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3ー3 セイントブルム王国


俺は、酷い頭痛と共に意識が戻る。


鳥の鳴く声がする。なんだろいい匂いがする。なんか鼻の上にサラサラしたものが・・

そして俺は目を開ける。


「ごめんなさい。髪が掛かっちゃいましたね。」


目を開けると青い透き通る目をした、白く長い髪のお姫様が俺を覗き込んでいた。俺は身体を起こし尋ねた。


「えっと、ここはどこでしょうか?」


すると彼女は優しく笑い言った。


「面白いことを聞くのね。まるで伝説に聞く勇者様みたい。」


「ここはセイントブルム王国の王宮の庭ですよ。私の名前はメアリー・オブリージェ。貴方は何故こんなところで寝ていたのですか?」



「申し遅れました。俺の名前はハヤトと言います。・・・こんなこと、信じられないかもしれませんが、次元の渦に飲み込まれて、こちらに飛ばされてきたようなのですが、この辺にクルムという町とか、アースガルド帝国とか、賢者の森とかいう場所は、ありませんよね?」


するとメアリー姫は困った顔をして言った。


「いえ、私は幼い頃から世界中の地名などを勉強してきましたが、そのような場所は聞いたこともありません。」


「なるほど、分かりました。だとするなら考えられる可能性が一番高いのは多分、別な異世界に飛ばされてしまったと考えた方が良さそうですね。」


「まぁ、他の世界から来たのですか。いよいよ勇者様みたいですね。」


俺は、この話を聞いて思った。この世界には、俺以外の勇者がいる可能性があることを。


「俺のことを疑わないのですか?」


メアリー姫は、静か首を横に振る。


「いいえ。疑わないわ。何故なら私は昔から人の目を見れば、その人が嘘を言っているのかわかるから。それに貴方はすごく真っ直ぐで透き通った目をしているわ。」


俺は少し照れながら言った。


「ありがとう。」


俺は、もう一つ重要なことをメアリー姫に聞いた。


「魔法という概念は、この世界にあるのでしょうか?」


すると、メアリー姫は呆けた顔をして言った。


「魔法ですか?!あの、おとぎ話に出てくる火とか、水とか出せるやつですか?」


俺は、その答えを聞いた時、確信した。この世界には魔法は存在しないことを。恐らく、堕天使の契約魔法について聞いても無駄だろうと俺は思った。そして、俺はメアリー姫に言った。


「いえ、存在しないのであれば、いいのです。」


それから、姫は俺に提案してきた。


「貴方の話は他の者からしたら、突拍子のない話なので、信じないかもしれません。だから貴方は私の専属の従者に雇ったことにします。よろしいですか?」


「もちろんです。」


そして俺たちは姫の部屋へ向かった。

俺はメアリー姫に他の異世界で勇者であったことを話すとややこしくなるため、その話は伏せてこっちの世界に飛ばされた経緯を話し、元のラナ達がいる世界に帰る方法がないか聞いた。


「そんなことがあるのですね。・・・結論を言うと帰れる方法が一つだけあります。実は我が国にはこんな言い伝えがあります。魔王現る時、願いの木に光と共に、異世界から転生が現れる。その者は勇者と呼ばれ、魔王を討ち亡ぼしこの国に平和をもたらすであろう。そして、言い伝えの最後にこうにはこう言われています。勇者は全ての役目を終し時、次元の扉で元の世界に帰還するであろう、っと。」


「なるほど。つまり次元の扉を使えばラナ達のいる世界に戻ることが出来るということですね。」


「確証はありません。誰も試したことがないのですから。それに、次元の扉のある場所は転生の洞窟にあって、かなり強いモンスター達が洞窟内にいることもあって、誰も近づかないのです。」


「それでも行かなきゃ行けないんです。大事な仲間を救うために。」


姫は、困ったように言った。


「仕方ないですね。ではハヤトが転生の洞窟に行けるように取り計らいますね。」


「感謝します。」


それから俺は窓から見える大きな木が気になった。あれが、さっき話ででた願いの木かと思い、メアリー姫に尋ねた。


「そうです。あれが願いの木です。あの木は他にも人々が困った時に願いを叶えてくれる木とも言われています。・・今、セイントブルム王国は魔王が現れたことにより、いつ攻めてくるか、その不安に晒されています。その他にも周辺諸国からの侵略もあり王国は少しずつ、疲弊してきているのです。」


「メアリー姫は早く勇者様に会いたいですか?」


「私は会いたくないと言えば嘘になりますが、何か貴方からも勇者様と同じものを感じるのです。勇者様には、会ったことはありませんが私の感覚がなぜか、そう教えているのです。もしかして他の異世界で勇者だったりした・・っとか、可笑しなことを考えてしまいました。ふふっ」


俺は姫様の鋭さに驚いた。流石、異世界のヒロインだと変に納得してしまった。

そして、そんな可愛く笑う姫を見て、なんだか楽しくなり俺は芝居を始めた。


「さぁ、メアリー姫!従者ハヤトがこれからは、どこへでもお供しましょう。」


そう言って俺は姫の前で膝をついた。


「ふふふっ、ハヤトは面白いのね。いいわ、ハヤト、私について来てね。」


そう言ってメアリー姫はスカートの裾を持ちお辞儀した。


そして俺たちは兵士達が訓練しているところに来た。


「これは姫!こんなところに如何なされたのですか?」


「ドギー隊長に少し紹介をしておこうと思って。こちらは今日から私が雇った従者のハヤトよ。」


「始めまして。従者のハヤトです。」


すると隊長のドギーさんは俺をまじまじと見つめて。


「なかなか、こやつ見どころがあるかも知れません。どうですかな、姫。私にしばし預けて見ては?」


俺は助けてっという目で姫を見たが姫はクスッっと笑った後、ドギー隊長に言った。


「いいですよ。でもあまりハヤトを虐めないでね。」


そして、メアリー姫は俺の目を見つめて言った。


「ハヤト、この世界では心技という技を学ばなければモンスターと戦えないわ。きっとドギー隊長はあなたのいい師匠になってくれるわ。それにいきなり、転生の洞窟に行くのは危険だから、ここでの稽古はいい訓練になると思うわ。」


「わかりました。メアリー姫。」


それからはドギー隊長との訓練の日々が続いた。ドギー隊長から聞いた話によると、この世界に魔法やスキルといったものは一切なく。あるのは心技と言われるもので己の体に流れるオーラーを剣に集めて戦う方法だった。これをするだけで鈍刀でも石をバターのように切り裂けた。


ただこのオーラーを剣に集めるのが至難の技だった。少し集中を切らしただけでオーラーが霧散する始末だ。

そして、心技を発動した状況で更に一から十まで型の技がある。しかしこれはこの世界で勇者であるものしか扱えない。

俺はいちお、ドギー隊長にこの世界以外でもこの力は使用できるのか聞いたがオーラとか気と言われる概念が存在する世界なら使えるのではないかと言っていた。

そんな訓練をしていたある日、ドギー隊長はこんなことを言っていた。


「ハヤト、だいぶ心技を扱えるようになってきたじゃないか。」


「ええっ、これもドギー隊長のおかげです。後はもっとスムーズに発動出来るようにすれば完璧ですね。」


するとドギー隊長は険しい顔をして言った。


「ハヤト。姫様は今、魔王が現れて相当不安になられている。魔王が現れてから各国で村や町が次々と襲われている。そして、魔王の最終的な狙いは恐らく姫だ。俺は一緒にいてやれないが、お前が姫を守ってくれ。」


「言われなくても、俺はメアリー姫を守ります。」


それからしばらくして、俺は願いの木がある場所に出かけた。実際に勇者が転生するという木を見て見たかったからだ。

俺は木の周りを一周して確認したが特に変わった所はないようだ。


すると木の根元あたりに硬い物で掘って書いた絵のようなものを見つけた。これは、子供が書いたのか?と思いよく見ると、多分、勇者と姫様が手を繋いでいる絵のようだった。

そこへ通りがかりのおばさんが来て教えてくれた。


「あっ。それかい。それはね。まだ姫様が小さかった頃、書いた絵でね。まだあの頃は勇者様は魔王を倒した後もずっといるって信じていた頃だったんだよ。丁度、その絵を描いた後ぐらいに勇者様は自分の世界へ帰ってしまうことを知ってしまってね。

それ以来、自室に引きこもるようになったのよ。丁度、同じ時期に王妃様も亡くなられて。子供ながらに相当、辛かったと思うよ。」


俺は、願いの木の話をした時のメアリー姫の一瞬、悲しそうな顔はそういうことかと思った。


俺が外を出歩いて感じたことは、この国の民が本当にメアリー姫を慕っていたことだ。貴方は本当に沢山の方から愛されているのですね。俺はそう思った。


俺が訓練の日々を送っていた、ある日のことだ。兵士が駆け込んで来て言った。


「隊長、他国の将軍が軍隊を連れて国境付近まで来ています。」


「お前らいつでも戦闘できるように準備を整えておけ。今日が約束の返答日か・・」


「ハヤト、お前は姫様の元へ帰れ。」


俺は頷きメアリー姫の元へ走った。そして、メアリー姫の部屋の扉を開けた!


すると、そこには俯いて考え込んでいるようなメアリー姫の姿があった。


俺に気づいた姫は深刻な顔をして他国の将軍が来た経緯について語り始めた。


「隣国のヘルガー将軍は昔から私に求婚を迫っていて今日が返答の最終日なのです。こちらから誰か代表を出して、自分と一騎打ちをして勝てなければ私を妃にもらうと。拒めば間違いなく戦争になります。」


「こちらからは結局誰が出るのですか?」


するとメアリー姫は静かに首を横に振った。


「誰もいません。ヘルガー将軍は強く。恐らく、この国の者では誰も勝てないでしょう。なので私は刺し違える覚悟です。ヘルガー将軍の妃になるぐらいなら私は・・」


その後の言葉をメアリー姫が言いかけた時、俺はメアリー姫に提案した。


「待って下さい!いずれ貴方は、勇者と共にこの世界を守らなければならない身。なればその役目、このハヤトがやりましょう。」


「ダメです!貴方は帰らなければならない世界があるのでしょう!待っている人がいるのでしょう!」


「それでも、それでもどうか私に、ハヤトに命じて下さい!貴方にせめてものご恩をお返ししたいのです。」


「そんな、そんな・・・ハヤト、貴方は優しすぎます。」


しばらくするとメアリー姫は涙をポロポロ溢して泣き出した。

そして俺の手を取って言った。


「ごめんなさい。ハヤト。こんな不甲斐ない私で。だから、・・せめて今日だけ、こんな私を守るナイトになって下さい。」


「はい。」


その後、俺はガイアスト・オブリージェ 王にも呼ばれた。


「ハヤト君、うちのメアリーのことなのだが・・」


「はい。」


「あの子は、私が妻を亡くしてからというもの本当に今まで苦労させきたと思う。だからこれからは幸せになってほしいんじゃ。そして、勇者でもない君が戦うことに周りから、反対の声が上がっている。だが、儂はあの子が、メアリーが信じた君を共に信じたいと思っている。だから、この勝負、必ず勝ってくれ。」


そう言って、ガイアスト王は俺に頭を下げた。


「王様、頭をお上げ下さい。私は、この世界の勇者ではありませんが、全力を尽くします!だって、こういう時のために訓練してきたのだから。」


そして、それからしばらくして、俺達、セイントブルム王国軍は隣国との国境付近に来ていた。

ヘルガー将軍は時間より遅れて、やってきた俺たちに言い放つ。


「やっと来たか!もう来ないかと思ったぜ!」


それを聞いたメアリー姫が叫ぶ。


「ヘルガー将軍!どうしても考えを変える気はないのですか?!」


「無いね。さっさと姫様はこっちに来な!」


そして俺は姫様の横に立って言った。


「俺は名前はハヤトだ!お前との一騎打ちは俺が相手する!」


「お前のような小僧がか?!まぁいい前に出ろ。」


俺は姫様に言った。


「メアリー姫、すみませんが腰の短剣をお借りしたいのです。」


メアリー姫は静かに頷く。

そして俺に腰の短剣を渡した。


「わかりました。ハヤト。どうか無事に戻って来てください。」


そして、いよいよヘルガー将軍と俺との決闘が始まる。


「いいぞ小僧どっからでもかかって来い!」


俺はヘルガー将軍に斬りかかるが躱されて、逆に攻撃をくらい傷を負ってしまう。次の攻撃を防御しようとするがヘルガー将軍の渾身の一撃を受けきれず、吹き飛ばされ倒れた。なんとか立ち上がろうするがダメージが大きい。俺が万事休すかと思った時、メアリー姫の叫ぶ声が聞こえた。


「ハヤト、頑張って!貴方は、確かに他の方からしたら勇者ではないかもしれません。


でも、私は知っています!

貴方が私のために夜遅くまで、剣術の訓練をやっていたことを。


私は知っています!

私が寝た後もドアの外で、警護をしてくれていたことを。


・・・そして、私が寂しくないようにと側に居てくれてたことも。


だから私にとって貴方は、紛れもない勇者です。・・・お願い、お願いだから・・負けないで、私の勇者様・・。」



メアリー姫の涙を見た俺は、渾身の力を振り絞り立ち上がる。



「おっ、お姫様にそんな事言われたら、立ち上がるしかないじゃないですか。」


ほとんど残ってる力もない俺は一瞬で勝負をつけなければ負けると思っていた。この世界は騎士であれば心技が使えるのは当たり前。だから、それ以外で何か奇襲を仕掛けなければならない。俺は身体を深く沈み込ませ、いつでもスタート出来るようにし剣を構える。俺はラナならこういう時どうするか考えた。そして、俺は勢いよく駆け出した!


「行くぞ!ヘルガー将軍!」


俺はヘルガー将軍に向かい走る。そして徐々に距離が近く。ギリギリまで待った俺はヘルガー将軍に剣を投げた。慌ててヘルガー将軍が手にした斧で払いのける、それと同時に飛び上がり更に腰に隠した短剣でヘルガー将軍の右目を斬りつけた!

ヘルガー将軍はあまりの痛さに膝をつく。

俺は先ほど投げた剣を拾いヘルガー将軍の首に剣を当て言い放った。


「俺の勝ちだな。」


セイントブルム王国の兵士達から歓声が上がった。そして、メアリー姫も笑顔を見せながら泣いていた。


その日はメアリー姫様の無事を祝ってダンスパーティーがあった。俺は、ドギー隊長に茶化されながらもメアリー姫と踊った。ダンスに不慣れな俺をメアリー姫は優しくリードしてくれた。そして、ダンスパーティも終わりに差し掛かった頃、外に出て涼んでいるメアリー姫を見つけて、俺は声をかけた。


「メアリー姫。ダンスは楽しかったですか?」


「ええ。楽しかったわ。・・・ハヤト。やはり、行ってしまうのですね。」


「やはり、分ってしまいましたか。メアリー姫にはかなわないな。」


そして、メアリー姫は上を見上げて言った。


「・・ハヤト、今日は夜空が綺麗ですね。」


「はい。とても。」


俺達はしばらく二人で夜空を見上げていた。



こうして隣国との一件を解決した俺は城を出て転生の洞窟へ向かうことにしたのだが・・


「駄目です!危険です!」


「嫌です!私もハヤトを見送るために転生の洞窟に行きます!」


「ですがメアリー姫に万が一のことがあればこのハヤトは責任を取れません。」


こんなやりとりをしていると、国王が出て来て言った。


「この子がこんなにわがままを言うのは始めてなんだ。よっぽど君のことが気にいったらしい。どうか私からも頼む。」


俺はしばらく考えて言った。


「わかりました。他の護衛の兵士も一緒となら。」


どうも最近のメアリー姫は感情を表に出すせいかラナに似てきたなと俺は考えていた。


俺とメアリー姫は転生の洞窟に着くまでの間、お互いの出会ってからの思い出を語合った。別れを惜しむように。そして、次元の扉に着いた俺達が最後の別れをしようとした時、護衛の兵士は外の様子を見てくると言って俺達は二人になった。


それから、メアリー姫の方へ目を向けると、メアリー姫の頬を涙がつたっていた。俺は本当は分かっていた。メアリー姫が泣くのを震えながら我慢していたことを。そして、メアリー姫が話し出す。


「私は悪い女です。ハヤトさんは、ラナさん達を助けるために行かなければならないのに。本当は最後まで涙を我慢するはずだったのに。私は・・」


そう言いかけたメアリー姫を俺は、そっと抱きしめた。そして、俺は言った。


「もう、我慢しなくていいですよ。王妃様が亡くなられてから今まで、本当に頑張りしたね。」


するとメアリー姫は堰を切らしたように泣き出し、そして俺に言った。


「わっ、私はこんなに人を好きになったのは始めてです。私は・・ハヤトのことが、大好きです。こんな私を許して下さい。」


「俺のことを好きになってくれて、ありがとうございます。そして、姫を残して行ってしまう、このハヤトを許して下さい。」


俺達はしばらく二人で泣いた。

俺はメアリー姫とずっと昔から一緒にいたような気さえしていた。


そして、外を見に行った衛兵が俺達の元に走って帰って来て言った。


「姫様!願いの木に光の柱が見えます!ついに勇者様が転生されて来ました!」


それを聞いた、俺は次元の扉へ歩いて行く。その間も俺が次元の扉に入るまで、お互いに手を離さなかった。


そして最後に他の世界へ転送される瞬間に見せたメアリー姫の笑顔を俺は決して忘れない。俺は最後に心の中で思った。

ありがとうメアリー姫、そして、・・・さようなら。




















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