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【改稿中】地球から来た妖精  作者: 妖精さんのリボン
一章 森と家と遺跡
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森の中

『知性が暴力を律し、暴力が知性を否定する

 知性の起源を巡る旅路は、ある意味では暴力への哲学であるのだ』





 次に俺が目覚めた時、俺は濃密な緑の香りの中にいた。

 そよそよと風が吹き頬を撫で、二つの太陽が地を抱くように優しく照っている。辺りは木々が茂り、俺の背後には特に一際目立つ大きな広葉樹がどっしりと腰を下ろしている。


 その大樹には根元の部分にドアがついており、見上げればガラスがはまった窓のようなものがちょこちょこと見える。まるで絵本に出てくる妖精の家のようだ。


 自分を改めてみると、俺は宙に浮いていた。そこそこ筋肉のついていたはずの身体は一転して華奢きゃしゃで、生まれつき茶色がかっていた黒髪は綺麗な空色になっていた。

 背中はよく見えないが羽っぽいものが肩越しに覗いていた。さっきから俺の背中でぶるぶる震えて羽ばたいている。


 俺はオタクでもゲーム専門なのであまりライトノベルには詳しくないが、これはいわゆるアレだろうか。

 ゲームの世界にそっくりな異世界に転移しました――的なやつ。


「おいおいおい、さすがに夢だよな……」


 一応頬をつねってみるが、夢にしてはやけにリアルなのであまり期待しちゃいない。案の定、現実に戻ることはなかった。


 確かこういう時は、どうするんだったか。

 ステータスを開けばいいのか? どうやって?


 幸いにもこの疑問はすぐ解決した。『ステータス』と念じただけで二〇センチ四方くらいのゲームのUI(ユーザーインタフェイス)みたいなものが空中に現れたからだ。SFでよく見る、いわゆる空中ディスプレイというやつだ。

 とりあえずこのUIっぽいものはこれからメニューと呼ぶことにしよう。




 ドリア=ポーリュシカ(25)

 性別:男

 種族:ピクシー(L5)

 形態:バトルピクシー

 状態:正常


 HP55

 MP105

 攻 107

 守 45

 魔 145

 知 107

 速 188


 熟練ポイント:200


 取得済みの形態

『バトルピクシー』『ヒールピクシー』




 これが俺のステータス、になるのだろうか。

 ドリア=ポーリュシカという名前でほぼ確定した。ここは『ペンタングル』の世界だ。名前の隣にあるのは、多分俺の年齢なんだろうな。


 しかも、俺は設定した通りピクシーになったらしい。ステータスも、すべて初期値に戻っている。

 物理に打たれ弱いとの触れ込み通り、ピクシーはHPと守がかなり低い。ダントツで高いのは速だが、まあ、当然か。なんたって飛んでるし、見るからにすばしっこそうだし。

 とは言っても、改めて思うが、スピード188に対して物理耐久が55-45なのは如何なものか……。


 メニューにはステータスが表示されるページの他にも、色々なページがあった。これはメニューの上にあるタブをタッチすれば切り替えられるようだ。今後のためにも一通り確認しておこう。


 この適応力の高さは自他共に認める俺の自慢である。


「ステータスの他には、収納(ストレージ)と、ディクショナリー、熟練度、パーティ、あとマップだけか。現実に帰るコマンドはないんですかね……。どうしようもなさそうだな」


 ストレージを確認すると、アイテムがいくつか入っていた。HP回復のポーションに、解毒ポーション。幾ばくかの水や食料。そして、わざわざ赤文字で表記されたスイッチジェム。

 メニューの下には1000Gと表示されていた。所持金はストレージから確認できるのか。


 俺はひとまずスイッチジェムをタッチして取り出してみた。俺の手の中に、透き通った虹色の水晶が出現した。これがスイッチジェムか。画面越しだとちっちゃい宝石のグラフィックだったが、ピクシーになった今では相対的に大粒に感じる。握ったときの手へのフィット感が抜群の、ピクシーにちょうど良いサイズ。


 ピクシーという種族の最大の特徴は、こいつを使って能力を変えられることだ。ステータスを見るに、今は『バトルピクシー』という形態で、『ヒールピクシー』と切り換えることができるようだ。

 それぞれの能力は、まあ名前そのまんまだ。攻撃形態と、回復形態。これらもゲームでは初期から習得している形態である。


 ディクショナリーのページは、ゲーム中の用語や敵の情報などをまとめた『ペンタングル』の大百科として使われていた。

 ディクショナリーを開いてみると、新たに用語検索や画像検索によって情報を引き出すこと機能が追加されている。すげえな、誰だよコレ追加したの。神か? やっぱり神なのか?


 試しに『ピクシー』と入力してみると、電子辞書のように瞬時に結果が出てきた。




『ピクシー』

 自然と自由を愛する種族で、甘いものと歌が大好き。身体は小さく華奢で、虫のような羽を持つ。精霊の一種で、半分くらいノリで生きている。

 レベルが20に達するとエインセルに進化する。




 出てきた情報は、俺が予め知っていたものとほぼ同じだ。

 進化の条件も、ゲームと変わっていない。


 レベルというのはステータスの『ピクシー(L5)』の括弧の数字だ。俺は今(レベル)5というわけだ。『ペンタングル』の初期レベルと同じである。


 やっぱり、レベルを上げるには魔物を倒さなきゃいけないのか? 画面越しならまだしも、リアルでの戦闘なんてしばらくご無沙汰なのだが。

 スライムならまだしも、オークとか出てきたら倒せる気がしない。


 次は熟練度のページ。『ペンタングル』はモンスターを倒してレベルを上げたり、クエストというちょっとした仕事をこなすことで熟練ポイントというのが溜まっていく。レベルアップ以外でも、こいつを使って自分を強化できるのが、熟練度というシステムだ。


 今の俺は200の熟練ポイントをもっているらしい。これもゲームの初期値と同じだ。早速何か強化してみても良いが、ここは慎重に何も手をつけないことにしよう。


「強化できる項目は……んん? ずいぶんと様変わりしてるな」


 ゲームと同じだったり、一方で全く違う部分もある。

 熟練度もその一つだ。わずか三十項目しかなかったゲームと比べて非常に多種多様な項目が並んでいる。ざっと二百は超えているので、列挙するのは難しい。


 目につくところでは『魔法の才』『剣の才』『毒の知識』『格闘術』『召喚術』『科学の力』『生活術』、面白そうなもので『のど自慢』『バナナの皮芸』『アイデアマン』、色んな意味でヤバそうな『経験値2倍』『機械化』なんてものもある。

 生活術もバナナの皮も経験値2倍も、ゲームには存在しなかった。


 まあ、機械化とかは『錬金術の才』と『科学の力』を最大まで強化したうえで大量の熟練ポイントが必要らしいから、当分は縁が無いだろう。

 縁があってもあまり習得したくはないけどな。


 ざっと熟練度システムについて確認した俺は、ページを切り替えてパーティのページを見てみた。

 パーティのところには俺の名前と状態がざっくりと表示されており、ページの左上に(1/6)と表示されている。『ペンタングル』は最大6人のパーティが組めるゲームなので、6というのはパーティの最大人数だろう。現在は、俺一人だけで一つのパーティを作っている状態ということだ。


「しかし、パーティを組むって、リアルだとどういう状態なんだ?」


 あいにく人が見当たらないので今は試せないが。

 いや、そもそもディクショナリーで検索すれば良いのか。

 俺はディクショナリーのページに戻ると、パーティについて調べてみた。




『パーティ』

 この世界における戦闘集団の最小単位。同じパーティに属する者は互いの大雑把な現在地が分かり、同士討ちによるダメージを受けない。また、魔物討伐での経験値がレベルの差異に応じて分配される(レベルが高いほど配分も多い)。

 パーティを組むには互いが同意すればよく、離脱するには離脱者本人が望むだけでよい。




 なるほど、この世界でもゲームのようにパーティを組むことは可能らしい。パーティを組むと同士討ちが防げるのか。

 戦闘集団の最小単位というちょっとお堅い表現も、辞書らしい定義で、すこし笑えた。


 パーティについてはだいたい分かったので、最後にマップを確認してみる。


「ほう。やはりグー○ルアースみたいになるんだな」


 マップには広大な森が俯瞰ふかん視点で映し出されており、おそらく俺の現在地であろう場所で青丸が点滅している。その青丸と重なるように『ドリアの家』という文字がマップに表示されている。やはり、この背後の大樹が俺の家なのだろう。


 マップに指を当てて横に弾く――いわゆるフリックすることで、視点を動かして周りの地形の確認ができた。マウスを動かすか指を動かすかの違いだけで、操作方法は全く変わっていない。


 北西に少し行くと泉があった。マップには『名もなき泉』と表示されている。距離は約一キロ。家から近いようだし、とりあえず水には困らなそうだ。

 寄生虫とかが不安だが、まあ加熱すればなんとかなるだろ。

 いやむしろ、なんとかなってもらわないと命が危ない。


 となると、煮沸のために火を起こせる魔法を覚えたい。やり方は知らないが、熟練度の『魔法の才』を上げれば火種くらい作れるのではなかろうか?


「いずれは魔物とかにも出くわすんだろうしな。魔法とか、遠距離からの攻撃手段が欲しい」


 正直、近接戦はカンベン願いたい。痛いし、血とか噴き出るかもしれん。

 ステータスを見れば分かる通り、ピクシーは意外と物理攻撃もできる種族だ。とは言え、魔法のほうが得意なので、是非ともそっちを使いたい。


 端っこのバーを操作すればズームもできるようだ。ただ、最大でも縮尺は十万分の一。つまり、一度に表示できる距離は端から端まで最大二〇キロ×二〇キロということになる。

 二〇キロといえば、車で三、四〇分くらいの距離である。車なんてものが無さそうなこの世界では、二〇キロ先まで映してくれるなら十分であろう。

 そもそも、フリックしていけばずーっと遠くまで映せるからな。見るだけならどこまでも見ることができる。


 南西から南東にかけては何も無い。正確には延々と森が広がっている。少なくとも、二百キロ先まで森だ。

 真東に行くと、明らかに人工物らしきものを発見した。といっても、マップを見る限りでは廃墟のようだ。マップには『旧カンデラ遺跡』と出ている。旧、ということは新があるに違いないと、近くを注意深く見回したが、残念ながら現在のカンデラ遺跡は発見できなかった。


 北に行くと、ざっと百キロ以上だろうか、あるところで森が途切れて、明らかに人道と言えるものが伸びていた。

 これはと思い道を辿っていくと、道を北西にちょこっと進んだところに街があるようだ。


「ここに行けば、人がいるのか」


 人間がいるのか、ドワーフがいるのか、色々いるのか。その辺はまだ分からないが、ここには近いうちに行こうと俺は決めた。……最寄りの町で百キロとか、相当深い森なんだな、ここ。

 ちなみに街の名前は『グリンダの街』と表示されていた。


「グリンダの街……ゲームでは聞いたことがないな」


 ここまで『ペンタングル』と似ている以上、あのゲームと無関係な世界とは考えられないが。

 ディクショナリーでグリンダの街を調べても良いが、まあ、今調べても時期尚早か。


 まずは人に会うよりもサバイバルである。

 俺はメニューを閉じると(『閉じろ』と念じたら普通に閉じた)、俺の家ということになっている大きな木にくっついた扉を開けるのだった。

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