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【改稿中】地球から来た妖精  作者: 妖精さんのリボン
一章 森と家と遺跡
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働き者は善く休む

休息回です。

少し短め。たまにはこんな回もと思って書きました。

 畑に生えてきた雑草を抜きとって、水をあげたある日の午後。

 俺は久しぶりにゆっくりとした休息をとることにした。


 ここの所ずっと、ハイスピードなスローライフを送っていたからな。全く自覚は無いのだが、俺の身体も相応に疲れているに違いないのだ。

 俺は午後はもう外に出ず、家のソファに寝そべって過ごすことにした。


「つっても、ただ寝てるだけなのはどうもな。……絵でも描くか」


 幸いにも紙は魔法大全からいくらでも破ってこれるので。インクの切れない魔法のペンを使って、俺はペン画を描くことにした。


「よし、チャーリーでも描くか」


 チャーリーは俺がこの家に来る前から、鉢植えに植わっていたこの家の先輩だからな。

 敬意を表して、一枚描いてやろう。


 俺はあたりを見回してチャーリーを探す。

 今回は風呂場へ続くドアの側でクネクネしていた。洗濯物を干す時にじっとしてくれるのであれば、別にクネクネしてようがクルクル回っていようが何していても良いんだが。


「ほんと、風もないのに。クネクネクネクネ、お前はゴミ捨て場の電気スタンドかよ」


 しかもこの植木鉢、俺が見ていない時に動くし。

 だからいつも位置が分からなくなるのだ。


 チャーリーをテーブルの上に置いて、ストレージからペンと魔法大全を取り出す。余白の多いページをビリビリと破き、それをキャンパスにペン画を描いてゆく。


 ペン画のコツは影の付け方にあると思う。色の彩度や明暗に頼れないペン画は陰影をどう表現するかで出来が変わってくる。

 まあ、別にプロじゃないんで、偉そうなことは言えんのだが。ペン一本で正確な描写ができると何かと便利なので、地球にいた時にちょこちょこ練習していたのだ。


 まるで空気を読んでいるかのように、ピタリと静止するチャーリー。いや、動かないのが植物としては普通なのだけれど。

 カリカリとペンを走らせながら、俺は自然と今までやってきたことを脳内で振り返っていた。


 最初はあまりにもできることが少なかった。とにかく水と食料を確保することを第一に考えていた。


 旧カンデラ遺跡を探索したあたりから、行動の選択肢は増えていったと思う。レベル上げもそうだし、魔法という摩訶不思議なものの片鱗に触れたのもだいたいあの辺りだ。

 ちょうどその頃になると、生活の保証ができてホッとした頃だろう。同時に、身の回りの不充実に目が行き始めた。そして、娯楽を求めて天文台を大樹の上に作ったのだ。


 それからローズコブラに襲われて、俺は遺跡という狩場を追われた。それと同時に魔石の浄化に成功し、俺は風呂やキッチンを使えるようになった。

 畑作りの準備を本格的に始めたのもその頃だっただろうか。俺の家の四階には家庭菜園のためのスペースがあるのだが、アレは自給自足のための菜園としては非常に狭い。良くも悪くも、寸分違わず『家庭菜園』なのだ。


「……ところでチャーリー。お前そんなに枝短かったか?」


 少なくとも俺の服を干せる程度の長さはあるはずなんだが。

 やっぱりコイツ、枝の長さも時々変わっているのか?

 異世界の植物って不思議だな。


 忙しくなってきたのはゴブリンの巣穴探索に乗り出してからだろうか。

 洗濯魔法の開発も始めた。進化してからは、畑作り、それに付随して結界魔法の開発。洗濯魔法も結界魔法も、未だに完成はしていない。


 そして、土器を作ったりガラスを作ったり。……あの濁りに濁った物体をガラスと呼ぶのは少し抵抗があるが。


 うーん、これマジで三ヶ月くらいの間に起こったことなのかよ。


 そういや最近は星空を観る時間が少なくなってるな……。

 星空観賞は金がかからず、見ていて飽きない究極の娯楽だ。美しい星々と、それらのストーリーを考えてると不思議と活力が湧いてくる。


「白い植木鉢が意外と難しいんだなー。この明るさと丸みを出すのが」


 考えごとをしているうちに、目の前の紙にはチャーリーのミステリアスな佇まいが浮かび上がっていた。


「……まあ、これで良いか」


 とりあえずその辺に飾ろうかと思ったが、額縁が無いのでストレージの肥やしにすることにした。

 ペンを片付け、チャーリーをテーブルから下ろす。チャーリーを定位置の壁際に戻そうとして、チャーリーの定位置って別に無くねってことに気がついた。


「じゃ、今日の位置はテーブルの脇ってことで」


 まあ、俺としてはこの一階から移動しなければどこにいてくれても構わんのだが。


「でも水やりの時はどこか決まった場所に居てくれると助かるかなー。……ところで、チャーリーって意思があるのか?」


 ……いや、無いよな。水やりに困るって話は散々しているのに、この観葉植物、一度も聴いてくれたことがねえや。あるいはチャーリーさんはきっと、決まった位置や決まった状態が嫌いなんだろう。


「……ん?」


 さわわっ、とチャーリーが葉を揺らす。


 …………決まった状態?


「汚れを取るってことは、汚れが付く前の状態に戻すってことだよな?」


 例えば綺麗な状態の服を記録しておけたら。汚れたらその記録を基に、綺麗な状態を復元できたら。


 物の時間を巻き戻すのはとても高度な魔法だ。なんたって時間を操る魔法なのだから。


 でも、記録した通りの状態を再現する・・・・ということであれば、時間云々は全く関係が無い。


「その路線であれば、これは汚れで、これは服の染料と区別する必要はない。いやそもそも、綺麗な状態を記録する必要もないじゃないか!」


 この魔法のコンセプトは、物体の指定の状態を再現する・・・・というところにある。

 つまり、綺麗な服とはこういう物だよと俺が思い浮かべれば、魔法がイメージを基にして勝手に目の前の服を綺麗な状態にしてくれるようにできるのでは?


 となると、それは。物の状態を操ることにめっぽう長ける、錬金魔法の分野になる……のではないか?


「おおおおお、なんか今すげー痺れた! こんなところで錬金魔法に繋がるのか!」


 錬金魔法であれば、ちょうど今勉強している最中である。ガラスの加工に使ったり、金属を加工するためにな。

 まあ、金属はまだ見つかってないんだが。ケイブエインセルには、宝石や鉱物を見つけやすくなる能力があるはずなんだが……少なくともゴブリンたちの洞窟には無さそうだよな。


 とにかく、方針はこれで良いだろう。あとはひたすら魔法大全と睨めっこして、術式を描いてゆくだけだ。まあ、いつもの作業だな。

 さすがに今まで使ったことないような種類の魔法を、即興で作れたりはしない。それが術式が複雑になりがちな錬金魔法なら尚更である。


「いやあ、やっぱ休息はとってみるもんだな」


 洗濯魔法も結界魔法も全く見通しが立たなかった。金属も見つからず、新しい作物もここのところ見つかってないし、ゴブリンだけでは流石にレベルが上がりづらくなっていた。


 俺はそれを孤独の限界だと思っていたが……単に俺が焦りすぎていただけだったみたいだ。

 時には立ち止まりながら、一つ一つ解決してゆくことも大切なのだ。ウン。


「さ、メシにしますか」


 いつの間にか日も暮れていたようだ。

 俺はストレージからリンゴに似た果物とコロキャッサバで作った芋の焼き団子を取り出すと、空腹を訴える腹をなだめるべくリンゴにかじりついた。

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