3ー5 魔法城塞都市 アルシャンティア 上編
また、テレビの砂嵐の空間にやってきた。魔法陣から悪魔の手のようなものが、こちらの世界に来ようとしている。今度は片腕と上半身が少し出ているようだが、俺にはもうどうでもよかった。低く響き渡る唸り声の中、俺はそのまま目を閉じた。
そして俺はまた酷い頭痛で目を覚ます。
首を動かし周りを見渡すと、どうやらここは草原のようだ。そして遠くの方に、大きい城塞都市が見えた。また、他の異世界に来たのかと、・・・ラナ達のいない世界に興味はない、そう思い目を閉じた。
次に目を覚ますと女性の姿が見えた。彼女は今まで、俺の看病をしてくれていたようだった。俺が気がついたのを確認すると彼女は声をかけてきた。
「大丈夫ですか?!、聞こえていますか?、私はエイミーと言います。」
俺は声を出そうとするが、声が枯れてしまい上手く喋れなかった。するとエイミーは優しい声で言った。
「無理に答えなくていいですよ。貴方がちゃんと、治るまで私が看病しますので。」
俺は掠れる声を絞り出してエイミーに聞いた。
「な・ん・・で・そ・こ・ま・で・し・・て・お・れ・を・・た・す・け・る・の・か?」
するとエイミーは優しい笑顔で答えた。
「人を助けるのに何か理由が必要ですか?」
俺はエイミーの笑顔に安心してそのまま、また眠った。
しばらくするとエイミーの看病のおかげで俺も声が出るよになり傷も癒えていた。そして、俺は周りの状況が少しずつ見えてきた。ここは、魔法城塞都市アルシャンティアの近くの村で草原で倒れている俺を、エイミーが人を呼んで助けてくれたそうだ。その後、エイミーの知り合いの、農家のおばさんの家に運び込んでもらって現在にいたる。エイミーは夜は、農家のおばさんに任せて、自分の家に帰っているようだった。少し元気を取り戻した俺を見てエイミーが言った。
「無理に話さなくいいですが、何があったのですか?」
俺は、全てをエイミーに全てを話した。
するとエイミーは少し考えた後、悲しそうな顔で、俺に言った。
「そんな辛いことが、あったのですか。」
「こんな、突拍子もない話を信じてくれるのか?」
「貴方のその傷だらけだった格好と貴方の話を聞いていたら分かります。そんなに自分自身が壊れてしまうほど、守りたかったのですね。ラナさんとエフィさんのことを。そんな人が嘘をつくはずがないと私は信じてます。」
エイミーの優しい言葉に俺は涙が出た。
もう、涙は出ないと思っていたのに。
そして俺は言った。
「俺に勇者である資格はない。俺は結局、ラナ達を守れなかった。」
すると、エイミーは少し考えた後に言った。
「私には勇者がどうとか、分かりません。でもハヤトさん、これだけは覚えていて下さい。ラナさん達を守ろうとすることに資格なんていらないと思います。・・・それに、もしかしたらハヤトさんの助けになれそうな方に思い当たりがあります。」
「本当か?!それは、助かるよ。」
「私の魔法の師匠でオルガンさんって方、なんですけど異世界から来られた方で、もうこの土地にかなり昔から住まわれてて何でも知ってるのですよ。」
「異世界?!それは、頼りになりそうだな。・・・でも、結局、戻れたとしてもラナ達が生きている時間軸に戻れなければ意味がないんだ。」
すると、エイミーはにっこり笑い、俺に言った。
「確証はありませんが、きっと師匠ならどうにかしてくれると思います。今日は、遅いので明日の朝に師匠の元へ行きましょう。」
こうして、俺達は次の日にオルガンさんの家を訪ねることにした。
そして、俺達は支度を終えて、オルガンさんの家に行こうとした時だ。エイミーが言った。
「じゃあ、歩くと結構、遠いので空を駆けていきましょう。」
そう言うとエイミーは突然空中を飛んだ。俺が呆けていると。エイミーが言った。
「あれ?!そういえば、ハヤトさんって飛べないんでしたっけ?」
「いやっ、飛べないっと言うか、どういう原理で飛んでるの?」
その後、彼女が説明するには、この世界は非常に魔力に満ちていて、自分の中の魔力を空気中に漂う魔力に同化させ、さらに魔力を足に集中させるイメージをすれば空を駆けるように早く走れるらしい。これを空魔速と言うらしい。俺は言われたとおりにやるがなかなか上手くいかなった。そんな俺を見てエイミーが言った。
「じゃあ、時間は掛かりますが空魔速を私と練習しながら、歩いて行きましょう。」
そんなこんなで、俺はエイミーから空魔速を習いながら、オルガンさんのところへ向かった。エイミーが言うには、魔力には人それぞれの色があり、それをまず体の周りに薄く覆っているイメージすることと、それが出来たら空気中に漂う魔力は透明なので、自分の魔力を薄く透明にしていくイメージをすれば同化できるとのことだった。
ちなみにエイミーに見てもらった俺の魔力は、白色らしいのでまだ、同化はしやすいとのことだった。ただ、俺は剣士だということもあり、この世界の人達に比べると圧倒的に魔力が少ないそうだ。なので、覚えたとしても、空は飛べなくて地面を早く移動するぐらいは出来るとのことだった。
そして、俺が少し空魔速で地面を動けるようになった頃、オルガンさんの家に向かう途中に大きな森を通った。俺は、エイミーに言った。
「この雰囲気は、まるで賢者の森にいるようだ。」
「この森は、パルムの森と言われていて、別名、迷いの森と言われています。なぜ、迷いの森と言われているかと言うと、後、何ヶ月かすると森の中の魔素が非常に濃ゆくなる時期がやってきて、辺りが霧のように包まれます。その中では、方向感感も狂い、また色んな種類の魔物の魔力と混じり合った、魔素により空魔速での移動も出来なくなるのです。又、魔物達も活発に動くため、それにより度々命を落とす方も出てくるんです。」
「なるほどな。見かけによらず危険な森なんだな。」
「そうなんですよ。あっ、ハヤトさん。向こうでの賢者の森の話をもっと詳しく教えてもらえませんか?私、オルガンさんから異世界の話を聞いていて、凄く興味があるんですよ。あんまり興味がありすぎて、この前、とうとう、オルガンさんから長年、教えて頂いていた、魔法で異次元の門という他の世界に移動できる門が開けるようになったんですよ。」
「それは、凄いな。じゃあ、他の世界に移動する時が来たらエイミーに頼もうかな。」
そう俺はエイミーに言って、ラナ達がいる世界の話を詳しく話した。エイミーは、俺の話を興味深く聞いていた。
しばらく、話していると森を抜けて一軒家が見えて来た。そして、エイミーが言った。
「あれが、オルガンさんの家です。」
そして、俺達はオルガンさんの家に到着して家の中に入った。扉を開けると白髪の髭を蓄えた魔法使いの衣装を纏ったおじいさんがいた。そして、おじいさんは話しかけてきた。
「ほほっ、エイミーが若い男を連れてくるとはいよいよ、結婚でもするのか?」
「ちっ、違います!こちらはハヤトさんです。ハヤトさんが相談したい事があるそうなので後は、よろしくお願いします。」
そう言うと恥ずかしそうに外へ出て行った。
「ほほっ、そういえば自己紹介がまだじゃったな。儂は、オルガンと言う。して今日は何の用かな。」
俺は、オルガンさんに全てを話した。すると、オルガンさんは、俺の額に手を当てて、こう答えた。
「なるほど、これはもしかすると大事になっとるかも知れんな。調べるのに数日、掛かるから、その間エイミーと遊んで来なさい。部屋はあるから夜は心配しなくてもよいよ。」
そう言われて、不安を抱えつつも俺はエイミーと遊んだ。エイミーと親しくなるのに、そう時間はかからなかった。エイミーとの時間は本当に楽しかった。彼女の明るい性格もあるのだろう。これは、そんなエイミーと話したある日の会話だ。
「私、誰かと一緒にいてこんなに楽しかったのは始めて。私、家が厳しいから中々、同じ世代の子達と遊べなくて。」
「俺で良ければ、ここにいる間は相手をするよ。それより、良かったのか?俺とこんなところまで、家を空けて来てしまって。」
エイミーは、少し困った顔をして言った。
「実は、置き手紙だけして出て来ちゃいました。」
「そんなことをしたら、後で怒られるんじゃないか?」
「何でだろう。私、ハヤトさんの話を始めて聞いた時、何て素敵な人なんだろうって思って。大切な人達を守るためにここまで一生懸命なれるなんて。そう思ったら、どうしてもハヤトさんの力になりたかったんです。」
「・・・その後、心が折れてしまった、俺が立ち直れたのはエイミーのおかげだよ。」
「・・・やっぱり、ラナさん達の元へ戻るんですか?」
「あぁ、どうしても、ラナ達を助けたいんだ。」
「わかりました。その時は私が異次元の門を開きますので任せておいて下さい。」
「ありがとう、エイミー。助かるよ。」
そんな俺達の時間はあっという間に過ぎて行
った。そして、俺はある日、オルガンさんに呼ばれた。そして、オルガンさんは説明を始めた。
「まず、額の堕天使の契約の魔法陣じゃが、その発動の代価は、お主の転生する予定だった体、つまり竜人の力を代価としている。ここまではよいな。そして、魔法神により呼び出される者じゃが、考える事も悍ましき者、つまり全てを終わらせる者じゃ。」
「すっ、全てとは?」
「お主がいた世界も他の異世界も並行世界も全てじゃ。」
「そっ、そんな。」
「そのウソツキーとやらと堕天使の策略にお主はかかってしまったのじゃろう。その堕天使の契約魔法には、もう一つ隠された呪いが込められていて、堕天使と同じ次元の時間軸に留まることが出来きぬよう呪術が施してある。だから本来ならお主は元いた世界に戻るはずが、同じ元の世界でも、ずれてしまった時間軸に移動した。
そして、お主はきっとラナと言う娘の元へ戻ろうと又、何度も異世界へ移動を繰り返すがその堕天使の契約魔法があるため、ラナと言う娘がさらわれた時間軸に戻ることはできぬ。つまり堕天使は、この別な世界から別な世界に渡る力、つまり次元トンネルを利用しているのじゃ。この次元トンネル内は非常にエネルギーに満ち溢れていて、堕天使が使用した契約の魔法陣の力も増していく。
やがて本来なら途方もないエネルギーを必要としないと召喚出来ぬものがお主の額から召喚される。それが全てを終わらせるものじゃ。人の身である儂が理解できるのはここまでじゃがな。」
俺は絶望していた。そして俺は思った。つまり、俺がラナ達の元へ戻ろうとしようとすればするほど、全ての終わりに近づいて行くってことだ。俺は、もうラナ達のところへは戻れないのか。そして、モルガンさんは言った。
「その堕天使の契約の魔法陣をどうにかする方法が一つだけある。」
「それを教えて下さい!お願いします。」
「儂も大体のことしか知らぬが、この国の王宮には神秘の魔法と言われる契約魔法がある。この魔法をかけられると、己にかけられている他の魔法は全て解かれてしまうそうじゃ。しかし、この魔法は王族の者しか使用できぬ。儂も王宮に知り合いが居れば良かったのじゃが。
この話を聞いたの三代ほど前の王様からじゃったからの。」
「ありがとうございます。それが分かっただけでも良かったです。」
「それと、お主の話しを聞く限り後、三回か四回は異世界への移動は可能じゃろう。痛みは伴うがな。そして、そもそも、他の異世界への移動手段がある世界へ今のところお主は、飛ばされて来ている。これは、儂の経験上かなり低い確率なる。もしかするとお主はなにか、不思議な力で守られているのかもしれんのぉ」
「不思議な力があるかどうはかは分かりませんが今は、ラナ達を救うために行動あるのみです。オルガンさん、本当にお世話になりました。」
俺は、ここまで、調べてくれたオルガンさんに深く感謝した。そして、俺とエイミーは王宮に向かうため翌朝、オルガンさんの家を出た。