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【改稿中】地球から来た妖精  作者: 妖精さんのリボン
二章 嵐の中の来訪者
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ラプンツェルの料理

「きょうはなんにもないすばらしい一日だった!」

「それ、地球の慣用句か何か?」


 早々に嘘をついて申し訳ないが、もちろん良いことがあった。

 ラプンツェルがやってきて、今日でおよそ二ヶ月。ついに俺の服が完成したのである。


 うむ。意外と早かったな。


 もちろんさっそく着てみたとも。


 綺麗に染まったオレンジのベストはピシッとしていてカッコよく、ダークグレーのインナーがそれを引き立てている。ボタンはラプンツェルが木を丁寧に削って作ってくれたもので、正葉曲線をベースにゼンマイのような渦巻いた曲線をデザインした刻印がなされていて美しい。


 下は今までと同じ無骨な焦げ茶色のパンツだがな。いや、さすがに使える材料の限られるこの森じゃあ、あまり多くの色やパーツは使えないのである。

 しかしさすが亜麻の糸を使っているだけあって、肌触りが良く通気性抜群である。


 追加の亜麻は来週に収穫を予定しているので、とりあえずしばらくはこれ一着で過ごすことになるだろう。この世界に来たときに着ていた服はもうボロボロだからな。


 嵐の到来からまだ二ヶ月だからな。本来亜麻というのは田植えと同時期に植えて、四ヶ月経たないくらいで収穫するのだ。季節が微妙にズレていることを考えれば、二ヶ月で育ったことはなかなか驚異的じゃないか?


 亜麻は高く真っ直ぐ育つくせに意外と繊細なやつらで、成長魔法の強さや温度を丁寧に管理してあげないとうまく育たないのだ。

 同じように育てても、土が違うだけで数十センチも発育に差が出るから油断ならない。うまくいけば一メートルを超えるので、そうなったら栽培は大成功だ。


 俺はベストを軽くキュッキュッと引っ張ってみる。しっかりと織り込まれたそれはとても丈夫で、簡単に破けそうには見えない。


 俺は感心しながらラプンツェルに訊いた。


「なあ、どうしてこんなにしっかりした服を作ってくれたんだ?」

「はい? ……まあ、ここに住まわせてもらってる以上、それなりのお返しはしなくちゃと思ってね。あと、クリエイターとしては、適当なものを作りたくないし」


 ふむ。何にせよとてもありがたい。


 さて、そろそろ夕食だ。食事の準備をしようとした俺だったが、それはラプンツェルに止められた。


「せっかくだから、私に作らせてくれない?」

「ラプンツェルにか? そういや料理には自信があるとか言ってたな。だけど、連日の服作りで疲れているだろう」

「たからこそかな。ちょっと違うことをやってリフレッシュしたいのよ」


 そういう事なら代わらない理由は無い。

 俺は手持ちの食材を列挙した一覧を見せて、使いたいものは言ってくれるように頼んだ。


 ラプンツェルはしばらくリストを見ながらじっと考えていた。

 不躾だとは分かっているが、ついその横顔に見入ってしまう。やっぱり綺麗だなあ、この子。


 彼女は基本的に行動力があって積極的なんだが、こうしてたまにクールビューティな一面を見るとやはり行動するだけの凡人ではないなと思う。人間らしい、じゃなかった、人類らしい土台となる思考力がしっかりしているのだ。


スピニッチ草ほうれんそうとボンボン鳥、トマト、小麦粉、塩、リンゴソース、亜麻仁油」

「ほいほい」

「あら、よく見たらカボチャもあるのね。それもお願い」

「ほいほい。でもカボチャは君が思っているよりずっと小さい品種だぞ」

「大丈夫よ。もともと小さく切る予定だったから」


 カボチャは正しくはゴブリンパンプキンといって、小さくてボコボコしたちょっと見た目の悪い品種だ。

 病気にめっぽう強いという特徴こそあれど、あんまり甘くないので売り物にするのは難しそうだ。

 まあカボチャはカボチャだし。他に無い以上こいつを食う他無いのだが。


 ラプンツェルは食材を受け取ると、さっそく調理を始めた。


 まずはお肉。ボンボン鳥はもも肉を小さく切り、塩で揉んで下味をしっかり付ける。


 同時進行で野菜。スピニッチ草は下茹でする。沸騰した塩水にスピニッチ草を通して、苦みを抜いたあとキュッと水分を切って刻む。

 カボチャも小さく切る。トマトはヘタを取ってカボチャと同じく食べやすい大きさにカット。


 続いて小麦粉、塩、軽く炒って少し水分を飛ばしたリンゴソースを混ぜてゆく。そこに亜麻仁油を使って擦るようにして小麦粉をそぼろにしてゆく。


 あとは野菜とお肉を深めの皿に盛り、上から小麦粉のそぼろをかけて、オーブンで焼いてゆく。


「これは、何を作っているんだ?」

「野菜のクランブルよ。本当はチーズを添えて食べると美味しいんだけど、無いからねえ。お肉を入れて満足感を出してみたの。これ難しいのね、使える食材が限られるって」


 そうだろうそうだろう。

 だからこそ森の探索に俺は力を入れてきたのだ。


 ラプンツェルはオーブンを定期的に確認し、時折棒で皿を動かして火加減を変えている。この子すげえな、技術がプロじゃねえか。


「そういえばこの森って、どのくらい広いの?」

「さあ……少なくとも南に四百キロは森で、一応北に百と少々も行けば人の道はあるぞ」


 そこから南は面倒くさくなって、マップで確認するのもやめてしまった。ちなみに東と西も似たようなものである。

 四百キロって。東京と大阪の距離がだいたい五百キロだから、相当な大きさだぞ。


 焼き上がったクランブルをオーブンから出すと、リンゴと小麦の香ばしさが俺の鼻を惹きつけた。

 クランブルなる料理は知らないが、本来は野菜ではなくリンゴやベリーの上に小麦粉をかけて焼くお菓子らしい。


「あら、バターも無いから無理だと思ったけれど。やってみるものね。やっぱり知恵を絞ってみるものだわ」

「まあ、今どきはハコだって飛んだり歩いたりハコを出したりできるからな。人も負けてられねえよ」

「……ハコ?」


 さっそく食べよう。

 二人でソファににかけて、スプーンで掬って口へ。


「うん。美味しいわ」

「おおぅ……美味しいなコレ!」


 肉とトマトの旨味が、リンゴソースや塩の甘じょっぱさに引き立てられている。

 火の通りもムラがなく、全体にしっかり通っている。ぼんぼん鳥は肉質が硬めなので、火を通しすぎないようにするのは大切な事なのだ。


 へえー。ここまで上手だとはな。


「うむ。恐れ入った」

「ありがとう」


 ああー、この美味いものを食べた後に言葉が出なくなる感じ。名店に行ったときのあるあるだな。


「ラプンツェルにはこれからもご飯を作って欲しいな」

「……え、ええ。そうね」


 …………。


「あっ、いやそういう事じゃなくてな」

「大丈夫、分かってる。分かってるから」


 そう言いつつ、ラプンツェルは少し赤らみながら視線を合わせようとしなかった。


 ……会食の雰囲気ではなくなったな。

 なんか気恥ずかしい気分になりながら、俺たちは黙々とクランブルを口に運ぶのだった。

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