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【改稿中】地球から来た妖精  作者: 妖精さんのリボン
二章 嵐の中の来訪者
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火の属性

一日のアクセスが安定して100を超えるようになりました。

皆さんの応援が心に染みる今日この頃でございます。


※『魔法大全』のタイトルを『魔法大全(教本版)』に変更しました。

本編ではこれまで同様、単に『魔法大全』と表記することが多いと思います。

 石けん作りから二、三日。

 油とアルカリ溶液を混ぜ、塩を入れてさらに混ぜ、塩析によって浮かんできた石けんのもとを一日寝かせた。


 アルカリ溶液の濃度を変えたり、攪拌かくはんする時間を変えたり、塩析に使う塩の量を変えたり。

 そうしてできた27個のサンプルは、ドロドロになったものも有ればしっかりと固まって白くなったものもある。


「使った感じ肌に影響は無さそうだし、良し!」


 作ってみて分かったのだが、アルカリ溶液は濃いくらいがちょうど良いようだ。

 水酸化ナトリウムが少ないと、十分な化学反応が起きずべとべとして油っぽい石けんになってしまう。

 アルカリが濃すぎるのが気になるかもしれないが、塩化ナトリウムの水溶液はわずかに酸性を示すので、アルカリとある程度打ち消しあってくれるので問題は無い。


 普通の食塩は不純物が混じっているのでだいたい中性になるが、俺の塩は魔法で生み出した純度百%の塩化ナトリウムだからな。


 あと攪拌は数十分ほど時間をかけてしっかりと。一度に作る量によるだろうが、人力でやると腕が痺れてくるのは考えものだな。

 うむむ。やっぱりピクシーって非力な種族なんだろうか。一応、ステータス的には物理アタッカーとしても優れているんだがな。


 とりあえず、27個作ってみたものの、満足のゆく結果になったのはたったの7個であった。

 まあ、初回だし。実験も兼ねてたし。こんなもんじゃないか?


 ――――――


『どうして、火の属性は存在するのでしょう』


 魔法大全のそのページは、そんな文言から始まっていた。


『科学の知識によれば、火というのは酸化反応によって激化する原子の振動が見せる幻にすぎないのです。神が描いた世界の構造の中では、火とは決して特別な立ち位置のものではありません。どうして火の属性などというものがあるのか。これまで決して短くない時間、魔法を勉強してきたであろうあなたは、一度でもそんな疑問を抱いたことがあるでしょうか?』


 うーむ。それは考えたこと無かったなあ……。

 そういうモンだとしか思わなかったぞ。

 ラプンツェルの言葉を借りるなら、もっと好奇心を鍛えなければならないってことだな。


『少し難しい話にはなりますが。今日は魔法の真髄、未だ誰も見たことの無い真理の部分に、ちょっとだけ触れてみましょう』


 ふむ。面白そうなので付き合おうじゃないか。


『火の属性がなぜ存在するのかを考える前に、なぜ火と水の属性は打ち消し合うのかを考えてみましょう』


 たしかにおかしな話だ。

 火というものは物質の振動によって起こる現象・・の名前であり、対して水は酸素原子と水素原子から成る物質・・の名前である。


 火に水をかけるとどちらかは消えてしまう。しかしそれは単に燃焼物から水へ大量の熱が移動することで熱放射が維持出来なくなり、あるいは水が熱を吸収しきれずに蒸発してしまうというだけの話である。

 決して火と水が真逆の性質をもっているからとか、そういうわけではないのだ。


 うーん。火と水が打ち消し合うって、考えれば考えるほど不思議な性質じゃないか?

 一体どうしてこんなことが起こるのだろう。

 どういうことなんだい、魔法大全よ。


『世界を構成する森羅万象からして見れば、火も水も特別視されるものではありません。となると、魔法に限っては・・・・・・・火や水というのは特別なものなのだと考えることができます。火と水が打ち消し合うように、風と土も打ち消し合います。同様に木と雷も打ち消し合い、光と闇も打ち消し合います。これ以外にも多くの属性があり、全て打ち消し合うペアを持ちます。これらは魔法において特別なものであると仮定できるでしょう』


 これらは全て現実でもある程度打ち消しあっているものだと言える。風が吹けば土を削って運んでゆくし、土の壁に風が当たれば風は消えてしまう。


『では、どうして木と風の属性は打ち消し合わないのか。木に風が当たれば、風が消えるか、木が折れてしまうか。火と水のように、どちらかが消えるのは変わりません』


 確かにそれは気になる。

 というか、風なんてものは単なる空気の移動なのだから、打ち消そうと思えばいくらでもやり様はありそうだ。


 つまり、現実における火や水の性質は、魔法においてはあまり関係が無いというのか?


『我々魔法使いたちは、この疑問について長年研究を行ってきました。そしてこの疑問に、ある程度の解答を出すことに成功しています』


 ということは、これを書いている人もはっきりしたことは分かっていないのか。


『火と水の属性を、一つの魔力が一度に持つことはできませんが、火と風の属性を同時に持つことはできるのです。お互い干渉しないこの二つは、お互い同じ場所に居ても全く問題ないということでもありますから』


 火と水はとてつもなく仲が悪いので、すぐにケンカしてしまう。しかし火と風は他人同士なので、一緒に居ても何も起こらない。魔力に社交的も何も無いからな。


『しかし実際に火と風の魔法を同時に使うと、火に酸素が送られて激しく燃え上がるか、風が火を消してしまうでしょう。つまり物質世界げんじつに反映される前と、後では、火や水や風の性質は全く違うものだということです。この乖離かいりは一体どこから来るのか』


 火と火の属性はほとんど関係が無いものだ。だから”火”という言葉に引っ張られると、逆にややこしくなってしまう。そこが注意しなければならないところだな。


『かなり難しい話になるので、ここでは詳しくは説明しません。ポイントだけお伝えします。注目すべきところは、どの属性にも必ず相反する属性がたった一つ存在するということ。そして相反する属性以外の属性とは、全く干渉し合わないということ。全ての属性に共通する性質は、実はこのたった二つだけなのです』


 なるほど、属性の本質を考える上では、火や水といった名前はもはや邪魔なんだな。

 全ての属性に共通するその二つこそ、真理は隠れているわけだ。


『今から紹介するのは、一つの説です。有力な証拠こそありますが、何か実験によって証明されたことではありません』


『そもそも魔力とは、人の心に反応して、人の願いを叶えようとするエネルギー体です。であるならば、魔力が引き起こす様々な神秘の現象は、少なからず人の心を反映していると言えるのではないでしょうか』


『火も水も、風も土も。全ては太古の昔より我々の身近にあり、彼らが互いに打ち消し合う様を我々は見てきました。我々の頭の中には、いつしか火と水が相反するという構図が出来上がっていたのかもしれません。そして、何故火の属性が存在するかという問い。その答えは、我々人類の身近にあったから、ということになります』


 人類にとって火が馴染み深いものだから、火の属性が生まれた? うーむ。よく分からんな。

 実際に火の魔力を使うと、火の魔法が使いやすくなるわけだし。なんかそれ、人類に都合が良すぎないか?

 例えば人類にとって毒が身近なものだったら、毒属性なるものが生まれたというのだろうか。


『魔力が人の心を反映する以上、魔法は人の思い込みによって如何様にも変化する。この考え方を【偽薬効果プラシーボ的魔法観論】と言います。』


『今回の話は、魔法の実用性という面ではそんなに関係は無い話です。いくら一人が重力の属性が存在すると思い込んでも、何億何兆の人の脳みそが存在しないと思い込んでいる限り、それは存在しません』


『しかし、著者が再三、魔法に不可能は無いと主張している理由の一端は分かっていただけたのではないでしょうか』


 パタリ。

 俺は少々熱くなってきた頭を冷やすべく、本を閉じてコメカミを揉んだ。


「要は、魔法は根性ってことだな!」


 多分そういうことではないが、今の俺にはそう理解するのがやっとなのであった。

たまには頭を使う話も書いてみようかなって。

たまにはね。しょっちゅう書いてたら疲れますよこんな話。

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