エピローグ
とある大学のキャンパス。
いつもいる学生たちは、今日ここにはいない。代わりに、まだ数えるほどしかこの地に踏み入れたことのない、様々な学校の制服を着た者が大きなボードに貼られた番号の前に集まっている。
番号を確認すると、見つけたものはガッツポーズを見せ、逆に見いだせなかった者は静かに去っていく。
一部の者は、胴上げをされたり、その者の両親に祝福された。
簡単に言えば、大学の合格発表。
そこに一人の男が入って来た。
学生服の上にコートを羽織っており、入ってくるとおもむろに合格者発表のボードから番号を見つけ、確認を済ませる。
坦々とした表情で、自分の顔を入れるようにスマフォで合格発表の画像を残す。
そのまま、踵を返して大学を去ろうとした時、そのスマフォが振動して着信を知らせると、画面が切り替わる。
紗英。画面にはそう書かれていた。
一度深呼吸してから、男は通話を始める。
「どお?」
紗英。それは女性のようだった。
「どうって、そっちはどう?」
「もしそっちが『あれ』だったら言いずらいじゃない…… じゃあ、同時に言おうか? せーの」
『受かった!』
二人の声がシンクロした。
顔がニヤついているのを隠さず、男は言った。
「良かったな、紗英」
「ミヤジなら受かると思ってた。じゃさ、例によって皆さそって、焼肉屋に行かない?」
「ああ、いいよ。今日は発表を見にくる以外、何にもすることなかったんだ」
「うん、じゃあ、私からみんな誘ってみる」
そう言って通話が切れた。
その日の夕方、宮地は紗英からメッセージアプリできた連絡の時間に、焼き肉屋に入った。
店の奥の座敷に案内されて、そこには皆が待っていた。
紗英が小さく手を振った。
一人、二人、三人と立ち上がって、宮地に近づいてくる。
「合格おめでとう」
「飯塚、ありがとう」
「この場で言うのもなんだが、あの大学って首相の一声で、格安であの土地を買ったらしいじゃないか」
「まあ、普通に売ったって、ゾンビがいた土地なんか、誰も手を付けなかったろうけどな。飯塚、お前は春から消防署員なんだって?」
「ああ、そうなんだ。ようやくな。けど、仕事の辛い話ばかり聞こえてくるから、気が重いよ。ただ、やっぱり、やりがいはあるよ。確信した」
飯塚はそう言って笑いながら、横にズレる。
「やったなミヤジ。おめでとう。これで、晴れて大学生か」
「ありがとう。ケン」
二人はがっしりと握手する。
「それしても、お前は変わっているよ。ワザワザあの街に研究施設を立てた大学に入学するなんて」
「あそこには謎が残ったままだから、行かなきゃいけない、調べなきゃいけないと思っているんだ。ケンは、その後大工の棟梁とはうまくやってる?」
「うまくやってるも何も、俺しかいなくなっちゃたからな。自然と大切にされてるぜ」
ケンはブイサインをして横に退く。
「xx大学に受かったんだってな。すごいな。それに、あんな事件で街に戻れなくなったのに、ウイルスを研究したいなんて、やっぱり宮地は変わってるな」
「えっ? ……もしかして」
宮地は髪の長い男を目の前にして、記憶の奥をたどっていた。いや、髪をみたらわからなくなるぞ。宮地は頭の中で、髪の毛を消した映像を思い浮かべた。
「三田村!」
給食を食べたあと、具合が悪くなり救急車で運ばれた三田村。
そうか、と宮地が考えた。入院していたから、あの時のゾンビ事件に巻き込まれなかった、のだ。
「やっと思いだしたか」
宮地は三田村を指さして言った。
「髪あるじゃん」
ケンと飯塚が笑った。
「当たり前だろ。あの頃は病気の関係で、わざと髪を剃っていたんだ」
「懐かしいな、いまはどうして……」
話しが長くなりそうなところを、飯塚が制した。
「その前に話す相手がいるだろう」
紗英が前に進み出てきた。
「ミヤジ、合格おめでとう」
「ありがとう。紗英も合格おめでとう」
「……」
無言のまま紗英と宮地が見つめあっていると、急に、ケンが手を叩いた。
「なんだよ、この間は? チューか? チューなのか?」
宮地はこの場で抱きしめたい気持ちを押さえていた。
紗英が、パッと両手を上げると、宮地もそれに応えて手をあげ、ハイタッチする。
思い返せば、ゾンビ事件のころは、自分は紗英よりずっと小さかった、こんな高さで紗英とハイタッチなんて出来ると思ってなかったな。一瞬、そんなことが脳裏によぎる。
そして、二人の表情は、はちきれんばかりの笑顔に変わって、声を揃えて言った。
『ヤッタネ!』
そして、二人は祝福の拍手に包まれた。
読んでいただき、ありがとうございました。
はじめて、エピローグを書いてみました。
終わらせ方が、何度読んでもうまくないな、と思っているのですが、何度書き直してもよくなった気がしません。なので、ちょっと納得は出来ていないのですが、これでおしまいです。
掲載して、約1か月と一週間。
書いている期間は2か月と2週間ぐらいでしたでしょうか。長かった……
本作は気に入っていただけましたでしょうか。気に入っていただけたら、自分の他の作品も読んでいただけると嬉しいです。
ではまた、2~3か月、別の小説を書いていきます。ネタはまだ出てないんですけどね。
またお会いしましょう。




