3ー4 勇者である資格
俺は今、次元が歪んだ様な空間を移動している。すると、俺の中でまたノイズのようなものが走った。その後、俺の周りに砂嵐のような風景に変わる。また、始まったのだ。契約魔法の発動が。すると俺の額が輝きだした。
そして、あの紫色の人ならざる者の手が出てくる。バチツ!バチッ!と音を立て、今度は完全に左腕全てがこちらの世界で出てきていた。すると今度は、地獄の底から響く様な声まで微かに聞こえてきた。
だが、俺は思った。今回のような世界同士の移動は、これで最後のはずだ。まず最初についたらラナを救うんだ!俺は、そう決意した。しばらくして契約魔法の発動が終わり、俺は意識を失った。
次に気がついた俺は、思った。
だんだん、異世界へ移動を繰り返す度に頭痛が酷くなってくる。だが、俺は無理に体を起こした。すると、俺はラナ達いる世界の始まりの墓地にいた。俺は次元の扉で願いが叶ったと思い、ラナがさらわれたクルムの町に走った。
俺は途中の賢者の森の木の枝で服を引っ掛けて破れながら、体中に傷をつけながらも俺は走った。でも俺は、何か様子がおかしい事に気づく。賢者の森がところどころ、焼け落ちたようになっていた。しかし今はラナを助けることが最優先だと自分に言い聞かせ、俺はクルムの町を目指した。
息を切らせ、不安を抑えて、走り続けて、俺は途中で石につまずいて転び、靴が片方脱げるが、邪魔だと思いもう一方の靴を脱ぎ捨てて再び走った。そして、昼夜問わず走り続けていつの間にかクルムの町にたどり着いた。今にも飛び出しそうな心臓の鼓動を抑えて、クルムの町を見渡すが町は焼かれたようにボロボロになっていて人らしい人がいなかった。俺は、叫んだ。ラナの名前を必死に叫んだ。
「ラナーーーー!! ラナーーー!どこにいるだ!」
返事が聞こえないことがわかると俺はウソツキーに対する怒りが込み上げてきて叫んだ!!
「ウソツキーーーー!!どこだーーー!!
ラナを返せーーー!!」
そして俺はまた街を走りだした。ラナを探すために。
どれくらい探しただろうか足の裏はすでに皮が破れて血が滲んでいた。
するとクルムの町の少し外れた場所に倒れている人の姿を見つけた。
その人は赤い髪でラナと同じ服を着ているようだった。近づくにつれて不安な気持ちが俺の心を襲う。
これはラナなのかという疑念は、やがて俺の中で、確信に変わった。
そっとラナの名前を呼ぶ。
本当は分かっていた。
すでに亡くっていることを。
でも呼ばずにはいれなかった。
ラナを抱きしめながら、何度も何度もラナの名前を呼び、俺は泣き続けた。
ラナとの思い出を頭で思い出しながら、何度も何度も後悔して、そして、自分の非力さを悔やんだ。
俺の頭の中に旅の途中でラナから言われた優しい言葉が蘇る。そして、俺は言った。
「俺は、君に恋をしていたんだ。」
・・・しばらくして、俺はラナを抱きかかえて、土に埋めてあげた。
俺は今度、宿屋があった場所に行ったが、焼け落ちて原形をとどめていなかった。宿屋の瓦礫をどけてみたがエフィではない誰かの死体が出てくるばかりだ。それから俺はエフィの名前を呼んだ。
「エフィ。エフィ。いるなら返事をしてくれ。頼む。頼むよぉ。」
そんな俺の気持ちを察するように雨が降り出した。
泣き疲れた俺はトボトボとエルフの里を目指した。もしかすると、スラ蔵が何か知っているかもしれないと。心が折れそうになりながら、希望繋げるために。
そして、やがてエルフの里に着く。たがそこもやはり、家が焼け落ちていた。スラ蔵がいた家も崩れて跡形もなかった。降りしきる雨の中、瓦礫をどかしていくと・・。
そこには、動かなくなったエフィの姿があった。近くには、きっとエフィを守ろうとしたのだろう、スラ蔵も倒れて動かなくなっていた。俺はエフィを抱きかかえながら俺は泣いた。何度も嗚咽しながら泣き続けて、叫んだ。
俺の頭にある日、晴れた天気の中、三人で旅をした光景が浮かんだ。エフィがいつまでも三人で旅がしたいと言った言葉と共に。
「俺は勇者じゃなかった。勇者になんてなれなかった。なんで引きこもりの俺が勇者だったんだ・・・神様、教えてくれよ。
おっ、俺は、勇者である資格は無い。」
心の隅で、思っていた。どこかの物語のように元の世界戻れば、まるで勇者のようにラナ達を救えると・・・。俺は結局、勇者にはなれなかった。
静寂な森の中、俺の声だけが響いていた。
やがて、泣き疲れて、声も枯れ果てて、寝ていた俺は、いつの間にか夜になっていることに気づいた。空には綺麗な月が浮かんでいた。俺はウソツキーが言った次元の渦を思いだした。ここではない、どこかえ行きたかった。また、クルムの町に向かってフラフラと歩き出した。
やがてクルムの町で次元の渦がある場所にたどり着いた俺は静かに横になり二十四時を待った。
そして、二十四時になったのか、俺の体は次第に次元の穴に飲み込まれていった。
この時、俺はもう生きる力を失っていた。