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【改稿中】地球から来た妖精  作者: 妖精さんのリボン
二章 嵐の中の来訪者
39/63

ニンフ

めちゃくちゃ遅くなりました。

いや違うんです。今日はちょっと用事が立て込んでただけなんです。

「できたぜ!」


 自宅の一階。チャーリーに見守られながら作業をしていた俺がそう叫ぶと、ラプンツェルが何事かと二階から降りてきた。


「お疲れ様。ここんとこ四日も、何をしていたの?」

「魔道具製作」


 構想に一日。プログラム……じゃなかった、術式を書くのに二日。そして今日、半日かけて魔法陣を木の板に転写していたのだ。


 ついに完成したのは、電卓である。木の板に映る数字や記号のパネルをポチポチ押すと、計算結果を十桁まで表示してくれるのだ。


 別に、遊び百パーセントで作っていたわけではない。魔法工学、すなわち魔道具の製作にいよいよ挑戦してみることにしたのだ。


 前々から勉強してみたいとは思っていたが、魔法と科学の集大成みたいな難解極まる分野なのでなかなか一歩が踏み出せなかったのである。


 そして、俺の記念すべき第一作目が、この電卓だ。


 ルートの計算もできるし、今後のアップデートで対数関数や三角関数なんかも追加してゆく予定である。


「それ、そんなに計算早いの?」

「電子の動きを魔力に再現してもらったんだ。まあ見てろ。例えば57×35は」

「1500+400+95で1995ね」


『1995』


 俺は出力画面をじっと見た。

 ラプンツェルをじっと見た。

 ラプンツェルがじっと見返してきた。


「……何者?」

「数学とファッションを専攻していたから」

「その組み合わせ謎すぎない?」

「そう? でもこのデンタクはすごいわ、ここまで早いなら商品になるんじゃない?」

「業務用としては耐久性が皆無なんでな」

「残念。でもこれ、今の私たちの生活にはあまり関係なさそうだけれど」

「まあ、あくまでも勉強のために作ったやつだし」


 そういうラプンツェルこそ最近部屋にこもって何かやっている気配がするのだが。

 まあ、俺は紳士だからな。レディの行動をいちいち詮索したりはしないのである。


「勉強といえば、時々ラプンツェルに魔法大全を貸しているけど、どうだ?」

「……アレ、すごいんだけど」

「魔法大全が? それは、なにゆえ」

「あの本一冊で、魔法のほぼ全てが理解できるように作られているのよ。高度な魔法理論も網羅しているみたいね。私は別に魔法使いってわけじゃあないけれど、それでもあの本の凄さは分かるわ。ルーキーを一流の魔法使いにする本よ、アレは。正直言って、なんでこの家にポツンと残されていたのか分からないくらい。永久保存版よ」


 ふむ。そこまで言わせる本なのか、魔法大全は。

 そういや、あの本著者表示無いんだよな。あれも謎っちゃ謎なのか。

 俺の異世界生活、謎ばっかりじゃねえか。


 ――――――


 それからさらに時が経ち。

 ラプンツェルがやってきて、十ヶ月が経った頃だろう。すっかり冬を越して春が来た。


 俺はついに、ニンフへの進化を遂げることとなる。


【ドリア:レベル31→35】

【ラプンツェル:レベル25→28】


「じゃあ、一足お先に」

「……本当にゴブリンやグルテンだけでニンフになるとはね」


 ラプンツェルも時々レベル上げについてきたせいか、レベルが上がっている。でも、俺ほどじゃない。


 俺の服も新たに三着ほど出来上がり、旅の途中で食べる食料も豊富に用意した。

 畑もいつでも潰せるようになっているし、霞網も土壁も撤去した。


 タイミング良くニンフにも進化しそうだということで、俺のレベルが35になったらいよいよ旅立とうという話は進めていた。


 ちなみにラプンツェルは服などの必需品の一部を、そもそも亜空間にしまいっぱなしにしているらしい。急な出立にも対応できるためだそうだ。まあ、誰だってそうするよな。

 だから、この森に転移してきた時も十分な物資があった。


 ちなみに、今の俺のステータスがこんな感じ。

 進化後でステータスの比較がしやすいように、一番平均的なステータスを持つケイブエインセルのステータスを見せておく。




 ドリア=ポーリュシカ(27)

 性別:男

 種族:エインセル(L35)

 形態:ケイブエインセル

 状態:進化可能


 HP397

 MP503

 攻 537

 守 219

 魔 547

 知 527

 速 629


 熟練ポイント:55


 取得済みの形態

『ケイブエインセル』『マジックエインセル』

『スターエインセル』『アイスエインセル』



『ニンフ』

 ピクシーが二回進化した種族。レベル35に到達した証拠で、確かな実力を持つピクシーの証明でもある。


 レベル45でフェアリーに進化する。




 俺は場所を寝室のベッドに移して、メニュー画面を弄った。


『進化しますか?』


「それ、ポチー」


『進化すると現在取得している形態は消滅します』


『進化と同時に新しい形態を取得します。

 それでは、おやすみなさい』


 ああ……相変わらずすごい眠気…………。


 ――――――


『アイスエインセルが消滅しました。

 ケイブエインセルはブレイブニンフへ変化しました。

 マジックエインセルはワンダーニンフへ分岐しました。

 スターエインセルの分岐条件を満たしています。スターエインセルは一時凍結されます。

 それでは、おはようございます』


 べちん。


「んごっ!」


 この、脳を直接殴ったような起こし方も変わっていない。というかやめてほしい。


 時間は夜らしい。部屋の窓から星がよく見える。


「ささっ、ステータスを見ましょうかね」


 なんか俺もすっかり異世界に染まった気がする。




 種族:ニンフ(L35)

 形態:ブレイブニンフ


 HP674 (+277)

 MP503 (+143)

 攻 711 (+174)

 守 332 (+113)

 魔 711 (+164)

 知 691 (+164)

 速 947 (+318)



 形態:ワンダーニンフ


 HP595 (+92)

 MP939 (+436)

 攻 537 (+0)

 守 240 (+21)

 魔 875 (+328)

 知 1029 (+502)

 速 721 (+108)



 取得済みの形態

『ブレイブニンフ』『ワンダーニンフ』

『スターエインセル(凍結中)』




 1000! ついにステータスが1000を超えたぞ! 魔でも速でもなく、知が最初ってのは意外だったが。

 魔法の勉強をしまくったからこうなったのか?


 ん? なんだ、(凍結中)って。これだけエインセルのままじゃないか。

 まあ、凍結中とかわざわざ書かれているということは、この形態は使えないんだろうな。


「ささっ、ディクショナリーを見ましょうかね……ってこのセリフさっきも言ったな」




『ブレイブニンフ』

 危険な場所や状況にも勇気と知恵で挑んでゆく勇敢なピクシーの象徴。全てが高水準のステータスは隙が無い。

 HPや素早さが大きく伸び、攻撃力、防御力も高い。


 精神的に強くなり、パニックになりにくい。


 低酸素状態に強くなり、毒ガスが効かなくなる。また、宝石や鉱物を見つけやすくなり、暗闇でも目が少し見えるようになる。(ケイブエインセルから引き継ぎ)



『ワンダーニンフ』

 魔法についての知識を吸収し続ける叡智のピクシーの象徴。魔法系以外のステータスはニンフとしては低水準だが、MP、魔、知の伸びはかなりのもの。

 攻撃魔法も得意だが、むしろ錬金魔法や魔法工学、回復魔法といったテクニカルな魔法を使いこなせるようになる。


 魔力操作の精密さが向上し、魔法に関する知識を忘れにくくなる。


 MPの自然回復速度が少し速くなる。(マジックエインセルから引き継ぎ)




 ふむ。控えめに言って素晴らしいじゃないか、諸君。

 形態が持っていた特殊能力は、進化の時にこうして引き継がれてゆくのだろうか。だとしたら、進化にはメリットしかないな。


 ケイブエインセルが消えたら洞窟探索がやりづらくなるかもしれないと思ったが、そんなことは無かったぜ。


 ワンダーニンフもなかなか面白いじゃないか。

 そろそろゴーレムとか、使い魔とかにも、挑戦してみても良いかもな。


「おうい、進化が終わったぞ」

「良かったわね」


 俺が寝室を出て一階に降りると、ラプンツェルはガラスの瓶を抱えてニマニマ笑いながら俺を待っていた。


「その瓶は?」


 今ではガラス製作もそれなりに上達し、今ではちゃんと炉っぽいものを作ってガラスを作っている。試行錯誤の末、とりあえず中が見えるくらいには質を向上させた。


 瓶には黒っぽい液体が入っており、ラプンツェルはキュッキュッと蓋を開けてこちらに瓶を差し出した。


「嗅いでみて」

「はあ……スンスン」


 その時、俺は雷に打たれたような衝撃を受けた。

 忘れるわけがない。大豆を発酵させた時に薫ってくる独特の香り。そこに塩味の匂いがほんのり加わった唯一無二のそれを。


「これ、しょう油か!?」

「一応、魔法植物の研究家だからね。マンドラゴラからお酒を作るっていうテーマで、仲間と発酵学を勉強したのよ」


 これ、進化のお祝いに。

 ラプンツェルがそう言い切る前に、俺は彼女に抱きついていた。


「……」

「ありがとう! 本当にありがとう! 俺には知識が無かったから、どうしようもなかったんだ。素晴らしい仕事だ! 何ヶ月も前からよく寝室に篭るようになったが、これを作っていたのか?」

「ええ、実はね」


 言ってくれれば何かしら手伝ったのだが。

 いやいや、これは彼女なりのサプライズなのだ。男としてはありがたく受け止めるべきだろう。

 ……あっ、しまった。いつまで抱きついているつもりだ、俺。


「すまん。つい抱きしめてしまった」

「良いのよ。気にしてないし、別に嫌じゃないし」


 そうか、気にしていないなら良かった。

 ……ん?


「それで、明日から早速出るの?」

「ああ、それなんだけど。実は、前から考えていたんだけど。協力してほしいことがある」

「協力?」

「うむ。ただ、それなりに危険だから、無理にとは言わない」


 やっぱりさ、レベルを上げたからには、ボス戦をしなきゃいけないだろ?


 待ってろ、ローズコブラ。今からぶっ潰しに行くぞ。

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