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第五話 魔物を召喚しよう


 おはよう! 今日も一日頑張ろう!


《おはようございます、マスター》

「おう、おはよう、ヒイロ(・・・)


 聞こえて来た迷宮核(ダンジョンコア)116番の挨拶に軽く返す。


 まぁ察しているとは思うが、ヒイロとは迷宮核(ダンジョンコア)116番のことだ。毎回毎回迷宮核(ダンジョンコア)116番と呼ぶのも面倒なので、116(ヒイロ)という名前を付けてやった。まぁ語呂合わせなんだけどな。


 それはともかく、昨日は残り少なくなったDPに絶望して、そのままお布団でふて寝してしまった。

 仕方がないじゃないか。何せ残り120DPしか無かったんだから――ん? あるぇ? なんかDP増えてね?

 システムウィンドウ上に表示されている残りDPは322に増えていた。


 まだ寝ぼけているのかと目を擦り、もう一度しっかりと確認してみるが……。


「うん、やっぱり増えているな。どうやら見間違いじゃないらしい」


 DP不足という絶望に打ちひしがれて、妄想内で増やした訳じゃなくて良かった良かった。

 というか、なんでいつの間にDP増えているんだろうか?


《侵入者――支配下に置いていない生物によるDP獲得が大まかな獲得DPです。詳細はDP収支項目をご覧下さい》


 ヒイロに言われるがままにDP収支項目を開いてみると。


 自然回復量は一時間当たり2DP。二段階領域を増やしていたからこそ2DPなのだろう。

侵入者によるDP取得は、一時間に約30DP獲得しているみたいである。六時間程、ふて寝していたから……180DPになるはずだけど、少し多いな。

 ん? 起きる直前の一時間だけ取得DPが40に増えていやがる。


 何となく嫌な予感がしたので、領域内を確認してみると……。


「……コイツか」


 表情が思わず苦々しいものになってしまった。それも仕方がないことだろう。何せ領域ギリギリに侵入してきた魔物があのマンティスだったのだから。


 今すぐにでも殲滅に行きたい気持ちが湧き上がってくるが……ふぅと息を吐いて気持ちを落ち着ける。


「今はまだダメだ。確実に勝てるか判らないしな」


 システムウィンドウに表示されている情報では、「マンティスLV42」と、昨日俺が辛勝した奴よりもレベルが高い。それに辛勝したとはいえ、実際死にかけたのだ。今はまだ我慢……我慢しないと。


《大丈夫ですか? マスター……》


 俺と魂の回廊を構築し、同化しているヒイロには、俺の感情が直接伝わるようで、心配気な声を掛けられてしまった。


「ふぅ~……。うん、大丈夫だ。悪いな、ヒイロ」


 もう一度深く息を吐き出し、心を落ち着ける。うん、もう大丈夫。切り替えよう。

 それに今は領域ギリギリから奴は動いていない。ならば、このままDP獲得に貢献してもらおう。何せDPが増えたとはいえ、カツカツには変わりないしね。

 今は足許を固める時期。しっかりとダンジョン防衛機能を高めないとな。


 ちなみにダンジョンコアを破壊されたとしても、俺が死ぬわけでは無いらしい。ヒイロに確認済みだ。そこはちょっぴり安心……なのだが……。


「現状、ダンジョンは俺の生命線でもある。死なないとはいえ、死活問題には変わりないよな」


 ダンジョンコアが破壊されてしまうと、全てのダンジョンの権能は使用不可になってしまうとヒイロは言っていた。それは絶対に避けたい。


 一応、ダンジョンコアの複製――偽核(フェイクコア)を生産することも出来るには出来る。が、複製一回に付き10000DPも掛かっちゃうんだよね。今はどうしたってDPが足りず、複製なんて出来やしない。

 それにもしかすると、ヒイロが量産され――。


偽核(フェイクコア)には疑似人格は搭載されておりません。ご安心を》


 ――なくて良かった。偽核(フェイクコア)に付き一疑似人格とか勘弁して欲しいからな、うん。


 ともあれ、早速ダンジョン防衛機能を高めることから始めるとしよう。今は領域ギリギリからアイツは動きを見せてはいないが、いつ何時このダンジョンがある洞窟に近付いてくるか判らないしね。


 ダンジョンと言えば、数多くの魔物に多彩なトラップというイメージが俺にはある。

 だが、現状俺の理想には絶対に届きやしない。何て言ったってDPが足りないんだから。


 さて、少ないDPでダンジョンを守る為には……。


「強力な魔物が欲しい。欲しいんだけど……まずはこのダンジョンを整える方が先決だよな」


 現状、ダンジョン一階層には俺の居城――ただの六畳一間の部屋だが――があるだけだ。


《マスターの仰る通りかと。いくらDPが無かったとはいえ、昨夜は無防備過ぎて、とても心配しました》


 どうやらヒイロは俺が眠った後もずっと警戒してくれていたらしい。まぁ不眠仕様だし、疲労を感じない疑似人格だけど、ちょっと悪い事をした気がしないでもない。


 ということで、ヒイロの強い進言もあり、ダンジョン防衛機能の強化に努める。

 とはいえ、未だDPは微量だし、出来る事は少ない。出来る事と言えば、侵入者に対する遅延行為が関の山だ。


 取り敢えず、今あるDPを使って一階層を迷路状に改造して……。


 ああでもない、こうでもないと、頭を悩ませること約二時間。


「ふぅ~……とりあえずはこんなものかな」


 低DPをやり繰りして、何とかダンジョンとしての体裁を整えることが出来た。

 とは言っても、だだっ広い空間を迷路状に改造させ、随所にトラップを設置しただけなんだけどね。


 ダンジョン改造・トラップ生産及び設置に掛かった費用は、400DP。時間経過による取得DPもつぎ込んでしまった。残り6DP……とほほ。

 設置したトラップは、古典的な落とし穴に、迷路で迷わす移動する壁と、あまり殺傷性のあるトラップではない。とにかくダンジョンコアがある俺の居城へ至る時間を延ばすことだけを考えて改造した。


 もっと凶悪なトラップも項目にあったんだ。ただDPが……DPが無いんだよぉぉぉおおお!


「ハァ~……寝よ……」


 残り6DPでは、最早もう何も出来ない。とにかく時間経過によるDP取得を待つしか俺にできる事は無さそうだし、テレビもネットもない現状、俺にできる事は寝る事だけ。


《私とお喋りでも――》


 一応システムウィンドウでアイツの位置を確認し、問題が無しと判断。布団を被って、寝る事にしたのだった。


《――しませ……ん……か……って、もう寝ちゃっている!?》


 微睡みの中、何か聞こえた気がしたけど……まぁいいや。




        ◇   ◇   ◇   




「ふわぁ~……よく寝た」


 大きな欠伸をしながら、うぅ~っと腕を伸ばす。


《……よくもあれだけ眠れますね》


 ジトーっとした声が聞こえた気がしたが、華麗にスルー。


 起床し、まず初めに確認することは、システムウィンドウだ。

 侵入者の位置情報を確認……問題なし。多少領域内を移動したようだが、まだまだダンジョンからは遠い。


 続いて確認するのは、やっぱりDP項目。


「233DPか……三時間くらい眠ったのか」

《えぇ。ぐっすり三時間程眠っていました》


 もはや残DPで、どれくらい眠っていたか判る様に……ん? 待て。おかしい。

 確か一時間辺り40DPだったはず。明らかに取得DPが多い。


《その差異は侵入者死亡によるDP取得量によるものです。侵入者同士による争いがありました》

「なるほど。魔物同士でヤり合ったわけか」


 どうやらダンジョン領域内で魔物同士の殺し合いがあったようだ。ダンジョン領域内だった為、取得DPが加算されたらしい。

 というか、その魔物とはアイツ――クソ虫野郎だった。あのマンティスの近くにあった赤マークが消えていたし、その場に移動していたしな。


 ふむ。これはちょっとした発見だな。どうやら自身の配下ではなくとも、ダンジョン内で侵入者が第三者に殺害されてもDPは取得できるみたいだ。

 いや、よくよく考えてみれば、これは普通だよな。トラップによる殺害でもDPは取得できるんだし、第三者でもダンジョン領域内ならDP取得に問題はないよな。


 お布団の上でシステムウィンドウを見詰めながら考え込む俺。腕を組み、しばらくそうしていたのだが……ふとある考えが脳裏を過り……。


「これ……使えるかもな」


 ニヤリと口角を吊り上げたのだった。


 まずは準備から始める必要がある。俺は魔物召喚項目を開き、目的にあった魔物を探すことに。

 魔物召喚項目には、数多くの魔物が記載されていた。ちょっとした情報なんかもあったりして、中々ためになる。ダンジョン外で出会った場合、対策を取りやすくなるし、この情報は貴重だ。時間がある時に、もっとよく見ておこう。


 魔物召喚項目を見ていると、良く判るのが使用DP量の差だ。


 例えばゴブリン。最弱モンスターの代名詞で、誰もが知っている魔物だ。このゴブリンを召喚するには8DP必要。これは魔物召喚項目では最低値である。


 そして、もう一つの最弱モンスターの代名詞であるスライム。まぁ最近は強キャラとしてラノベなんかでは描かれることが多くなってきたが、この世界では最弱モンスターであるようだ。


 このスライムの召喚コストは10DP。ゴブリンの8DPに比べて多く、スライムの方が強いのかと思われるかもしれないが、どうやらそうではないらしい。

 ステータスを比べてみると、どちらにも特性はあるものの、似通ったステータスには変わりなかった。


 つまり何が言いたいかというと……。


「やっぱり俺の種族によって、召喚コストが違っているよな」

《ご明察です、マスター。といいますか、サポートである私をもっと頼って欲しいのですが……》


 ヒイロも正解だと言っているし、俺の推測は間違っていないようだ。後半のセリフに関しては安定のスルー。


 俺の種族は悪魔族(デーモン)であり、人型である。よって人型の魔物や、悪魔や闇に関する魔物は召喚コストが比較的抑えられているとみて間違いがない。


 とはいえ、今俺が欲している魔物は……。


「残念ながら人型じゃないんだよな」


 そう。俺が今さっき思い付いた作戦を実行する為には、人型の魔物は必要としていない。欲しいのは、獣系だった。


「ハァ~……やっぱ俺ってツイて無いよな。獣系は召喚コストがどれも高めだし……ん?」


 自分の運の無さに思わずため息を付く。が、不意にある項目が目を捉えた。


「あれ? コイツだけ他のよりコストが少ない? なんで――」

《あ、それはですね、マスター――》

「――って、あぁそうか! コイツも闇系統だからかっ!」

《……》


 探していた獣系でありがなら、他の獣系魔物より召喚コストが少ない魔物を見つけた。


「それに……DPもギリギリ足りる」


 ニヤリ。まだ天は俺を見捨てていなかった。


《……私はマスターに見捨てられたのかもしれません》


 悉く出番を奪われてしまったヒイロが何だが打ちひしがれている。


「気にするな、ヒイロ! お前には重要な役目(いじられ要員)があるから!」

《えっ!? マスターは私を見捨てては無い……? う、嬉しいですっ! やっぱりマスターは最高のマスターですぅぅううう!》


 何だか勘違いしている気がしないでもないけど……嬉しがっているし、放置しておこう。というか、今は気にしている余裕は無い!


 テンションMAXの俺は早速、全DPである230DPを使って、その魔物を選択。すると……。


「おぉ~! こんな感じなのかっ!」


 目の前に出現する魔法陣。淡い光の粒子が煌めき、そして召喚された魔物が。


 漆黒の体毛に、際立つ赤い瞳。鋭く伸びた牙に、強靭な四足。


 俺が召喚したのは、獣系でありながら闇に関する魔物――ダークウルフだった。

 堂々たる立ち姿に、ジッとこちらを見詰めるダークウルフ。そんな初めての配下――ヒイロはカウントしません――に俺は……。


「おぉ~! か、か、か――可愛いっ!」


 あまりの愛くるしさに思わず大声を上げてしまう俺。そして、ガバッとダークウルフを抱き締め、頬擦り。俺、犬派なんだよね。モフモフがたまらない!


 暫くモフモフを堪能する俺。何だかダークウルフが困惑したような表情を見せていたが、なんのその。思う存分堪能したところで、名残惜しくも離れる事に。


「ゴホンっ。すまない、少し取り乱した」


 何だかダークウルフがジト目を向けて来た気がして、思わず取り繕う俺。まぁ今更遅いかもしれないが。


《そうですね。もう遅いかと》


 うるさい、ヒイロ。


 取り敢えず、気を取り直したところで、ダークウルフを確認。体長は一m程でかなり大きい。それに特徴的な外見。というか、これって俺の姿と似てね? 体毛は黒だし、瞳も赤だし。

 ん~召喚する魔物は俺と似通っているのか? まぁ次に召喚すれば、その疑問も解けるか。取り敢えず、ダークウルフのステータスを確認してみよう。



名前:―

種族:ダークウルフ

称号:シャンの眷属

性別:雄

年齢:0才

毛:黒 瞳:赤

LV:1

HP:38/38

MP:10/10

STR:21

DEF:13

INT:7

MND:8

DEX:12

AGI:31

特殊能力(エクストラスキル):〈影移動〉

技能:「俊足」



 ふむふむ。やはり獣系ともあって、AGIがかなり高い。そして、なにより注目なのは特殊能力(エクストラスキル)〈影移動〉だろう。



〈影移動〉……影空間を移動できるスキル。



 影空間とは、簡単に言えば、俺が今いる空間を三次元の表の空間と定義すれば、その裏の空間にあたるらしい。もっと詳しく〈分析〉先生が相対性理論やら時空空間やら難しい用語を使って解説していたが……俺の理解力では理解出来なかった。因みにヒイロは完璧に理解していた……なんかムカつく。


 まぁ要するに、影と影を繋いで、その視覚出来ない裏の空間を移動できると思えばいい。実際にダークウルフに〈影移動〉を使ってもらうと。


「おぉ~! 消えて、出て来たっ!」


 俺の影に潜り消えたかと思うと、近くの影からぴょこっと顔を覗かせるダークウルフ。

 凛々しい面立ちにちょっとしたドヤ顔が浮かんでいるのが、なんとも愛くるしい。あぁ~モフモフしたい。


 というか、このスキルって俺の思い付いた作戦にピッタリじゃないか? この〈影移動〉があれば、危険もかなり減らすことが出来るはずだし。


「よし。お前にやってもらいたい作戦がある」


 俺は一層真剣な表情を浮かべ、ダークウルフに作戦を伝えるのであった。




        ◇   ◇   ◇   

 



 シャンの初めての配下――ダークウルフが森を駆け抜けていた。

 木立を縫うように疾走。狼の系譜であるダークウルフだからこその優雅な疾走であった。


 だが、当のダークウルフに余裕は全く無い。

 背後から感じる凶悪な殺気が付かず離れず追って来るのだ。


 ダークウルフは走路上にある木々を、スピードを落とさずサイドステップで躱し、チラリと背後を窺う。


 ダークウルフが華麗に避けた木立を容赦なく薙ぎ倒し、一直線に追って来るのは、猪の魔物――ワイルドボア。


 ずんぐりとした巨躯。鋭く伸びた大牙。短足ながらも凄まじい走破力。


 ――理不尽だ。


 ダークウルフは凛々しい面立ちに苦々しい色を微かに滲ませるものの、それは一瞬の事。直ぐに雄々しい顔つきに戻り、ただひたすら前を向いて地を駆ける。


 彼我のレベル差は約二十。この世界に於いてLV20の差は並大抵の事では覆ることが無い。それまで隔絶した差である。

 それにも拘らず、ダークウルフは辛うじて逃げ切られていた。その理由は、ひとえにここが障害物の多い森林地帯だからこそ。


 撥ねる様に駆けるダークウルフに対し、ワイルドボアは圧倒的な巨躯で木々を薙ぎ倒し直進する為、どうしてもトップスピードが落ちてしまう。ここが何もない草原だったりすれば、即座にダークウルフは追い付かれ、宙高く撥ね飛ばされていただろう。


 ――あと少し……あと少し逃げきれれば……。


 右へ左へ。木立を縫い走る、走る、走る。


 狼の系譜を受け継ぐ魔物であるダークウルフによる本能の疾走。まだこの世に生を受けたばかりであるにも拘らず、使命感を胸にひたすら駆け抜ける。だが……。


 ――ブォォォォオオオオ!


 大地を揺るがすかのような雄叫び。背後に迫るワイルドボアが一向に縮まらない距離に憤り、咆えて速度を上げる。


 一方、順調に駆けていたダークウルフは、ここに来て脚が木の根に取られてしまう。

 圧倒的な強者による咆哮がダークウルフの身体を委縮させてしまったのだ。


 ――チッ。


 鈍くなってしまった四肢に活を入れる様に、ダークウルフも負けじと咆える。


 ――ワオォォォオン!


 ワイルドボアに比べて弱々しい咆哮。しかし、余計な身体の力が抜け、トップスピードを維持。ワイルドボアに追い付かせない。

 簡単に狩れると侮っていたワイルドボアは、前を走る弱者の咆哮にニヤリと笑みを浮かべた。


 ――面白い。


 弱者だと思っていたダークウルフの本気の疾走に、ワイルドボアも感化され。


 特殊能力(エクストラスキル)〈猪突猛進〉を発動。


 鋭い大牙を前に頭部を下げ、短く太い四肢に力を込めると――地を駆った。


 爆発的な突進。砲撃の如く凄まじい突撃力を見せ、ダークウルフに迫るッ!


 辛うじて空いていた間合いが瞬時に詰められ、ワイルドボアの大牙がダークウルフを捉え――。


「――ッ!?」


 振り抜いた大牙が空を切る感覚に、ワイルドボアは目を剝いた。そして、視界に映るダークウルフの宙を舞う姿。それと共に見たニヤリとした笑み。


 ダークウルフは、ワイルドボアが特殊能力(エクストラスキル)〈猪突猛進〉を発動した瞬間、左に飛び、幹を蹴って宙を舞ったのだ。


 ダークウルフは難なく着地すると、呆然とするワイルドボアを一睨みし、即座に駆け出す。その疾走は力強いものであった。


 圧倒的弱者に自慢の突進を躱され、あまつさえ嘲笑じみた視線を受けたワイルドボアは頭に血が上り、激怒。ダークウルフを追う。


 しかし、精彩を欠いたワイルドボアの追走は、もはやダークウルフの脅威では無かった。


 逆にダークウルフがワイルドボアから離れすぎないよう調整して走る始末。後ろを確認しながら走るダークウルフは先ほどの一連の出来事を考えていた。

 あの時、三角飛びの要領でワイルドボアの〈猪突猛進〉を辛うじて躱したわけだが……直感的に危機を感じ、ワイルドボアの突進を躱したわけでは無かった。


 全てはダークウルフの主であるシャンからの指示。


 ――飛べッ!


 たった一言。だが的確でもあり、気迫の籠った一言だった。


 ダークウルフは思う。素晴らしい主だと。

 たった一言で形勢を逆転させたのだ。素晴らしい主に出会えたことに感謝すると共に、身体が震えた。


 その震えは、怯えから来るものではない。言うなれば、それは歓喜。


 ダークウルフはニヤリと笑みを浮かべると、自分の仕事を果たすべく四肢に力を込めるのであった。


 一方、その頃――。


「うっはぁ~! 今の避け方カッケェ~。つーか、マジ良かったわ。あのモフモフが傷付いたら世界の損失だしな。ヒイロもそう思うだろ?」

《……ソウデスネ》


 と、モフモフの事で頭が一杯だったのであった。


 今後もダークウルフの勘違いの評価がなされていくのだが、それはまた別のお話。


 ダークウルフがワイルドボアから追われる事、数十分。

 初めは圧倒的な脅威を感じていたダークウルフだが、今は何も脅威を感じる事無く、余裕をもって走っていた。


 チラリと振り向けば、青筋を立てて迫り来るワイルドボアの姿が。


 ――さて、仕上げだ。


 目的の場所はもう間もなく。ダークウルフはしっかりと自身を追って来るワイルドボアを確認し、跳躍。身体を木々の間に滑り込ませ、身を隠す。


 ずっと視界に捉えていたダークウルフの姿が初めて消えた。見失ってたまるかと、ワイルドボアは木々を薙ぎ倒し、直進。


 粉砕した木々の破片が舞う視界の端に掠めた影。距離は近く、やっと追い詰めたのかとワイルドボアが顔をそちらへ向けた瞬間。


 ――キシシシシシ。


 絶望の鳴き声が聞こえたのだった。




        ◇   ◇   ◇




 俺の影からぴょこんと顔を出すダークウルフ。一仕事無事に終えたからか、ちょっとドヤ顔なのがまた愛くるしい。


「お~し、おし! よくやったぞ、お前!」


 ハァ~一時はこのモフモフが堪能出来なくなるかと心配したけど、マジで良かったわ。


 俺はダークウルフのモフモフを堪能しながら、システムウィンドウを確認する。


「獲得DPは……120か。ワイルドボアのレベルが確か24だったから、約五倍ってところか。中々だな」


 獲得したDPに満足。まぁちょっぴり不満もあるが……今回考えた作戦は使えそうだ。


 俺が考えた作戦は、囮作戦。配下を使って魔物をおびき出し、あのクソ虫野郎に仕留めさせるというものであった。


 正直、あのクソ虫野郎は今すぐにでも焼却処分したい。俺の領域にアイツがいるだけで、安心して夜も眠れないし。……まぁいつもぐっすりだけど。

 現状、あのクソ虫はLV42と高く、太刀打ち出来そうにない。いずれ潰すけど、今は無理だ。


 なら、逆転の発想とまでは言わないかもしれないが、アイツを利用してDP稼いだらいいんじゃね? と思った事が事の発端である。DPカツカツだしね。

 まぁ正直に言えば、今朝アイツが移動していた事がちょっと危機感を感じさせたのもある。獲物を探して動き回られる訳にはいかないし、ならこっちから持っていけばいいじゃんと思った訳である。


「コイツの〈影移動〉もめちゃくちゃ便利だしな。この調子で頑張ってくれよ」


 クシャクシャと頭を撫でてやると、ワンッ! と凛々しい顔付きで返事をするダークウルフ。


 すましているのか、まぁ雄々しい表情だけど……ブンブンと尻尾が振り切れそうなほど振れちゃっているし、隠せてねぇ~。




*ここまでご覧下さって、誠にありがとうございます。

*次回更新日は、2019/8/16 16:00の予定。

*ブクマ登録、評価、感想等々よろしくお願いします。

*誤字・脱字や設定上の不備等・言い回しの間違いなど発見されましたらご指摘下さい。

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