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【改稿中】地球から来た妖精  作者: 妖精さんのリボン
二章 嵐の中の来訪者
31/63

ドリアの異常性

 洞窟内部は寒いイメージだが、ここに限っては意外と暖かかった。

 この暖かさは地熱というより、どうも地中を流れているかもしれない魔力が関係していそうなんだよな。

 いや、確証は全く無いが。何となくそうに違いないと思えてしまうのだ。しかし。ケイブエインセルの洞窟に関する第六感は軽視できないような気がする。


 まあ、暖かさはどうでも良い。問題は、ゴブリンやコウモリの糞尿のせいでけっこう臭うことである。


「クヒッ」

「これで五体目だな。少し休憩するか」


 俺はゴブリンの喉を声帯ごと魔法で吹っ飛ばすと、少し開けている地形でそう提案した。ちょうど、洞窟内の臭いも薄れている地点。これなら休憩には適している。


「ええ。……ねえ、さっきからゴブリンとオドロシコウモリしか見ていないんだけど。本当にここでレベル31まで上げたの?」

「ここだけじゃないけど、倒してきたのはゴブリンばっかりだよ」

「うわっ、何そのレベルに対する執念」


 ラプンツェルは俺がストレージから取り出した弁当のキャッサバ団子を受け取りつつも、しっかりとドン引きしていた。おっ、その態度はちょっと泣いちゃうぞ。


 仕方ないじゃないか。そこにレベルの概念がある限り、無意味でも上げなければ気が済まないのがゲーマーなんだよ。


「やっぱり戦闘狂……いえ、レベルフィリアと言うべきかしら」

「せめてゲーマーと呼んでくれ」


 レベルフィリアとかいうヤベー二つ名は聞かなかったことにする。


「げぇま?」

「ゲーマー。戦闘狂は心外だが、そっちなら良い」

「……まあ、あまり人を悪く言うものじゃないわよね。あなたがそう望むのなら、ゲーマー? ということにしておくわ」


 そういうことにしてくれ。


「何にしろ、オドロシコウモリなんて大した魔物じゃないし、ゴブリンなんて体育の実戦授業で倒すやつじゃない。何をどうやったらそいつらだけで31まで上がるわけ?」

「たくさん倒した」


 死体は全てストレージの肥やしにしているので、ストレージの死体数を見れば討伐数が分かる。


「ゴブリンは5520、コウモリは382匹倒したかな」

「……五千匹のゴブリンなんてそうそう遭わないと思うのだけれど」

「二年間の成果だからね」

「ふーん。…………ふーん」


 おい、なんで時々そんな奇妙な顔で俺を見るんだ。ちゃんと表情筋に脳のリソースを使え。


「……ん? なんか熱くない?」

「そうか? この辺りは割と涼しいけど」

「いや、暑いって言ったんじゃなくて。このキャッサバ団子なんだけど」


 ラプンツェルが指摘したのは、団子が温かいって話だ。

 一応殺菌効果のある草でくるんではいるが、家を出てからもう数時間経つため、バスケットなんかで普通に持ち運んだなら確かに冷めている頃だろう。


「まあ、出来たてだからな」

「……? …………! ……??」


 だから。その表情筋の動かない奇妙な顔をするな。


「もしかして、あなたの『ストレージ』って、入れたものの時間が進まないの?」

「……もしかして、君の『亜空間転送』って、入れたものの時間が進むの?」


 ラプンツェルは口を大きく開けて信じられないという様子で、わなわなと震えながら俺を見た。


「なんてデタラメなピクシー! そりゃ、一流の魔法使いなら時間をちょっと遅らせるくらいならできるでしょうよ。でも完全に停止だなんて……長年研究をし続けた大魔導師なら分かるわよ? でもあなた、27じゃない! すごい。意味わからないわ」

「なんか、怒られてんのか讃えられてんの分かんないんだけど」

「どっちもよ!」


 ていうか、洞窟で大声を出すなよ。魔物に気づかれるじゃないか。もはや多少の数に囲まれても安全とはいえ、リスクを負う必要はないし、戦闘に気を取られて落盤などの前兆を見逃すと命に関わる。


「洞窟では静かに。実は俺のストレージはな、魔法ではないっぽいんだ」

「魔法じゃなかったら何なのよ」

「さあ……でも、今はちょっと向こうに集中した方がいい」

「……ええ、そうね」


 俺たちが視線を向けた先には、ヨダレを垂らしながらにじり寄ってくる三匹の犬がいた。

 痩せた体躯に弛んだ分厚い皮。骨張った胴と小さな前脚。後ろ足は発達しているのか、アンバランスなほど太く長い。毛は短く茶色で、顔は鼻が高く突き出てる。


 俺が異世界で出会った魔物、グルテンである。




『グルテン』

 痩せ細った犬のような魔物。食べても食べても満足しないため、大食い業界のホープとして注目される。


 犬としては歪な骨格をしており、直立歩行が可能。そのためか道具や武器を扱う知恵もあるが、長時間立ちっぱなしでいることはできない。

 そこまで強い魔物ではなく、単体なら一般の成人男性でも楽に討伐可。しかし、大抵は仲間が近くにいるので安易に突撃するべからず。




「あれ、グルテンよね……うーん、ゴブリンに加えてアイツの群れを二つ三つ滅ぼせば、31には届くかもしれないわ」

「今更そこに納得するのか。まあ納得してくれたなら良いや」


 グルテンはゴブリンよりも強い魔物だが、フライングピッグの足元にも及ばない。

 ……そういや最近フライングピッグを見かけないな。普通の動物はそこそこ畑に引っかかるのだが。本来ならアイツは飛べる豚なので、偶然のんびりと空を飛んでいるところに出会すくらいしかないのだ。


 いや、フライングピッグのことなんか考えている場合じゃないな。集中、集中。


 集中、追尾氷柱どーん。終わり。


「……警戒する必要無かったわね。たかがグルテンとはいえ、この処理速度ならあなた十分に優秀な魔法使いよ」

「おっ、そうか? ありがとう、自分の実力が高いのか低いのか、比較対象が無くて困ってたんだ。あと警戒は、グルテンの場合は目の前の奴らよりも応援を警戒するって意味合いが強いんだ」


 グルテンをストレージに収納し、血溜まりから目を背けつつキャッサバ団子を食らう。味気なかったキャッサバ料理も、今では塩とトマトを混ぜて焼き固めることによってそれなりに美味い物体に仕上げることができる。


 しかし、魔法使いとして優秀か。それは嬉しいな、頑張って勉強した甲斐がある。

 九割くらいは熟練度の『魔法の才』と、魔法大全のおかげだがな。


 そういや、ラプンツェルは熟練ポイントを知らないんだよな。どうにかして振り分けることはできないものか。

 本人にメニューが見えない以上、どうしようもない気はするが。


 そういや、『ペンタングル』の中では、魔物を仲間にできるシステムもあったな。あのメーカーにしては珍しく、バランス調整ミスで仲間にした魔物という魔物がみんな微妙な性能という残念システムだったが。


 もちろんアップデートで改良はされたが、最終的にはAIに従って勝手に動く魔物より生身のプレイヤーのほうが強くなるということで、ランキング上位勢にはほとんど注目されていなかった。


 結局魔物は『ペンタングル』において、ただのコレクション要素になってしまったのである。


 で、何で今そんな思い出話をしたのかと言うと。


 魔物を育成する時に、プレイヤーは魔物に蓄積される成長ポイントというのを使って色々なスキルを取得したりステータスをカスタマイズできたのである。


 プレイヤーが魔物を育成できたように、俺もラプンツェルの育成ができるのではなかろうか? 振り分けるのが成長ポイントか、熟練ポイントかの違いじゃないか。


 メニュー画面の中で、ラプンツェルについての情報が表示されるのはパーティの欄だ。

 例えば、ラプンツェルの名前をタッチしてみるとか。


「……えっ、あっ、いけそう」

「何がよ」


 ズラリと表示された、百以上の項目。そして、メニュー画面に浮かぶ『権限を行使しますか? Yes No』という文字列。

 うーむ。……いいや、これに関しては、特に悪いことは起こるまい。ポチー。


「なあ……何か上手くなりたいこととか、詳しくなりたいことはあるか?」

「突然何の話?」

「まあ、良いじゃないか。例えば、魔法が上手くなりたいとか」

「……?」


 ラプンツェルは俺に怪訝な態度をとったが、少し左上を見て何か考えると、俺に答えを返した。


「そうね。植物のことにもっと詳しくなりたいなとは、思うけれど」

「植物の知識か」


 百を超える項目の中から、『植物の知識』を探し出した俺は、そこに623のうち20ポイントをそこへ注ぎ込んだ。


「えっ!?」


 驚き、その時のラプンツェルの感情はその一色だったろう。

 突如として植物への理解が深まった、ような気がしてならない、普通なら経験することのないあの感覚。冷静に考えるとかなり不思議な気持ちになるよな、アレ。


 ラプンツェルはしばらく固まっていた。しかし彼女は、状況を理解すると警戒の目を向けてきた。

 怪訝、驚き、そして警戒。忙しいな、ラプンツェルも。


「何をしたの」

「ちょっと信じがたい話になるが、俺にはメニュー――って、俺が勝手にそう呼んでるだけなんだが――メニューというものが見えるんだ」


 俺は丁寧に話して聞かせた。

 メニューからステータスが見えること、ディクショナリーという辞典機能のこと、そして特に、熟練度システムやストレージというヤベー機能のこと。


 どうせ、旅に出るなら俺の力を隠すわけにはいかなかったのだ。個人的には、ある程度信用ができる女性だとは分かったので、良い機会だからちゃんと説明することにした。


 地球から来たことについては、話していないが。今話すと確実に情報過多だし、俺の出身地まで語る意味は薄い。


「私が想像していたよりも、ずっと異常なピクシーじゃないの、あなた……」

「ははは」


 全て話し終え、ラプンツェルが理解した時。頭痛でもするのか、彼女は頭を抱えた、

 そろそろ休憩も終わりにして、撤退しよう。話が長くなったせいで、もういい時間のはずだから。

最近は少し忙しくなって、投稿時間も遅れ気味になっております。

少し前にも活動報告に書きましたが、やはり三章からは週に二日ほど投稿を休む日を設けようと思います。

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