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 宮地たち四人は、教室に戻った。

 一つ目のロウソクが消えかけていたので、もう二本に火を付け、少し離して置いた。

 ロウソクの炎に浮かび上がる飯塚の服は、飛び散った体液が模様のようについていた。

 紗英と宮地は椅子に座って、飯塚は床に腰を下ろして、見てきた外の様子を話し続けている。

「……車は走っていない。外灯も、信号も消えていた。普通の人が歩いていない代わりに、ゾンビがいたるところにいた」

 こっちが知っている状況と同じだ。と宮地は思った。

「近くで消防車と救急車が止まっていたが、ハッチが開いたままで、誰も乗っていなかった」

 救急車の人も、相手がゾンビだと思わなかっただろうから、そのまま噛まれたに違いない。

「よく大丈夫だったな」

 宮地が言うと、飯塚はバットを手に取って、構えるようにもって見せた。

「中学校の校庭にこの金属バットが落ちてて…… 何度か危ない時は、これで首を吹っ飛ばした」

「それで服が……」

 紗英が飯塚の服を見ながらそう言った。ゾンビの体液を浴びて、染みになっている。

 そのタイミングで、飯塚から一番離れた場所に立っていたケンが『ボソ』っという。

「おまえ噛まれてないよな?」

「!」

 紗英と宮地がその言葉に反応して、椅子から立ち上がる。

「ほら、みろよ」

 飯塚は服を脱いだ。

 体には体液のしみはない。綺麗なものだった。

「平気だろ? 偶然だけど、ゾンビになるところを見たんだ」

「やだ……」

 飯塚は服に袖を通しながら、話し続ける。

「噛まれると、ものすごい痛いみたいだった。その人は、すぐ立っていられなくなって、うずくまってしまった。しばらくすると、ゆらゆら立ち上がってゾンビの出来上がり。もし噛まれてたら、学校に戻る間もなく死んでるよ」

「どうしよう……」

 宮地がすがるようにそう言った。

「多分、ここにいるのが一番安全だよ」

 飯塚はそう返した。

「けど、さっき教頭が来たみたいに、ずっと安全ってわけでもない」

 宮地の言うことなど気にもしていない風に、飯塚は言う。

「ああ、腹が減った。ケン、さっき助けてやったんだから、代わりに駄菓子を何かくれ」

 ケンはまだ信じていないのか、飯塚には近づこうとしない。

 遠巻きに回って駄菓子を手に取ると、飯塚に向かって放り投げた。

「ほら、やるよ」

 飯塚は投げられた駄菓子をキャッチすると、すぐに『むしゃむしゃ』と食べ始めた。

「よくこんな状況で食えるな」

 宮地が飯塚に言うと、紗英が真剣な顔をして言った。

「私たちも食べておきましょう」

 紗英、ケン、宮地も飯塚に合わせるかのように、自分の分の駄菓子を食べ始めた。

 お腹が落ち着いてきたのか、飯塚が言った。

「それは何と引き換えにもらったんだ?」

 紗英と宮地はどうやって駄菓子をもらったかを話すことが出来なかった。

 紗英がケンとキスしたことになってしまうのは紗英も宮地も嫌だったし、本当は宮地とキスしたと告げたらケンが激怒してしまう。建前上のことも本当のことも、どちらも話したくないのだ。

 ケンがそのことを自慢げに言うか、と思い二人は、ケンの方を見るが、ケンは黙って駄菓子を食べ続けている。

「……」

「まあ、いいや」

 飯塚がいい具合に諦めた時、物音がした。

「なんだ?」

 宮地はサッと立ち上がって、窓の方へ進んだ。ロウソクの火で見づらいので、少し窓を開けて、外に顔を出す。

 ギィ、ギィ、と金属が軋むような音がする。

 正門は…… 閉まっている。門の外に何人かのゾンビがいるが、大丈夫だ。音はそこからではない。宮地の目が慣れてくると、校庭の端にある小さな鉄の門が、曲がって倒れそうだった。

「あれか?」

 木の影ではっきりとは見えなかったが、小さな門の奥に黒い人影がある。

 急に窓が開き、宮地がびっくりして体を引いた。

「あそこは金具がしっかり止まってないから、あの人数で押したら外れちゃうな」  

 宮地の横で窓から身を乗り出し、飯塚がそう言った。

「ゾンビかな?」

「ゾンビじゃなきゃ、誰が無理やり扉を押してくる? 普通の人間なら、足を掛けて飛び越えてくるよ」

「……」

 小さな門とはいえ、一つ穴が開けば、ゾンビは文字通り堰を切ったように入り込んでくるだろう。

 ゾンビの目的は当然、このフロアにいる四人。正常な人間に噛みつけば、いくらか痛みが和らぐわけだ。この四人が死ねば、ゾンビとなって、再び正常な人間を求めての侵攻が始まる。

「どうしよう、こっちもあそこまで出てって、モップで押し戻す?」

 窓際に紗英もケンもやってきて、校庭の先の小さな門を見つめた。

「間に合わないよ、ほら」

 ケンが言った瞬間に、門が壁から外れ、ドタドタとそこにいたゾンビを巻き込んで倒れた。

 倒れたゾンビを踏みつけながら、後ろから進んでくるゾンビが肩をゆすって入ってくる。

 移動はゆっくり…… だったが、何しろ数が多い。

「飯塚、校舎の門は閉まってる?」

「誰も閉めてないよ。だって閉める人がいないからな。きっと、そのまま校舎に入ってきちまうぞ」

「そこだったら、今から降りても閉められる…… よな?」

 先頭のゾンビも、まだ校庭の半分までは達していない。

「ミヤジ、考えている暇ないわ、行きましょう」

 紗英が扉の方へ動くと、ケンが言った。

「ここで待っていた方がいい」

「ケン、死にたいのか?」

「さっき教頭(ゾンビ)はここに入ってこれなかった。無駄に戦ったから危険な目にあった」

「……」

 紗英は教室を出て行ってしまった。

「待てよ」

 飯塚はバットを手にして、紗英を追うように出て行ってしまった。

「お願いだ。ケンも協力してくれ。すこしでも時間を稼がないと助からないぞ」

「……」

 宮地は、モップ二本を手にして教室を出て行った。

 扉を閉めた後、宮地は教室の灯りを眺めていたが、ケンが教室を動く気配はなかった。




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