20話:シアトルからロスへの列車旅2
一年中温暖でカラッとしてるロサンゼルス、サンディエゴが気候なら世界で一番だが、風景の美しさはワシントン州、オレゴン州の方が良い。みずみずしい緑と清らかな水と空。眺めているだけで心が洗われる。ワシントン州には、親切な人が多いけど、こんな風景の中で生きていると心まで優しくなれるのだろうか。1日目の昼食、ポートランドからエメリーヴィルを抜けサンフランシスコ。
食堂車での食事は相席で、多くの人の話し声が聞こえて、面白かった。しかし会話に参加せず、話しかけられたと答える程度で、こちらから話すことはなかった。乗客の話の内容はと言えば、ティムは、シアトル在住でトーランス育ち。10日間の滞在で、トーランスの父親とラグナビーチに住む母親を訪ねる。ふと、このアムトラックに乗っている、全ての乗客に思いをめぐらせた。
笑っていたり、平気な顔をしているけど、何の悩みも痛みも抱えてない人なんていないんだろう。ジェフは場を盛り上げる様に話し始めた。
「この国の列車は日本より50年遅れている、日本の新幹線は大したもんだ」と笑った。
「新幹線は時速200キロで正確に着くけどアムトラックは時速100キロで到着するでも時間は正確じゃない」と言うわけだ。
出発前にスタッフや家族から「えっ、36時間」と驚かれたけど、ちょっと違うんだな。1週間のクルーズに「えっ、168時間」とは言わない。アムトラックは、目的地に正確に最短時間で到着するための手段ではない。2日目は個室から車窓の景色を楽しんだ。車窓からは、サンフランシスコの橋の橋脚だってくっきり見える。
2日目の朝、エメリーヴィル、サンフランシスコからオークランド、朝6時過ぎに目覚めたとき、アムトラックはサクラメントの駅に停車していた。まだ辺りはほの暗い。普段より深い眠りを得られた。いれ立てのコーヒーを飲みながら、朝日に彩られていく草原や流れる川の風景をただしばらく眺めている。静かな時間の中で、昨夜の夕食を思い出した。
僕と同じテーブルを囲んだのは、一人旅を楽しむアフリカ系アメリカ人女性のトーレンス。一昨年まで大学で地学を教えて65歳でリタイア。今は旅やガーデニング、友人との時間を楽しむ毎日を過ごしている。今回の彼女の旅は全てアムトラックで、シカゴからポートランド、サクラメントに寄って、シカゴに戻る。サクラメントからシカゴまで、ロッキー山脈を越える旅は48時間。
4から5日の休みが取れたら僕も行ってみたいと話した。食堂車のサーバーをはじめスタッフは、みなフレンドリー。車内放送もマニュアルと無縁な人間味のある放送が頻繁に流れる。
「ラウンジカーで子供達が遊んでるので速やかに保護者は子供を静かにさせてください」
その放送に車内に笑い声が響く。草を渡る風まで見えてきそうなほどアムトラックはゆっくり走っていく。個室の車窓から、オークランドからサンノゼ、ロサンゼルス。2日目の午前中。チーズとハムとほうれん草のサンドイッチを食べた後は、本「ドクトルマンボー航海記」を読んでいた。その本のあまりの、おかしさに笑うと、スタッフも同じ様に笑ってくれた。
午前11時を過ぎた頃、客室乗務員のロイが「あと10分くらいで、湿原になるからカメラの用意をしておくと良いよ」と知らせてくれた。しばらくすると左右の車窓に湿原が広がった。6マイル先のモントレーの辺りまで続いていると、車内放送でもつけ加えた。その後に広がるのはアーティチョークの畑。アメリカで一番の生産地で、本場のイタリアよりも生産量が多いそうだ。
昼食はルームサービスを頼んだ。田園風景と読書、全部を欲張りたかったから夕方はずっと個室から海を眺めた。夕日が少しずつ空を染めていく変化を逃すまいと列車に向かって手を振る人。沖のヨット、ビーチを歩く親子、波を待つサーファー連なるキャンピングカー、パームツリー、バーベキューをする男性。
アムトラックを追い越す車。ゆっくり走るからその分周りがよく見えた。車窓が夜の闇に包まれていき、もうすぐロサンゼルス。ロサンゼルスからサンディエゴ行きのアムトラックでていたので駅でチケット手に入れた。