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【改稿中】地球から来た妖精  作者: 妖精さんのリボン
一章 森と家と遺跡
18/63

しゃべった

「……ひょっとして、最奥に着いたか?」


 ここはゴブリンの洞窟。ケイブエインセルとなった俺はサクサクと探索を進めていた。

 初めてここに入ってからもう二ヶ月とちょっとは経ったころ。


 意外と広大だった洞窟の中でも、一際大きな広間に俺は出た。


 そこには地下水脈が一筋の滝となって流れ込み、小さな池を作っていた。壁面には穴がいくつも掘られており、その横穴から十数匹ものゴブリンがこちらを警戒している。

 二ヶ月かけて作り上げた洞窟内の地図は、最早行っていない場所はほとんど無いことを示している。この広間から伸びる道は、見たところ無いようだし、ゲームで言うならいわゆるボス部屋ってところだろう。


 いるのはボスじゃなくてゴブリンだがな。


「ふむ……まあ、気づかれているんだろうな。めっちゃこっち見てくるし」


 すぐに襲いかかって来ないのは、俺が何百ものゴブリンでレベル上げをした悪鬼のような奴だと分かっているからだろう。見た目的に悪鬼なのはゴブリンのほうだが。


 さて、どうしたものか。別に、このまま殲滅せんめつするのは難しくないだろう。穴の中にまだまだ百匹とか隠れているかもしれないので、油断するつもりは無いが。

 ただ、今のところ俺はレベル上げスポットをこの洞窟に頼っている状態だ。このままゴブリンを全滅させてしまうと、次なるレベル上げスポットを探さねばならなくなる。


 それは、正直言ってめちゃくちゃ面倒臭い。


 だって、この洞窟見つけるのに一週間かかったんだぞ? 次はそれ以上の手間がかかるだろう。


 今日のところはこのまま引き返すべきか。そう思っていると、横穴から新たに一匹のゴブリンが顔を出し、よたよたとこっちへ向かってきた。


「ユー ころすか?」


 ……………………?


 ふむ。一瞬、このゴブリンが言葉を話した気がするのだが……気のせいだろうか?


「ユー ころすか ゴブリン?」

「やっぱ喋ってんじゃねえかよ!」


 思わず叫んでしまったせいだろう。洞窟に響いた俺の声はゴブリン達にも届いたに違いない。。不必要に刺激してしまったらしく、奴らはギィギィと鳴いて俺を威嚇し始めた。


「……ここじゃうるさいな。お前、こっち来てくれよ」

「わからない ことば なに?」

「話をしよう。俺と、ユーとで」

「はなし おれ ユー わかった」


 どうやら本当に言葉は分かっているらしい。

 俺が踵を返すと、その喋るゴブリンはよたよたと俺の後を追ってきた。しばらく歩いて鳴き声の聞こえないところまで来ると、改めて俺はゴブリンに向き直った。


 さて、何から話したもんかな。


「言葉の分かるゴブリンはお前だけなのか?」

「ことば おれだけ。おれ かしこい。おれ わからない みんな わからない」


 しゃがれた高音でゴブリンは喋った。

 どうやら彼曰く、言葉が分かるのは自分だけらしい。群れで一番賢いと豪語までしているようだ。


「なぜ言葉が分かる?」

「せんぞ しってた なぜ わからない。おやじ おしえる」


 カタコトすぎるので、ここから彼の言葉を要約すると。

 このゴブリンの先祖は理由は分からないが人間の言葉を会得していたらしい。その知識をこのゴブリンが継いだようだ。


 彼も、人間と戦うときに向こうの作戦が分かるからと、一生懸命父から教わったらしい。

 確かに『オレサマ オマエ マルカジリ』と聞こえたら、人間が噛みつき攻撃を仕掛けてくると分かるしな。


 彼は、今の群れが俺のせいで壊滅寸前であることを話した。そして、俺の目的を知りたがっているらしい。

 レベル上げって、伝えたとして意味わかるか?


「……? わからない。おれ かしこい ユー とてもかしこい」

「ですよねー」


 結局、強くなるためだ、とおそらく一番分かりやすい言葉で伝えてあげた。


「つよくなる。だから ころす。とてもわかる」

「まあ、世の中そんなもんだ」

「おれも ほかのむれ おそう。おれ ユー おなじ」

「そうそう、弱肉強食……え、他の群れ?」


 コイツ今さらっと重要なこと言わなかったか?


「なあゴブリン。お前、他のゴブリンの巣を知っているのか?」

「す?」

「他の群れの場所だ」

「ほかのむれ しってる」


 ……おう、マジかよ。なんとか聞き出せねえかな、その場所。ゴブリンとはいえ、そこそこ賢そうだぞコイツ。


「なあ、他の群れの場所を教えてくれないか? そしたらお前の群れを襲わないであげるぞ」


 もちろんコイツの群れを襲ってしまうと他の巣の場所が聞けないので、襲うわけがないのだが。

 我ながらずいぶんと悪どいことを申している気がする。やっぱ俺ピクシーじゃなくて悪鬼インプなんじゃねえの?


「ころさない ほんとう?」

「ほんとう」

「ユー やさしい」

「俺もユーが賢くて嬉しいよ」


 駆け引きも何も無かった。

 やっぱゴブリン、めっちゃチョロかった。


「おれも ユー おねがい」

「おっ、何だ?」

「むれの おす ころす。めす おれ ひとりじめ」

「…………ああ、良いぞ」


 やっぱ俺は悪鬼じゃなくてピクシーみたいだ。ガチの悪鬼と比べたら俺のズルい企みなんてかわいいイタズラじゃないか。


 その後はゴブリンの要望により、群れの雄ゴブリンを殲滅させていただいた。

 ゴブリンは頭が悪いので、言葉を話す彼だけが生き残ることには雌たちは何の疑問も持たないだろうとのこと。


 にしても、こんなに雄が減ったら労働力や戦力がいなくてこれから大変そうだが……そのあたりは大丈夫なのだろうか?

 まあ、俺が気にすることじゃないな。あのゴブリン曰く、自分は賢いそうなので、ちゃんと考えがあっての要望なんだろう。俺はもう知ーらね。


 ゴブリンからお礼として差し出された蝙蝠こうもりの死骸は丁重にお断りしつつ、俺はそのゴブリンを連れて地上へ出た。


 ゴブリンは目が見えていないらしいが、音と触覚を頼りに普段は生活しているとのこと。ぺたぺたとあたりを探った彼は、こっちだと俺を導いた。


「ユー やさしい。ゴブリン ちがう」

「ゴブリンは優しくないって?」

「おれ しょうき すくない。みんな しょうき おおい。しょうき いきもの きけん」

「瘴気ねえ……俺はよく分からんのよな」


 魔法で重要なのは魔力のほうなので、瘴気の勉強はあまりやっていない。もちろん瘴気について書かれたページも魔法大全にはあるし、気になるならいっそ自分で研究してみることもできるが。


 魔力が心に反応するエネルギーに対して、瘴気は心が反応してしまうエネルギー。瘴気を利用している魔物は、その代償に心を瘴気に壊されてしまう。


「まもの ユー てき。ゴブリン ユー てき。おれ ユー てき」


 草をかき分け、ぺたぺたと岩や石を触りながら、ゴブリンは真っ直ぐ森を進んでゆく。その後ろを、俺はふよふよと飛んで追ってゆく。


「おれ ユー ころしたい。でも できない。ユー つよい かしこい」

「お、おう……」


 実はお前に殺意があるんだけど強くて勝てないんだ、って。それ相手に向かって言っちゃダメなやつだろ。

 やはりバカなのか? ゴブリンはバカなのか?


 俺がゴブリンの発言に戸惑っているとゴブリンがピタリと足を止めた。


「ここ」

「ふむ。確かにあのお粗末な垣根があるな」


 巣穴から南東へよたよたと進むこと十キロ。もはや日も暮れかけたころ、その洞窟は突然現れた。

 俺は真っ先に自分の現在位置をマップで確認し、その場所を地図へトレースした。


 にしても、十キロ進んだだけで別の巣があるとはな。もしかすると他にも群れがあるんじゃなかろうか?


「なあ、もっと他の群れの場所を知らないか?」

「ここ」

「いや、ここじゃない場所を知っているかって」

「…………? ……! ……?」

「ユーが知ってる他の群れは幾つだ?

「いくつ?」

「数を聞いてるんだ、群れの数」

「……かず?」

「……」


 まあ、俺は紳士だからな。こんなことでイラついたりはしないのだよ。

 やっぱゴブリンからはこれ以上何か書き出せそうには無いな。辛うじて会話が成立しているのが、よく良く考えたら奇跡じゃないか。


 俺は粘り強く情報を聞き出してみたが、このゴブリンはそもそも洞窟の外に出たこと自体ほとんどないらしく、大したことは知らなかった。

 ディクショナリーにも、一生のほとんどを洞窟で過ごすって書いてあったからな。


「じゃ、ここでお別れだ。お前の群れはもう襲わないことにするよ。一紳士としては、約束は守らなきゃな」

「しんし しらない なに?」

「紳士ってのは、俺みたいな強くて賢くて優しい男のことを言うのさ」

「おれ つよくなる かしこくなる。でも やさしくなる できない。おれ しんし なれない」


 ゴブリンは感情の読めないしゃがれた声で言った。


「おれ しょうき ある。しょうき いきもの きけん。おれ きけん やさしい ちがう」


 ゴブリンはその言葉を最後に、どんどん暗くなってゆく夕暮れの森の中へ消えていった。巣穴に帰って行ったのだろう。


「つか、久しぶりに人(?)と話したな」


 うーん、なんだか不思議な出会いだったな。

 別に魔物と分かり合いたいとか、そういう博愛主義を持っているわけではない。しかし、話すゴブリンに出会えるとは思わなんだ。


 どんな集団にもああいう変わり者はいるということだろう。

 そういう奴がしぶとく生き残るんだよなあ。今回もアイツ以外の雄ゴブリンは死んでしまったし。俺が討伐したんだけど。


 世界中に飢餓が訪れた時、生き残るのは金持ちでも腕っ節のある奴でもなく、虫を平気で食える人間だ。


「うお、俺も帰らないと。マップがあるとはいえ、真っ暗闇をいつまでもうろついているのは良くないよな」


 すでに東の空には蝙蝠座が光っている。すぐに北でマグのような形の星座も光りだすだろう。

 俺はひとまず新たな狩場を見つけたことを嬉しく思いながら、大樹へ向かって飛び立った。

あっ、話すゴブリンの出番はもう無いのであしからず。


本当は二〇話で一章終わらせるつもりだったんですが、数話ほど伸びるかもしれません。

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