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【改稿中】地球から来た妖精  作者: 妖精さんのリボン
一章 森と家と遺跡
19/63

土とガラス

昨日は更新ができずお待たせしてしまいました。


しばらくは毎日投稿でやっていきますので宜しくお願いします。


また突然休むこともあるかもしれませんが……。

「……おっ、意外と良いんじゃね?」


 お手製の窯の中から取り出したそれを、俺は仕上がりを噛みしめるようにさすった。


 今回製作したのは、土器テラコッタである。陶芸に挑戦してみたのだ。

 畑を作る時に、土がべちゃべちゃで候補地から外した場所があったと思う。あの土を採取し、石などを丁寧に取り除いて粘土として試しに使ってみたのだ。


 まあ、陶芸なんて愛媛旅行で一度体験しただけなので、知識はほぼゼロであるが。

 とりあえず、土をこねて形成して、乾かして焼いてみただけで、陶器と言うにはお粗末すぎる仕上がり。なので俺は土器と呼んでいる。施釉もしていないし。


 一応、こねる時間や乾燥時間などを変えて、今回は十個作った。最適な作り方を研究するためだ。

 焼く過程で三つほど割れてしまったが、仕方ない。

 まあ、それぞれの出来の違いは、後で比較するとして。


 なぜ今回土器を作ろうとしたのか。

 一言で言えば、メシに飽きた。


 俺はこの二ヶ月、食事はずっと生か、焼石の上で焼いていた。まともな道具が無く、金属すら採れていないので、調理法はその二択だったのだ。

 しかし、これからは違う。土器が完成すれば、煮たり茹でたり、油があれば揚げることもできるのだ。


「いやあ、ホッとした。土器が成功しなかったら、チャーリーを移植して鉢植を奪取しないといけなかったからな」


 鉢植で煮炊きするピクシーというのは、絵面はかわいいかもしれないが。やってる本人は微妙な心境に違いない。


「さっそく作ってみるか」


 ひとまず、一番形が良くできたやつを使ってみる。

 キッチンは魔石によってすでに起動しているので、いつでも使えるぞ。


 まずは俺が日頃から集めている果物から、なるべく甘いものを選んで皮を剥き、土器に突っ込む。


 手ごろな石をキレイに洗浄し、その石でゴリゴリと果物を粗く潰してゆく。土器をコンロに、火をつけて潰した果物たちを煮てゆく。

 うーん、砂糖があればな。


 なるべく細長い石を使い、焦げないようにかき混ぜて水分を飛ばす。

 頃合いを見て火を止め、完成。


 フルーツジャム。これが俺が異世界に来て、初めての煮炊き物である。


 ストレージから焼きキャッサバを取り出す。特にエネルギーとなる炭水化物キャッサバは、いつでも食えるように予め焼いてあるのだ。

 ストレージに入れておけば腐らないからな。

 出来上がったばかりのフルーツジャムを、キャッサバにつけていただく。


「むー、甘酸っぱい」


 普段食っていたジャム、どんだけ砂糖入っていたんだ。

 俺は果物の控えめな甘さに、自然の味を感じとった。


 ふむ……今度塩を加えて、甘じょっぱいフルーツソースでも作ってみようか。畑に獣がかかっていれば、ポトフとかも作れそうだし。色々アイデアが思い浮かぶ。


「さて……どうやってジャムを保存しよう」


 今気づいてしまった。調理道具だけじゃなく、容器も作らないといかんのか。


 容器……やっぱガラスか?


「ガラス自体は、遺跡で回収した鏡があるけどな。でも、質の悪いガラスであれば今の俺でも作れるんじゃないか?」


 だって、ケイ素なんて土に大量に埋まってるワケだし?

 土壌がガラス化するだけの温度が作れれば、あとはガラスを加工する魔法でなんやかんやできる。

 ちょうど、金属加工の魔法を勉強しているからな。その知識が応用できるかもしれん。


 何かを作ったり加工したりする魔法は、一般に錬金魔法と呼ばれ、攻撃魔法とはまた勝手が異なる。『でっかい火の玉』で済んでしまう攻撃魔法と違い、魔法の緻密性が高く、魔力を変調させる工程が非常に多い。


 まあ、当たり前っちゃ当たり前である。グーで殴るのはチンパンジーにもできるが、ガラス瓶は人間にしか作れないのだ。


 あ、別に攻撃魔法が簡単って言ってる訳じゃないぞ。攻撃魔法は純粋なパワーを必要とするので、強力なやつほどMPの消費が爆発的に増えてゆくのだ。

 錬金魔法は消費MP自体はあまりインフレしないが、その分知識と発想力を必要とするのである。


「普通の炎じゃガラス化なんてしないよな。してたら俺の土器もガラスになっているだろうし」


 火の温度は酸素の量によって決まる。

 普通に火を起こせば、自然に流れてくる酸素だけが燃焼のタネになっている。

 だから、団扇などで人工的に酸素を与えれば、火はより熱く激しく燃えるのである。


「……さすがに下手に実験するのは危ねえな」


 俺は準備に取り掛かった。

 まずいつもの泉へ直行し、作ったばかりの土器に水を満たす。魔法でいつでも水は出せるが、不測のMP切れに備えておいて損はないだろう。


 家の近くの手ごろな場所を選び、木を切り倒す。草や根を除去し、実験に必要な広い場所を確保する。

 木に燃え移ったら消火が面倒だしな。


「できれば防火服みたいなのを着てやりたいんだがな。無いものは仕方ない」


 ひとまず火の玉を作る。俺の前で生み出された真っ赤な炎は、球形になるに従ってオレンジ色へと変わってゆく。熱が一点に集まってゆくために、温度が高くなるのだ。


 そこに、酸素を送り込む。酸素を作る魔法はすでに開発済みなので、火の玉を作る魔法の術式と合体させたのだ。

 そーれ がっちゃんこ! よしよしよしっ!


「おおお、火の玉が白くなってきた。て言うか眩しくなってきた」


 ここまで来るともはや白熱電球のフィラメントの温度なのでは? いや、あの部分が何度に達するのかは知らんが。


 もっともっと酸素を送り込み、がんがん温度を上げてゆく。できることなら限界まで上げてみたいが、MPもぐんぐん減り始めたので、頃合いを見て土にぽいっとすることにした。


 さすがに眩しく発光するほど熱くなれば十分だろう。俺は火の玉をゆっくりと地面に下ろした。


 地面とキスをした白熱する火の玉は、あふれるラブによって地面をドロドロに溶かしてゆく。液体になった土を冷却すれば、きっと玉のような赤子のガラスになっているはずだ。


「……ところで、あれどうやって冷ますんだ?」


 水をかけて冷ますつもりだったが、ついついやり過ぎて温度を上げてしまった。

 あんな、何千度もあるか分からん火の玉に水なんぞかけたら水蒸気爆発が起こる。死ぬ。


 いや、死にはしないが危ない。

 まあ、自然にある程度冷めるのを待つか……。酸素供給を少しずつ減らして、徐々に温度を下げてゆこう。


「うーん、数千度の物体から目を逸らすのも嫌だな」


 予定では、土器の出来具合を確認して、改善点を探すはずだったのだが。


 どうやら俺の午後はドロドロに溶けた地面を眺めて終わるらしい。


 ――――――


「うっし、やっとできた」


 次の日、冷えて固まったガラスを回収した俺は、錬金魔法でぐにゃぐにゃとそれを加工した。


 ぶっちゃけマジで土を溶かしただけなので、透明感がまるで無い、不純物てんこ盛りの汚いガラスではあるが。


 次は不純物の取り除き方を研究しないとな。ガラスで鍋作って火にかけてってわけにもいかないので、土器の研究も続けなきゃ。


 それに加えて畑の世話とか罠のチェックとか、レベル上げに食料採取に金属探し、魔法の勉強に魔石の浄化、洗濯魔法と結界魔法も開発して……さすがに過密すぎるな。

 ここまでやることが増えるとは思わなかったし、前に組んだスケジュールはもう意味無いな。一回スケジュールを見直して、きちんと組み直すか。


「畑も順調に芽が出てるし、今はなるべく目を離したくないしなー」


 あの畑、鳥への対策がまだ不十分なんだよな。一応カカシを突っ立たせてはいるんだが。

 霞網を仕掛けて一網打尽にしたいんだが……材料が足らない。見つからない。


 いっそカカシを魔改造して、自力で鳥を追い払うようにしちゃうか? でもなー、それゴーレム的な分野になるだろ。これ以上勉強量を増やすと対応できないぞ。


「……こんなに忙しくなる前に、人里に行っておくべきだったかなあ」


 俺は一人の限界を見た気がした。


 ずっと北西に行ったところには、グリンダの街という場所があるのを確認してはいる。

 だが、ひとまず近場の探索をしてみようと後回しにしたせいで、結局街には一度も行っていない。


 今や飛行速度は軽く時速一〇〇キロを超えるため、行くだけなら半日かからないんだが……。


 しかし、今さら街に行ったとしてどうなるのだろうか? 人を雇って手伝ってもらうのか?


 手持ちには初期からある1000ゴールドしかない。ゲームと物価が同じなら、宿屋に三日泊まれば無くなる金額だ。

 何かを売って稼ぐにしても、金になりそうなものなんて無いしな。いや、思わぬものが大金になるケースもあるから、全く可能性が無いわけじゃないんだが……。


「……まあ、いいや。今のところキャパを超えているわけじゃないし」


 俺は後片付けをしながら、作業場の妙な静けさを感じるのだった。

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