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【改稿中】地球から来た妖精  作者: 妖精さんのリボン
一章 森と家と遺跡
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収穫

 月日が経ち、少しずつ暑くなってきた。

 俺は季節も分からぬまま異世界に放り出されたが、ここにも夏が訪れているのだと気付いた。


「夏になると言うのであれば、俺としても相応の準備をしないとな」


 と言うわけで、夏の風物詩である扇子せんすを作るべく、俺は地下にある全く使ってない工作室へ移動した。


 魔法大全の紙をビリビリ破き、ナイフで形を扇状に切り整える。

 なるべく真っ直ぐな枝や幹を魔法で削って、幅五ミリ、長さ七〇ミリの薄く細長い板、というか棒を二十本作る。

 その板の三分の二ほどをナイフで幅二ミリほどに削ってゆく。ここまで細かい作業になるとさすがに今の俺の魔法では制御がキツいので、面倒だが手作業でチマチマやってゆく。


「ああ……端っこの棒も作っておかないといかんな」


 同じく幅五ミリの棒を追加。あとは紙を折って貼るだけ……なのだが。正確に折らないと形が悪くなるし、上手く畳めないので意外と難しい。

 紙を折って印を付ける。この印に木を合わせるのだ。


 コロキャッサバから作ったデンプン糊で木と紙を接着させ、棒の端の一点をツルで束ねて固定して、糊が乾けば完成だ。


「俺の工作力こそ天下無双、決して揺るがん」


 ちゃんとピクシーにも扱いやすいサイズ。試しに煽ってみると、心地良い涼風が俺の頬を包んで冷やした。

 だが気のせいだろうか、全体的にミシミシ鳴っている気がする。耐久性は低そうだ。

 まあ、素人が作った扇子だもんな。あまり激しく煽らないようにしよう。


「さて。手を使った後は、羽と頭でも動かしますか」


 新しく習得した植物の成長を促す魔法をかけてあるので、実はそろそろ収穫ができそうなのである。


 畑は二つあるが、今のところそこまで出来に違いは見られない。強いて言えば、やはり陽当たりの良い南向きの畑のほうがよく育っているだろうか。


 収穫も間近ということで、現在畑の周りには動物避けの結界が張られている。結界といってもバリアのようなものが張られているわけではなく、エリア内に侵入すると手足がピリついてくる程度のものだ。

 しかし、動物避けとしては効果的面である。


 まだ未熟な結界魔法なので、結界の効果が現れない動物も多い。虫や鳥とかな。虫もミミズやクモなどの益虫が増えてくれる分に良いんだが。

 特にクモは葉っぱを食う芋虫が大好物なので、クモを見かけてもうっかり殺さないようにしている。鳥はカカシ君が頑張ってくれることに期待している。


 畑に着くと、青々とした葉っぱが俺を歓迎した。

 多少魔法で楽したり時短したりしたが、数ヶ月かけて俺の手で育てた植物たちである。


 獣や鳥に荒らされて、実際には植えた数の半分ほどしか実っていない。ただ、大目に植えてあるしどうせ俺しか食わないし別に良い。


「これが一番大きいし、これを抜いてみるか」


 周りの芋が荒らされたせいで、そこだけ陽当たりが格別良くなってしまったキャッサバ。

 成長も早いようなので、今日は彼を収穫することにする。


「『耕作』」


 芋の周りの土を掘り返し、芋がすくすく育っているかどうかを確認。太く長く育ったキャッサバの塊茎は、根をしっかりと土に絡ませて己を地面に固定している。これなら収穫しても良いだろう。

 ……この魔法ほんと応用範囲広いな。


『耕作』で掘り返しても良いが、せっかくなので自分の手で掘り出そう。土にピクシーの小さな手をつけ、時間をかけて少しずつ掘ってゆく。


 二〇分ほどかけて塊茎を地上へとサルベージした俺は、キャッサバを葉っぱや根ごと空へ掲げた。


「YEAAAAAAA……やりすぎると喉が死ぬからやめとこ」


 キャッサバや、ああキャッサバや、キャッサバや。

 うーむ、この達成感よ。たまらんな。


 ――――――


 半年、一年と経つうちに、俺の生活はどんどんレベルアップしていった。


 作物に関しては、小麦や大根、少し南西に行ったところではトマト、シトロンなんかも発見した。

 それと、ほんのちょっとだけ亜鉛や鉄の鉱石を見つけた。必要な量には全く足りていないが、火にかけないザルなんかは亜鉛で作ったし、鍋も今では鉄製である。錬金魔法様々だ。


 牧畜計画はやることが多すぎて凍結中だが、いつかは取り掛かりたいものだ。


 レベル上げも、三つ目のゴブリンの巣穴を見つけたことで捗っている。遺跡にもそろそろ行ってみても良いだろうか?


 気付けば俺は、街に行ってみるという目標も、異世界を冒険するという夢も忘れて、森での生活を謳歌していた。スローライフに夢中になっていたと言っても良い。


 そして、異世界に来てから二年が経ったころ。俺と彼女が出会った、あの嵐の日を迎えたのだ。


 この世界で今、何が起こっているのか。

 誰がこの家を俺に用意したのか。

 どうして俺がこの世界に呼ばれたのか。

 全てに答えが出るのは、まだ遠い未来のこと。


 俺の異世界冒険譚は、あの邂逅かいこうを契機に動いてゆくのである。

一章『森と家と遺跡』はこれで完結となります。

二章『嵐の中の来訪者』は明日から投稿予定です。


いよいよヒロインも登場するのでお楽しみに。

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