちんと相手の動きを見れば、攻撃をスレスレで避けることすら簡単にできてしまう。


 特に、蛇はその身体の構造上、頭が向いている方向にしか進めない。特に俺たちはローズコブラよりずっと小さいので、向かってくる奴の動きは直線運動として考えることができる。ローズコブラの頭の向きさえ見ていれば良いので、なおさら簡単なのだ。


 勢い余って俺を素通りしてゆくローズコブラ。回避したついでに、奴の後頭部に氷柱を一発ぶち込む。

 さすがローズコブラはただデカいだけではなく、鱗もかなり硬いようだ。俺の速射できる魔法では、奴の守りを貫くことはできなかった。


 ローズコブラが振り返って、再び俺の姿を捉える。この距離でも、奴の瞳から怒りの感情が伝わってくる。


「おう、どうした。初めて会った時はあんなに速かったじゃないか」

「シェーー!」


 まあ、今の俺ならあの時よりもっと早く飛べるけどな。少なくとも全力で逃げたら追いつかれることはあるまい。

 ラプンツェルを残すわけにはいかないので、もちろん今は背中を見せたりしないが。


 ふと、背中に気配を感じて、俺はとっさに地面に伏せる。ぴゅん、と俺の上を奴の尻尾が通ってゆき、俺は肝が冷えた。

 ローズコブラは突進では仕留められないと判断したのか、頭と尻尾を使い前後から攻めることにしたらしい。


 いやいや、コイツめっちゃ賢くね? ゴブリンの数百倍は知能があるんじゃないか?


 とは言え、奴のタゲを取れているなら何も問題はない。奴の頭と尻尾なら、まだ同時に警戒ができる。

 怪獣狩りの基本は、挑発タンクと遠距離アタッカーなのだ。


「ドリア!」

「おう」


 その時、上空からラプンツェルの声が聞こえ、俺は瞬時にローズコブラから天井へと遠ざかった。

 ラプンツェルには俺が注意を引いている間、大魔法の詠唱を頼んでいたのだ。


「全て吹き飛ばせ、『ダウンバースト』!」


 ウインドエインセルであるラプンツェルが放つ、突風魔法。俺も見せてもらったときは思わず拍手した。

 上から下へと大量の空気を叩きつけ、急上昇した大気圧で全方向に風を起こす属性魔法の一つ。その破壊力は凄まじく、ローズコブラもホールに転がっていた椅子もまとめて吹っ飛ばし、奴の巨体がぶつかった壁はいとも簡単に崩れ去った。


 これで脳震盪のうしんとうでも起こしてくれたら楽なんだがな。しかし、俺たちの目的はそこではない。


 この魔法はあくまでも突風を起こすだけなので、破壊力はあっても殺傷能力は低い。しかし、吹っ飛ばされたローズコブラは完全に体勢を崩し、その腹部を俺たちに露出していた。


 俺はスイッチジェムを取り出し、ブレイブニンフからワンダーニンフにチェンジする。


「氷塊よ大きく鋭く硬くなれ、鱗の隙間を潜り、大蛇の腹を食い破れ、『追尾氷柱』!」


 蛇は背中とお腹で鱗の形が違う。細かくびっしりと鱗に覆われた背中に対して、お腹の鱗は服板と言って、大きくて隙間も多い。


 これは鱗の隙間をフックのように地面に引っかけて前進するからと言われているが、攻撃する者にとっては肌を露出している隙間を狙わない手はない。


 俺は天井に退避しながらも準備をしていた追尾氷柱、呪文特盛りバージョンをその隙間に叩き込んだ。


「ハッ……!」


 初めて、ローズコブラが威嚇音以外の音を出した。

 蛇には声帯が存在しないため、何かの弾みで肺から大量の空気が発射された時しか、声を出すことは無い。痛みに思わず、といったところか。


 氷柱が刺さったところからはタラリと赤い血が流れ、ポタポタと地面へ垂れてゆく。

 どうやら今のは効いたらしい。俺が今出せる最大火力だからな。


 ローズコブラはお腹の氷柱を引っこ抜こうと暴れ回る。こちらとしては傷が広がってダメージが大きくなるし、栓の役割を果たす氷柱が抜ければ出血が酷くなってさらにスリップダメージを与えることができるので問題ない。


 辺りの壁や椅子を破壊し出したローズコブラは放って置いて、俺はラプンツェルに声をかけた。


「ナイスアシストだ」

「あなたの魔法の威力もなかなか、ね。さっきみたいにあなたが引き付けて、私が攻撃していけば良いのね?」

「うむ。あとはチマチマ削っていけばいい」


 ちょうどローズコブラが尻尾を使って器用にも引っこ抜いた、というかはたき抜いたところなので、俺たちは再び上下に分散した。


 ローズコブラはお腹が痛むのか動きが鈍く、俺に近寄ってはくるがさっきみたいに突進してはこない。


 俺が迎え撃つ構えをとると、ローズコブラは驚きの行動に出た。


「シェーー!」


 奴の口の辺りで魔力がざわついたような感じがして、俺はまさかと思った。

 アイツ、魔法を使おうとしているのか!?


「ラプンツェル、奴は魔法を使うかもしれない。注意しろ!」

「魔法!? 分かったわ」


 ラプンツェルが俺の忠告を受け取ると同時に、ローズコブラの口から大きな岩石が弾丸のごとく飛んできた。

 慌てて避けると、岩石は俺のすぐ後ろにあったステンドグラスを粉々に破壊して森へと飛んでいった。


 やばいな。奴の突進はともかく、あの猛スピードで飛んでくる岩を避け続けるのはキツい。

 MP切れまで耐えるか、ここで勝負をつけるか。撤退の二文字も頭に浮かぶ。


 俺の焦りをよそに、ローズコブラは二発目の岩石砲を使うため魔力をいじり始めるのだった。

一話で終わらせるはずだったんですがね……。


「おっ、良いんじゃないか?」と思ったらブックマークなど応援よろしくお願いします。


先日、総合評価が100ptを超えました。これからもどうかお付き合いくださいまし。

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