第二〇話 村人御一行をダンジョンへ
「……ん~、朝……か」
朝の陽光を浴び、俺は目を覚ました。
徐々に覚醒していく思考。そして体に感じる重み。
「…………何している?」
ポコッと膨らんだ掛布団を捲ると、眠た気な瞳と視線が合った。
「ご主人、起こしに来た」
「そうか……もう起きたから早く退け、レリル」
布団に潜り込んだレリルは、二、三秒、俺をジッと見詰めた後、いそいそと俺の上から移動していく。
「おかしい。レリルの悩殺ボディに、無反応。ご主人、熟女好き……?」
無表情のまま、コテンと小首を傾げるレリル。
いや、別に熟女好きってわけじゃねぇから。そして、決してロリコンでもねぇ!
レリルの色ボケはいつものことなので、無視することに。さっさと着替えて、朝食にでも……。
「ご主人、脱いだ。やっぱりレリルに欲情――」
「してねぇからッ! ただ着替えているだけだからッ!」
無視できませんでした……ハァ……。
とにかくササッと着替え終わると、レリルと共に食堂に向かう。
「シャン様、お早う御座いますわ」
「あ、シャン様っ! おはようございます」
「あぁ、おはよう」
妖艶に微笑むレイラと、食堂で朝食の準備をしていたミリルが俺に気付き、朝の挨拶を交わす。
用意されていた朝食は、固いパンとスープ、それと焼いた肉とかなり質素だ。いや、辺境村としては、肉があるだけ贅沢な分類だな。因みに、この肉は村人が狩猟を行って捕って来た肉だ。せめてもの感謝の印らしい。
俺の為にレイラが椅子を引いてくれたので、そのまま着席。するとレリルがススッと俺の膝の上に。だがその瞬間。
「レリル様?」
「レリル?」
表情は穏やかに微笑んでいるのに、レイラとミリルから発せられる圧倒的なプレッシャー。
レリルはピタリと固まると、渋々違う席へ。……女って怖ぇ~。
この二日間、毎日のように繰り返されてきた光景だからもう慣れたけどね。
俺からしてみれば質素な朝食だが、ミリルの料理の腕前は相当なもので、少ない調味料を駆使したスープは充分美味かった。ダンジョンに帰ったら豊富な調味料で何か作って貰おうかな。
朝食を終えると、ササッと準備し村人が集まる場所へと向かう。
今日が約束の日だ。村人たちの決断を聞かせてもらう日である。
既に村人たちは集まっていた。彼らの様子から察して、どういった選択肢を選んだのかは、直ぐに判ったが、一応聞いておくことにする。
「さて。今日が約束の日だが……お前らの選択を聞かせて貰おう」
俺が村人たちに向かって言うと、ミリルが代表して口を開く。
「シャン様、村人一同、シャン様に付いていく事を決めました。シャン様に絶対の忠誠を誓い、手足となって働かせて頂きます」
スッとミリルが膝を付くと、一斉に村人たちも俺に頭を垂れた。あ、いやエリーだけは跪いていないけどね。
エリーとは、初日に話を済ませてある。どうやらエリーはシシリアを逃がした後、仲間と共に魔物と必死に戦い、この村まで落ち延びたそうだ。
誰もが重傷を負い、エリー以外の者は帰らぬ者となってしまったらしい。エリーも重傷を負い、剣を持つことさえ出来ない状態だった。
それでもシシリアの事を想い、傷を完治させた後、単独で魔の森へと向かう準備をしていたと言っていた。
取り敢えずエリーを安心させる為に、シシリアの無事を伝えた所。
『お嬢様が生きて……生きておられるなんて……』
静々と涙を流すエリーが印象的だった。
『どうかお嬢様と会わせて頂きたい』
深く深く頭を下げられ、必ずシシリアと会わせてやると約束したのだった。
それと共にそんな痛々しい姿でシシリアと再会させる訳にもいかず、上級ポーションでその身を癒してやった。
爛々と生気に満ち溢れた瞳で真っ直ぐ俺を見詰めるエリーの事は置いといて。
どうやら生き残った者たちの全てが第三の選択肢――俺に付いて新天地へと向かう決断をしたようだった。
「そうか。なら俺の為に働け。精々こき使ってやるから覚悟しろよ」
ニヤリと笑いながらプレッシャーをかけるが……皆一様に、真剣な眼差しで俺を見詰めていた。
なるほど。覚悟はとっくに決まっていたってわけか。
村人たちの様子に内心で満足しつつ、一つ頷くとミリルに問う。
「準備は出来ているのか?」
「はい。昨夜の段階で旅支度は出来ています」
「なら、直ぐに出発しても問題なさそうだな」
とはいえ、今から向かうのは魔の森にある俺のダンジョンだ。その道中、確実に魔物に襲われるだろう。まぁ俺とレイラが居れば問題はないんだが……俺たちが出しゃばる予定は無い。なるべく村人たちだけで乗り越えてもらおうと考えている。
「これから出発するわけだが……魔の森を通ることになる。まぁ俺とレイラに掛かれば、この付近の魔物は余裕で殲滅できる。だが、俺たちは手を貸す予定は無い」
魔の森の脅威を十分知っているのだろう。不安げな表情を浮かべる者が多い。さらに、俺とレイラは手を貸さないと明言したのだ。見捨てられたと絶望する者も中にはいるようだった。
「勘違いするなよ? お前らが俺に付いて来ると覚悟したんだ。俺の力を当てにせず、自身の力で付いて来い」
「シャン様、中にはまだ小さい者も……」
ミリルがレリルを見て、不安げな表情を浮かべている。
「子供が戦えないのは判っている。子は宝だ。何としても守らないといけない」
「では――」
「悪いが、俺は手を貸さんぞ。お前ら全員で守れ」
俺の言葉にザワザワと動揺が広がっていく。と、その中の一人が立ち上がると、大声を上げた。
「お前らッ! シャン様のお言葉をちゃんと聞いていたのかッ!」
まさしく怒号。シーンと静まり返る村人たち。
「俺たちはシャン様に付いていくと、自分で決めたんだッ! 覚悟を以ってなッ! なのに、いつまでもシャン様に守ってもらえるなんて勘違いするような奴は、シャン様に付いていく資格が無いッ! そんな奴らはここに残れッ! 自分の身は自分で守る、そんな事当たり前だろうがッ!」
そう皆を叱責するのは、村人たちの中でも体格の良い若い男だった。
俺は少し興味が湧いて、その男に話し掛ける。
「おい、お前」
フーフーと鼻息荒い男は、俺に声を掛けられ、ハッとして直ぐに膝を付いた。
「シャ、シャン様!? すみませ――いや、申し訳ないです。頭に血が上って思わず声を荒げてしまいました」
「気にするな。お前、名前は?」
「俺――あいや、私はクルトです。一応、この村の戦士長補佐でした」
戦士長補佐ね。体格もいいし、LV23とこの中でエリーの次に高い。因みにエリーはLV32。
見た感じ熱血タイプで頭が足りていなさそうだが、根性はありそうだ。
「『俺』でいいぞ、クルト。お前はこの中では中々強そうだし、お前が皆を守れ」
「俺が、ですか?」
「あぁ、お前がだ。まぁこの人数全員を守り通すのは、たった一人では無理だろう。他に戦う意志があるっていう奴はいるか? 居たら手を挙げろ」
おずおずと数人の男たちが手を挙げる。勿論エリーもだ。
「よし。お前らは今からクルトの指揮下に入れ。お前たちが皆を、子どもを守り通せ」
一方的に言い放つと、人数分の武防具を影空間から取り出し、クルトに渡す。
「こ、このような良質な武器を貰ってもいいんですか?」
キラキラと目を輝かせるクルト。
「あ、あぁ」
「おぉ~す、素晴らしい剣だ……シャン様のご期待に添えるよう、皆を守ってみせますッ!」
一つ剣を手に取り、感動した後、クルトが勢いよくそう宣言した。
だけど、クルト……。これ、ゴブリンたちに渡した訓練用の安い武器なんだけど……。
そんなことは言えないので、なるべく表情を真剣にしつつ、うんと頷いておく。
クルトが早速手を挙げた男たちをまとめ、配置を割り振っていく。とはいえ、そこまで複雑な指示が出せる訳ではない。エリーが何やら言いたそうに口を開いたり、閉じたりしているが……結局黙ったままだった。
亜人の中に一人だけの人族。やはり居心地が悪いものがあるんだろうな。クルトたちも何だか腫れ物に触れるように恐る恐るエリーに接している。
《村民の亜人にとっては、先日人族に襲われた恐怖感が。エリーにとっては同族の蛮行に対する罪悪感があるのでしょう》
俺もヒイロと同意見だ。まぁ道中、協力して事に当たれば、双方の溝も埋まる事だろう。
ということで、直ぐに準備は整い、出発することになった。どうやらクルトの叱責が効いたのか、誰一人として残ることを選択した者は居なかった。
俺とレイラを先頭に、魔の森を進む一行。あ、なぜかレリルは俺の隣をトコトコと歩いているけど。
この周辺は魔の森の比較的浅い地域だ。なので、出現する魔物も、クルトたちが手に負えないような強敵は出現しない。もっぱらラビットフットやアルドゴートなどの低級モンスターばかりだ。
まぁそれでも力を持っていない村人にとっては脅威だ。怯えながら必死に付いて来ているようだった。
「右側面からラビットフット複数ッ!」
「了解。ロン、マークッ! 援護に迎えッ!」
「「了解ッ!」」
「クルトさんッ! 左からアルドゴートがッ!」
「そっちは俺が援護に向かうッ!」
魔物が出現する度にクルトが大声で的確な指示を出していく。てっきり脳筋かと思っていたけど、戦闘に関しては頭が回るようだ。護衛専門職のエリーもほうと感心した表情を浮かべている。鍛え上げれば、立派な戦士になりそうだな。
意外な掘り出し物に、ニヤリと笑う俺。そんな俺にレリルが言う。
「ご主人、嬉しそう。レリルも嬉しい」
そりゃ良かった。けど、嬉しいならちょっとでも微笑んでほしいところだ。
クルトの活躍で被害は全くない。順調に魔の森を踏破していき――。
「よし。お前ら、止まれ」
とうとうダンジョン領域の端へと辿り着いた。
「シャン様、どうしました?」
何か問題があったのかと、クルトがすぐさま俺の元へ駆けつけて来た。
「いや、別に何かあったわけじゃないけど。こっから先はお前では力不足だ」
「え? いや、でも……」
「こっからはマンティスとか中級モンスターが出て来るんだぞ?」
「マ、マンティス!?」
眼を見開き、驚くクルト。クルトの声が大き過ぎて、村人たちにも聞こえたようだ。皆一様に顔を蒼褪めている。
「ご主人……」
レリルがキュッと俺の外套を掴む。無表情だが怯えているのだろう。俺は安心させるように、ポンと頭に手を置いた。
「何も問題は無いから安心しろ。あのクソ虫野郎は、俺の獲物だしな」
「ご主人、悪い顔してる」
そ、そうか? 自分では気づかなかったけど……。チラッと視線を巡らすと、レイラは微笑み、ミリルは頬を引き攣らせ、村人たちは身体を震わせていた。そしてレリルは……うん、やっぱり無表情だ。
「ゴホンッ。とにかく問題は無い。マンティスが来たら俺が出張るし、それに……」
俺はスッと視線を前へと向けた。その視線に釣られて、誰もが前を向くと。
「な、なんだ、アレは!?」
驚愕するクルト。クルトが指差す先には巨大な影が広がっていき――。
「シャン様、お帰りなさいませ。お迎えに上がりました」
スッと影から出て来たのは、執事服を纏ったシュヴァート。そして、総勢二十のダークウルフ部隊だった。
「出迎えご苦労、シュヴァート。悪いんだが、コイツラも連れて行くから守ってやってくれ」
クイッと親指で背後の村人たちを示す。
「畏まりました。ですが、シャン様。この者たちは?」
「詳しくは後でな。とにかくコイツラは俺のダンジョンに住まわせるから」
「あ、あのシャン様っ! 今、ダンジョンと」
驚愕のあまり茫然としていた村人たちの中で、最初に再起動したミリルが前のめりに訊いてきた。
「ん? あぁ、言ってなかったか。新天地って言うのはダンジョンのことだ。お前らはそこに住むことになる」
飄々と告げると、ミリルはポカ~ンと口を開いたまま、固まるのであった。
◇ ◇ ◇
「今日からお前たちはここで暮らすことになる」
ダンジョン二階層。だだっ広い草原地帯を背に、村人たちにそう告げた。
シュヴァートたちの出現。目指していた新天地がダンジョン。そして、ダンジョンの中に草原が広がっている。
未だ誰もが状況の変化に付いて来れず、ただただポカ~ンとしている。
「あ、あの……何だか良く判っていないんですけど……本当にここはダンジョンなんですか?」
ミリルがキョロキョロと辺りを見回している。
「あぁ、正真正銘のダンジョンだよ、ここは」
「ということはつまり……シャン様はダンジョンマスターなのですか?」
「そういうこと。理解が早くて助かる」
あっけからんと肯定する俺に、ミリルは「ははは……」と苦笑を漏らしていた。
「お前たちにはここで村を作って貰いたい。とは言え、今は何もない草原だ。一から開拓するのは辛いだろう。そこで……」
俺は言葉を切って、システムウィンドウを起動。残DPを確認。
うん、俺の留守中でも魔物狩りに勤しんでくれていたみたいだ。これくらいあれば、最低限の設備は整えられるだろう。
「お前らが住む大型の家屋に、広い農地を与える」
システムウィンドウを操作し、大型の家屋を二件、そして広めの農地を選択。あと、集会場を兼ねた公民館、兵舎も追加選択。
あぁ、倉庫や農具類も必要だな、あと井戸も。そして何より重要なのがトイレだ。
中世ヨーロッパのトイレ事情は最悪といっていい。そこら中に糞尿を撒き散らしていたらしいからな。臭く汚いのは勿論、病気の発生源になったりするし、村民には徹底させよう。
まぁ他に必要な物があれば、その都度追加していけばいいか。
ササッと操作し、決定。すると、ちょっとした地響きと共に、地面が揺れる。
「な、なんですか、一体!?」
「ご主人」
ミリルとレリルが地震に驚き、ピタッと俺に抱き着いてくる。村人たちも怯え、その場に蹲っているようだった。
震度二くらいなんだけど……この異世界では地震はあんまり起きないのかな? つーか、シュヴァート……これくらいで柳眉を逆立てるな。
「あ、あれはッ!?」
クルトが驚き、大声で叫んだ。その声に釣られて、蹲っていた村人たちも面を上げると、クルト同様驚愕に目を見開く。
皆の視線の先には、地面からせり上がる数々の建物群。その姿が完全に露になると、ようやく地震が止まった。
「ふふ、驚いてもらえたかな?」
目を点にし、唖然とする村人たちに微笑む。誰もが一様に驚いており、どうやらサプライズは成功したみたいだった。
「も、もしかしてこの建物はシャン様が!?」
「そうだよ、ミリル。男女別の共同家屋に兵舎。後、集会所を兼ねた公民館だ。あれがミリルの仕事場だぞ」
「え!? あんな立派なお家がっ!?」
「ご主人、サイコー」
ただただビックリするだけのミリルとは違い、レリルはグッジョブと親指を立てている。
「兵舎はクルト。お前たち戦闘要員が管理しろ」
「お、俺がですか!?」
「そうだ。クルトにはこの場所の治安維持を任せる予定だからな」
「でででできませんッ! そんな大役俺になんか……」
「出来なくてもやってもらう。お前以外に適任者はいないからな。んで、ミリルはこの場所のまとめ役だ。フロア長って言ったところか」
「えぇぇぇぇえ!?」
もしかしたら今日一番の驚きだったかもしれない。まぁ頑張ってくれ。フォローには誰か付ける予定だからね。とはいえ、該当者は一人しかいないんだけど。
「シャン様、お帰りなさいませ」
丁度タイミングよく、その該当者であるシシリアがやって来た。リーシャとココも付いて来ている。と、その時。
「お嬢様っ!」
バッと勢いよく村民の中から飛び出したのはエリーだ。その姿を認めてシシリアが目を見開く。
「エ――」
――ズドォォン!
盛大な地響きと舞い上がる土煙。
誰もが呆然としている中で、俺だけは顔を覆って、「あちゃー」と天を仰いでいた。
「シシリアに危害を加えようなどと愚かな行いだ。シャン様の御前、悪行を我が見逃すわけにはいかん」
底冷えするような冷淡な声音。土埃が晴れると、シュヴァートがエリーの後頭部を地面へと叩き付けている姿が。
「エ、エリーっ!?」
慌ててシシリアが駆け寄っていく。
「む。シシリアよ。不用心だ。この賊は危険――」
「シュヴァート様っ! 彼女は私の知り合いなのですっ! 賊ではありませんっ!」
「は?」
シュヴァートがギギギと錆びついた機械のように俺に振り向いて来たので、シシリアの言葉が間違いないとうんと頷いてやる。
ポカンと呆然とするシュヴァートを引き離して、シシリアがエリーを抱える。
「エリーっ! しっかりしてっ!」
「お嬢……様……御無事で……私はもう……思い残す……ことは……ありません……」
「エリーーーーーーっ!」
がくんと気絶するエリー。泣き叫ぶシシリア。そして呆然とするシュヴァート。
えっと……ナニコレ。どこの茶番なの?
取り敢えず事態を収拾させる為に、シシリアとエリーはフロア長宅に連れて行き、シュヴァートには「早とちりするな」と叱って、謹慎を言い渡した。
トボトボと去っていくシュヴァートに、村民の誰もが何とも言えない視線を送っていたのが印象的だった。
「えーっと……ご主人様、お帰りなさいませ」
「お帰りなさいなのですっ」
何とも微妙な雰囲気の中、リーシャがおずおずと、ココが元気よく俺を迎えてくれた。
「あ、あぁ、ただいま。なんかどっと疲れたわ」
「あははは……」
遠い目をしている俺に、リーシャが何とも言えず、ただただ苦笑していた。
「ハァ~……シュヴァートの再教育は後にするとして。まずはコイツラの案内からだな。本当はシシリアに頼もうかと思っていたんだけど……」
「シシリアさんはしばらくそっとしてあげた方が……」
「だよなぁ~。つーことで、リーシャ、ココ」
「ふぇっ!? も、もしかして……」
「何なのです?」
「村人たちの案内はお前らに任せるわ。よろしく」
俺はにこやかな笑顔で、リーシャとココに村民の案内を丸投げすることにした。
「えぇぇ!? で、出来ませんっ! そんな大役……」
「お任せなのですっ」
「えっ!? ココちゃん!?」
慌てるリーシャとは対照的に、ココは任せろとばかりにふんっと胸を張った。そんなココの頭をわしゃわしゃと撫でてやる。
「おうおう。任せるぞ、ココ。うまく案内出来たら、晩御飯はハンバーグにしてやる」
「ほんとなのですっ!? はんばーぐなのですっ!?」
「晩御飯はハンバーグですか……判りましたっ! ココちゃんと一緒に頑張りますっ! 行きますよ、ココちゃんっ!」
「あふっ!? リーシャちゃん、引っ張ったらお洋服が伸びるのですっ!?」
ココのやる気を促す為に言ったのだが、どうやらリーシャのやる気に火が付いたようだ。ココをグイグイ引っ張って、村民の方へと向かって行く。
「レイラ、フォローしてやってくれ」
「畏まりましたわ。お任せ下さいませ」
流石にちびっ子だけに任せる訳にはいかず、レイラをサポートとして送った。
因みにレイラには既に、システムウィンドウの操作権限を一部付与している。ダークウルフ部隊を召喚した時に気付いたんだけど、配下にシステムウィンドウの権限を付与することが出来るようになっていたのだ。
勿論、全ての権能を使用出来るわけでは無いし、俺の方で使用可能権限を個別に制限することも出来る。あと、使用履歴も参照できる。
既にシュヴァート、グリュー、レイラといった主だった眷属には簡易版システムウィンドウを付与している。マップの参照、物質召喚――危険物やオーバーテクノロジーに関しては制限済み――などの権能が使用可能だ。勿論、物質召喚にはDPを使用する為、使用可能DP量にも制限を付けている。
「みなさん、初めまして。ご主人様――シャン様の奴隷のリーシャと言います」
「リーシャちゃんと同じ奴隷のココなのです」
「みなさんの案内を任されました。えっと……」
「リーシャ様、まずは皆が住む住居からご案内すべきかと」
「あ、そうですね。ありがとうございます、レイラさん」
しばらく様子を見ていたが、レイラが上手くサポートに回ってくれているおかげで、なんとかなりそうだな。
『レイラ。今日は簡単な案内だけでいいぞ。魔の森を抜けて来て、疲れているだろうし、案内の後、休ませてやれ』
『畏まりました。ご指示通りに致します』
ダンジョン機能の念話を使って、レイラに指示を出すと、レイラが振り返りニコッと微笑んでくれた。
後はレイラたちに任せ、俺は久しぶりの我が家――正味三日しか離れていないけど――へと戻ることに。
あ、そうそう。今まで説明していなかったと思うが、階層間には大きな鉄門があって、手を当てながら頭の中で設定を変えると、行きたい階層へと繋がる鉄門へと繋ぐことが出来るのだ。
ただ、この機能は俺の配下――眷属と奴隷――と、俺が許可した者しか使えない。なので、侵入者が一、二階層を飛ばして、俺の居住空間に侵入することは出来ない。
あ、なんで三階層じゃなく居住空間なのかというと、居住空間の近くにも鉄門を設置してあるからだ。外に出る度に三階層の迷路を踏破するのは手間だからね。
因みに、侵入者扱いの村人たちを二階層へ招いた時は、俺が操作して二階層へ繋げた。なので、もし俺たちの中に裏切り者が居れば、侵入者を居住空間へと侵入させることも可能と言えば可能だ。まぁ一応対策は打ってはいるが。
もはや転移門じゃね? 世界中に設置すれば移動が楽になると思ったのだけど……そう上手くいく話では無かった。
どうやら設置するには様々な条件があり、そんな簡単にあちこちに設置できるわけではないらしい。DPを湯水の如く使えるのなら出来るんだけどね。
まぁ今はDPも潤沢とは言えないし、〈影移動〉が使えるので、そこまで必要としていない。一人で移動するときは、もっぱら〈影移動〉を活用しているしな。
さて。リーシャたちと約束したわけだし、早速晩御飯の準備に取り掛かるとするか。
村民たちを刺激しないよう闘技場に控えていたグリューたちと挨拶を交わし、ショボ~ンと落ち込むシュヴァートに監視を任せ、俺は厨房に向かうのだった。
*ここまでご覧下さって、誠にありがとうございます。
*次回更新日は、2019/9/30 16:00の予定。
*ブクマ登録、評価、感想等々よろしくお願いします。
*誤字脱字、設定上の不備、言い回しの間違い等発見されましたらご指摘下さい。