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 宮地と紗英は、自分たちの教室と同じ階を端まで歩いた。端にある非常階段への扉のあたりで、外の様子を見た。

 学校の塀の中には、ゾンビらしい影はなかった。学校の塀の外にもそれらしい影はない。

「ゾンビいないね。紗英のお父さんがやっつけたかな」

「……」

 紗英が不安気な表情に変わるのを見て、宮地は失敗した、と思った。

「四年生はうちのクラスだけみたいだ。じゃ、下の階に行こう」

「うん」

 二人は、すぐ近くの階段を下りた。下の階は五年生のクラスがある。

 誰かいないか、と思いながら教室を見て回るが、声も姿も見えなかった。

 さっきと反対側の端につくと、また二人は外を眺めた。

 学校の塀の内にも外にも、ゾンビらしき影はなかった。

「教室には人が寄ってこない…… のかな」

「いくらなんでも、追い付かれていい頃…… よね」

 宮地は紗英の言葉にうなずいた。宮地たちを追いかけていたゾンビは、足が遅いとはいえ、そろそろ学校の近くにきてもおかしくないほど時間がたっていた。ゾンビが正常な人を求めて動き回り、噛り付く、それが正しければ、宮地たちがいる学校に向かってくるはずだった。

「それとさ、四年も五年も、一人もいないってことあるかな?」

「校庭で遊んでいた人が学校に入ったって言ったわよね」

「二三年の教室行く?」

「さすがに二三年なら、教室で遊んでるかもよ」

 高学年の教室の方が校庭には近い。低学年の教室へワザワザ戻るだろうか。宮地はそう思ったが、紗英の言う事に同意した。

「うん」

 渡り廊下を通って、奥の校舎へ移動する。

 その間も、誰の声も聞こえないし、姿も見かけない。さすがにおかしい。

「なんか変だよ、やっぱり」

 宮地は少し小走りになっていた。

「誰もいない理由があるはずだよ。ちょっと急ごうよ」

「うん」

 紗英も宮地の後を追って走った。

 二年の教室も、上に上がって三年の教室にも誰もない。

 一番下に下がって一年の教室も同じことだった。

「ぜったいヤバいって」

 二人は二階に上がってから渡り廊下を走っていた。

「けど、何でいなくなってるの? ゾンビにやられたのなら、ゾンビになって動いているはずじゃないの」

「わからない。わからないけど、残るは職員室しかない。この時間ならまだ先生はいるはずだから、話を聞こう」

「うん」

 廊下に二人の声だけが響いていた。

 校舎の端にある、職員室に近づくが、まだ物音すら聞こえない。人気(ひとけ)というものが一切伝わってこない。

「私こんな話を本で読んだことがある。学校ごと異空間に流されてしまうの。親とも他の友達とも会えないの。変な化け物が学校に入ってきて……」

 紗英は自分で言って自分で怖くなったように、話すのをやめた。言ったことが現実になるような気がしたのかもしれない。

 宮地は別のことに気が付いた。

「なんか暗いね。もう灯りをつけてもいい頃なのに」

 そう言って、廊下の壁についている照明のスイッチに触れた。

「?」

 廊下の照明はつかなかった。

 二人はそのまま職員室の扉をノックした。

「先生。先生、入ります」

 ガラッと音をたてて職員室の扉を開ける。机の端に、タンクトップ姿の教師が見えた。宮地たちの担任の『ザップ』だった。

「なんだ、お前ら。どうしたんだ」

 宮地は『ザップ』に駆け寄っていた。

 抱き付く寸前で、躊躇した。肌や体の動かし方、首に傷がないかとかを確認してから、抱き着いた。

「先生!」

「なんだ、ミヤジ、珍しいな」

「大丈夫だったんですね」

「何を言ってるんだ?」

「何を言ってるんだ、じゃないですよ。街中ゾンビであふれています」

「そういう遊びでもあるのか」

「先生……」

 テレビかラジオのニュースでやるまでこの先生を納得させることは出来ないのだろうか。あるいはゾンビそのものをその目で確認してもらう、とか。

「本当なんです。ゾンビは青黒い肌をして、変な歩き方をします」

「?」

「噛みつかれて血を吸ってきます。そしたら、その人もゾンビになっちゃうんです」

 宮地は身振り手振りを交えて必死に説明する。しかし一向に取り合ってくれない。

「先生忙しいから、作り話はその辺にしてくれ。そろそろ家に帰らないといけない時間だぞ」

 そう言いながら『ザップ』は褐色の腕につけたダイバーウオッチで時間を見る。

「……」

 駄目だ。味方は紗英のお父さんぐらいだ。本当にゾンビが動いている状況を見ない限り、大人はそれを認めない。その状況では、もう遅いと知らずに。

 宮地は職員室を出る間際『ザップ』に振り返って言った。

「十分注意してくださいね」

「ああ……」

 宮地のことを見もせずに『ザップ』はそう答えた。




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