第二話 初戦闘でやらかす
現状に至るまでのことを思い出してみました。まぁ思い出したところで何かが解決する事では無いんだけどね。多少は参考になることは思い出せたのは良かったかな。
今の俺の外見は、多分だが新作MMORPG『ユグドラシル(仮)』で作成したキャラクターなのではないかと予想。何せ翼とか角とか、まんま作成したキャラだしね。
ということはつまり……何らかの要因によって俺は『ユグドラシル(仮)』の世界へと転移? 転生? 召喚? されたという事だろう。
「ラノベかよッッツ‼」
もう叫んだね。声を大にして叫んでみたね。
いや、ツッコまないといけない気がしたんだよ。お約束っていうやつだよ、お約束。
とまぁ、見知らぬ土地? 世界? にたった独り草原に取り残された訳だが……ちょっぴりワクワクしている自分がいることに気付いた。
前世――といっていいのか判らないが、今までの人生は空虚なものだったと思う。毎日毎日PC画面に向かい、MMORPGをするだけ。楽しみと言えば、毎週恒例のギルド戦くらいなものだった。
とてもではないが充実しているとは言い難い人生だと思う。まぁそれなりに楽しんではいたんだけどね。でも、他人に誇れるようなものではなかった。
だからこそ、この現状に心躍らせている俺がいる。
ワクワクしている。ドキドキしている。
これからどうなっちゃうんだろうという不安も多少はあるけどね。
「ふわっはっはっはぁ~! これからずっと俺のターンだ!」
無意味に意味不明なことを叫んじゃっても仕方がないよね? テンション上がっても仕方がないよね?
そんな感じで不用意に叫んでいたら――カサッと物音が。
咄嗟に音の方に振り向くとそこには真っ白な可愛らしいウサギさんとエンカウント。
ラビットフット LV2
兎型の魔物。低級モンスター。肉質が柔らかくとても美味。
不意に眼前のウサギさんの情報が脳裏に表示された。
「これは……特殊能力〈分析〉かッ!」
ちゃんと選択したスキルが発動してちょっぴり安心すると共に、やっぱりここは本当に『ユグドラシル(仮)』の世界なんだと実感する。
クイッ、クイッと首を動かし周囲の様子を窺っていたラビットフットは、俺を視界に捉えると、その動きをピタリと止め、ジィ~っと真っ直ぐ俺を見詰めて来る。
交差する赤目と紅眼。
俺が観察しているように、コイツも俺を観察しているようだ。
〈分析〉によると低級モンスターだし、俺は悪魔族だし? 生物の格が違うって本能的に悟って、このまま逃げ出すんじゃないかなぁって様子を窺っていると……。
ラビットフットはググっと身を屈めたかと思うと、まるで白い弾丸のように跳躍。俺目掛けて突っ込んできた。
「うお!?」
すっかり気を抜いていた俺は、想像以上の速度に思わず変な声が漏れ出してしまった。
咄嗟に身を翻して躱したけれども……恥ずかしい。油断大敵とはまさにこのことだ、なんて余計な事を考えていたもんだから……。
「――ぐほッ!」
背中に感じる結構な衝撃。無様に地面を前のめりに這いつくばる俺。
背骨にズキズキとした鈍痛。中々に痛い。
若干涙目になりながら振り返るとそこには……地面を這いつくばる俺を見下すかのように仁王立ちするラビットフットが。まるで俺を嘲笑っているかのよう。
「…………ヤッてやるぜ、このクソ兎がッ!」
低級モンスターに見下されたという屈辱感に、絶対に屠ると決めた。もう許さないかんな!
俺は立ち上がると服に付いた土埃を払い、サッとラビットフットから距離を取る。
その間、ラビットフットは余裕綽々の構えで追撃は無し。次は譲ってやるとばかりに、クイッと小さな前足を振って俺を煽りに煽る始末。
「~~ッ!」
もうキレた。まじでキレた。全力でぶっ潰す。
特殊能力〈分析〉は今さっき使えた。という事はもう一つの特殊能力〈炎威〉も使えるはずだ。
直感に従って己の内面に意識を向けると……浮かび上がるは火属性魔法の知識の数々。
俺はフフッと不敵な笑みを浮かべ……俺の最大最強の火魔術をぶっ放すッ!
「〝火葬柱〟ッッツ!」
ゴォォォオオオ!
――瞬間、視界を埋め尽くす眩しい真紅。轟く爆音が耳朶を激しく打ち付ける。
「あ、やべ」
俺は反射的に脱兎の如くその場から逃げ出した。チリチリと背中を焼く熱波に、それはもう必死の必死でなりふり構わず全力疾走。
熱波が弱まった所で振り返ってみると……。
そこには、渦巻く灼熱の業火が天を貫かんばかりに立ち昇っていた。
上級火魔術〝火葬柱〟。咄嗟に俺が使える最大級の火魔法を放ったのだけれど、これは……。
「……やっちまったな」
ゴウゴウと渦巻く巨大火柱を見て、深く反省しました。これは使っちゃアカンやつやわ。
その後、数分間燃え続けていた〝火葬柱〟は、魔力が無くなったのか唐突に姿をかき消した。
辺りに立ち込める焦げた臭い。そして、海原の様に青々しい草原は、その姿を焦土へと変貌させていた。
その光景に、しばし呆然と立ち尽くす俺。最早ラビットフットの事なんて意識の彼方へ消え去っている。というか、もうそんな些細なことはどうでもいい。それよりも……。
「これ……どうしよう……」
もしこの〝火葬柱〟を街中で使っていたら……ブルッと悪寒が背筋を走る。決して人がいる所では使わないようにしたが良いな、うん。
とにかく、この眼前の焦土は……見なかったことにしよう、そうしよう。俺ナニモシラナイデスヨ。
俺がやったっていう目撃者もいないし、このままずらかるとしますか。罪は知られなければ罪では無いのだよ。
なんていう最悪な自己弁護をしながら、とにかく現場から犯人は逃走するのであった。
「少し先に森があるな」
隠れられる場所――んんっ、違う違う。えっと……ちょっと疲れたみたいだから休める場所をだな。
脳裏で言い訳を繰り返しながら、森へとやって来た。
鬱蒼と生い茂る森林。ひんやりとした冷たい空気が漂っており、少しかいた汗がすっと引いていくようだ。誰かさんのせいでさっきまで暑かったからなぁ~、誰かさんのせいで。
「ふぅ~……身体が怠いのは、やっぱり魔力が減っているからかな?」
生い茂る広葉樹の根元に座り、幹に背を預ける。
先程から感じる倦怠感。水中を移動している様な鈍さを感じていたので、ここいらで一休み。
その間に自分の状態を確認しておくとするか。
まず、特殊能力である〈分析〉と〈炎威〉は使えた。残るは固有能力『支配者』なのだが……。
「こればっかりは配下が居ないと確認できないもんなぁ。……いや、まてよ?」
そう言えば、こういった異世界転生? 転移? ものならステータスを確認できるのが鉄板だ。なら試してみる価値はあるか。
「ステータス」
ポンッと視界に表示されたのは、予想通りステータス画面だ。なんかこう、VRゲームとかでありそうな感じだ。まぁVRゲームとかやったこと無いんだけど。
とにかく表示されたステータスを見てみると……。
名前:シャン
種族:悪魔族(上位悪魔)
称号;来訪者・自然破壊者
性別:男
年齢:一七歳
髪:黒 瞳:紅 肌:白
LV:5
HP:83/140
MP:54/350
STR:53
DEF:47
INT:110
MND:98
DEX:23
AGI:78
固有能力:『支配者』
特殊能力:〈分析〉〈炎威〉
技能:「魔力操作」「異世界言語」
魔法:「火魔法(上級)」
耐性:「火耐性」
ふむふむ。どうやらちゃんと俺が選択したスキルである『支配者』もあるみたいだな。〈魔物調教〉、〈奴隷術〉は『支配者』に意識を向けると詳細が表示され、そこに記載されているので、無くなっている訳ではないみたいだ。
というか、選択した覚えのないスキルや耐性なんてものもあるけど、それよりもなによりも……。
「自然破壊者って称号嬉しくないわッ!」
さっき引き起こしてしまった自然破壊によって、不名誉な称号を得てしまった……とほほ。
それはさておき。ほぼほぼ俺がキャラクリしたステータスではあったので一安心。実年齢とは違うとか、なんか種族が上位悪魔になっているとか気にしてはいけない。
それにいつの間にかレベルも上がっていた。あのラビットフット一匹だけでLV5まで上がるとは思えないので、他にも何かしらの魔物を巻き込んでしまったのだろうな。
ステータス値としては……これって高いのかな? 平均的なステータス値が不明なので、強いのか弱いのかはっきりしない。あんまり過信してはいけない気がする。
あ~やっぱりMPが減っているな。多少身体が怠いだけで今は済んでいるけど、MPはゼロにしないよう気を付けないと。何となく全損で気絶とかありそうだ。
自然回復もしているようだし、このまま休んでいたいんだけど……。
「な~んか、嫌な視線をビシビシ感じるんだよな……」
森の奥深くから感じる嫌な視線。このままここで休憩するのは止めておいた方がいいだろう。
取り敢えず、もっと安心できる場所まで移動するとしますか。まぁどこが安全なのか俺には判らないんだけどね。この嫌な視線から逃れればそれでいいか。
どっこいしょっと立ち上がると、コロンと何かが転がり落ちた。
「……何だコレ?」
拳大の真っ白な球体だ。初期アイテムってところかな? 何の役に立つか判らないけれど、一応拾っておこう。
と、徐にその白い球体を手に取ると、その瞬間――。
《適応者と……触を確……これより……者と……接続を……ます》
「ん? なんだ? 今の――ッ!? あががががががぁァア――!?」
謎の声が聞こえたかと思うと、その瞬間、突如襲い掛かる強烈な頭痛。
まるで脳を直接いじくられるような不快感に、堪らず膝を付き、嘔吐。
激痛に耐えること、数分。なんとか激痛も収まり、荒く空気を貪る。
「――ハァ、ハァ。なるほどな。これがダンジョンコアか」
汚れた口許を乱暴に袖で拭いながら、恨みがましい視線を手の中の白い球体――ダンジョンコアに向ける。
今の激痛はトラップとかダンジョンコアの防衛装置が働いた結果とかではない。ダンジョンコアに関する情報・知識を直接植え付けられた痛みだったらしい。
激痛に耐えた甲斐あって(?)、ダンジョンコアに関する知識を得られたわけだが……。
「マジで潰したろか、これ」
あんなに痛いなら、先に説明しておいてほしい。小学生の頃、授業の柔道で鼻の骨を折った時並みに痛かったわ。あの時は鼻の骨が折れて血がブハーっと噴き出したんだけど、担当先生に「自分で勝手に保健室に行け」とか、中々に鬼畜な事を言われたしな。保健室まで気絶しないように必死で耐えた記憶がある。あの時のクソ禿は絶対に許さん。
いや、昔の話は今はどうでもいいんだ。過ぎた事だし、地味な仕返しもしたしな。
今はダンジョンコアの方が重要だ。俺にあんな激痛をお見舞いしてきただんだ。まじでこのまま地面に叩きつけたいところだけれど……そんなことは出来ないのが妙に不満だ。
一応このダンジョンコアは、俺にとって――いや、世界にとって必要不可欠な代物なのだから。
「いつか会った時にこの借りは絶対返すからなッ! 覚えとけ――~~ッ!?」
恨み言を呟いたその時。巨大な影が俺を覆い尽くしているのに気付いた。
恐る恐るゆっくりと振り返り――愕然。
「は、はは……」
乾いた声に、引き攣る頬。
そこには巨大な蠍のような、蟷螂の様な魔物がニタリと嗤っていたのだった。