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【改稿中】地球から来た妖精  作者: 妖精さんのリボン
二章 嵐の中の来訪者
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紡績魔法

 家に帰った後、俺はラプンツェルに熟練ポイントを振ってあげた。

 この世界の人々は熟練度システムを知らない。人によってはちょっとズルっぽく思えるかもしれないので、ラプンツェルに確認したが、ラプンツェルは熟練ポイントを使うことを望んだ。

 彼女曰く、才能を手にする機会を捨てる理由はない、とのことだ。


「一点特化で成功する人は、最上位のたった数人よ。凡人はより多くのスキルを育てるべき。そのためには時間が足りなすぎるから、効率の良い努力をしなければならないわ。他人が知らない方法でも、それが最短距離である限りはその選択肢を選ぶべき。熟練ポイントはレベルを上げて取得できるのでしょう? つまり努力によって手にしたもの。それを使うのに理由は要らないわ」


 ラプンツェルの仕事はデザイナーであり、クリエイティブな仕事だ。常に新しい刺激を入れるべく、とりあえず色々やってみることをモットーにしているとのこと。


 その過程で、やはり人は色々とスキルがあった方が良いという結論に達したそうだ。


 糸作りはラプンツェルに任せて、俺は食事の準備。

 ラプンツェルも料理には自信があるようだが、とにかく俺の服を作ってくれないと旅が始まらないので仕方ない。


 とりあえず、最低限二着あれば良い。できれば三着。それで十分。

 服が欲しいというだけの理由でラプンツェルをあまり長く引き留めておくことは止めたい。


 食材を切り終えて、ふとラプンツェルはどうしているだろうかと、ソファで黙々と作業をする彼女を見た。


 ラプンツェルは魔法で空中に張った柱や板のようなものを駆使して、凄まじい速度でヨリヨリと繊維を縒っていた。何あれ、はっや。紡績魔法ですか? 最早手際が良いとかいう域を超えてるだろ。

 空中の柱と板がぐわんぐわんと動き回り、ラプンツェルが指先を動かしているだけなのに。次々にボビン代わりの棒に糸が巻きついてゆくのだから、なんかシュールで怖い。


「ねえ」


 ラプンツェルが、キッチンにいる俺に話しかけてきた。


「その、メニュー? とやらなのだけれど」

「ん? どうした」

「いつからその力があったの?」

「ああ、ここに来た二年前から」

「…………」

「それがどうかした?」


 ラプンツェルは一瞬また例の奇妙な顔を見せたが、手元の繊維の塊から視線を逸らさず、眉をひそめた真剣な表情で会話を続けた。


「徳を積む、って概念があってね」

「僧侶が良いことして聖人君子に近づく的な?」

「熟練ポイントも似てるなって。レベルを上げることで溜まってゆくけれど、あなたの話では、人助けをすることでも貯まってゆくのよね?」

「クエストのことか。たしかに人助けと言えなくもないな」


 ふむ。徳を積む、か。

 たしかに創作物では、徳の高い人物がさまざまな奇跡を起こす場面が時折描写される。熟練ポイントを貯めてゆくことで、それを色々な才能に変換させることができるのであれば、たしかに創作物上の徳の概念とはよく似ているかもしれない。


 熟練ポイントの正体を考える材料にはなるかもしれないな。


 何も説明の無いままこの世界に放り出されて、俺はまだ分からないことだらけだ。そればかりか、ラプンツェルと出会って謎はさらに増えた気がする。

 もちろんどうして俺がこの世界に送られたのかという問題もそうだが、この世界の人が乳首とヘソを持たない理由とかも実は気になっているし、チャーリーのことも実はめちゃくちゃ知りたい。


 乳首が無いというか、おっぱい自体が無いよな。俺もそうだが、ラプンツェルだって女性であるにもかかわらず、胴体は首から腰までストンと楕円柱のように凹凸に欠ける。お腹が少し引き締まっている程度か。


 そしてラプンツェルから、チャーリーがしでかした所業については聞いている。たしかにチャーリーはよく一階を自由に動き回るが、別の階に移動したことは無かった。

 というか、あの晩以降も、チャーリーは一階にしか居ない。


 そもそも、この世界でも植物が勝手に動くことは無いらしい。植物に擬態した魔物や動物ならともかく。

 いや、そんなん分からんがな。異世界だったら何でもアリだと思うじゃん?


「キノコのステーキで良いかい?」

「もちろん」


 傘の大きなオオシイタケに切れ込みを入れ、豚脂で焼いてゆく。


 そういや、ラプンツェルはどんな服を作っているのだろう。彼女はお針子さんではなくデザイナーなのだ。どんな服が出来上がるのか楽しみじゃないか。

 あっ、でも染料も何も無いじゃん。……じゃあ亜麻色一色か。

 いや、好きだけどさ。亜麻色。


「ドリア、料理してるとこ悪いんだけれど、四つ質問して良い?」

「もちろん」

「畑を直して、この辺りを案内してもらったら、単独行動をしても良いわよね?

「そりゃもちろん。あっ、ここから東にある遺跡は危険だから行っちゃダメだよ」


 遺跡を除けばこの辺りにはゴブリンとか、ジャコメダカとか弱い魔物しかいない。まあまあ油断ならないのでも、たまに何処かからふわふわやって来るフライングピッグ程度。

 レベル25のラプンツェルなら危険はあるまい。


「二つ目だけど、あなたのズボンは今履いているやつみたいに、ぽっけをたくさん付けたほうが良いのかしら」

「んにゃ。それによって手間がいくつも増えるなら、完成を急いでくれたほうが良いかな」

「多分、大して時間はかからないわよ」


 うむ。良い感じにキノコに火が通ってきた。


 うーん、他のメニューはどうしよう。

 卵が無いからパンケーキも作れない。何度か手元にある食材で作ろうとはしたものの、別物になってしまうんだよな。


 あっ、もしかして亜麻仁油なら代用できるか? ダメだな、卵が無い以上、ベーキングパウダーが必須だ。

 いや、待てよ。ベーキングパウダー、すなわち重曹(炭酸ナトリウム)だが……少し式量は大きいが、構造は単純だし。塩みたいに魔法で創れるか? MPがゴリゴリ減るのは確実だが。

 あるいは、塩とアンモニアを別々に作って、重曹を化学合成するって手もあるが……試すにしても明日で良いな。今は素直に重曹を生み出す術式を書こう。


 よし、メインはキノコのステーキで、エッグレスのなんちゃってパンケーキも作ってみよう。牛乳が無いから味はプレーンだが、夕食として食べるならちょうど良いだろう。


「三つ目なんだけど、あなた星を観るのが好きって言ってたわよね」

「ああ。この家のてっぺんにはね、星を観るための足場を組んであるんだ」

「私も一緒に観て良いかしら?」

「おっ、良いんじゃないか? あっ、でもめちゃくちゃ狭いから、二人は乗らないな。今度広げておくよ」


 うーん、あれ作ったのって二年前だよな。あれから何度か手直しはしたものの、あの頃作ったのとあまり変わらない、拙く脆い足場のままだ。

 錬金魔法もかなり上達したし、今ならDIY魔法を開発できるんじゃなかろうか?


「四つ目なんだけど、あなた何処で魔法を勉強したの?」

「あー、魔法大全っていう本から、全部独学だよ。この家に置いてあったんだ。読ませてあげようか?」

「…………そうね、後で読ませてもらうわ」


 そういや、どうしてあの本だけこの家にあったのかもかなり謎だよな。俺をここに連れてきた奴が、これで魔法の勉強しとけやと置いて行ったのだろうが。

 俺としてはこの世界の常識とかを学べる本も一緒に置いて行って欲しかった。


「四つ質問って言ったけど、五つ目も良いかしら」

「ああもちろん。どんどん聞いて」

「そう。じゃあドリア」


 ラプンツェルはそこで初めて俺の方を見た。


「あなたって地球から来たの?」

ラプ「このナゾ、私が解いてみせよう」

ドリ「かっけー!」

ラプ「…ねえこれ何の台詞?」

ドリ「シビれるー!」

ラプ「聞いちゃいないわね、この男」

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