火取虫(ひとりむし)
蒸し暑い夜
眠れない。眠れない
眠れないから、夜の街を歩く
雑音
その中にまじって蘇る、あの声
いなくなってしまえ
振り払おうとしても、呼応する笑い声がおいかけてくる
怖い、恐い、コワイ
走って、走って
ほの暗い路地に入った
なぜ、ここに来たんだろう
誰もいない通学路
グランドに灯る殺虫ライト
バチッバチッ
耳障りな音を立て失われ行く命
それでも集い、自らの命を散らす火取虫
闇が怖いのか
光が恋しいのか
そこにある光の先は最期しかないというのに
目の前で命果て行く同胞を前にして
それでも火取虫は光へ集い来て、命を散らす
周りには共に光を望む仲間がいる
でも、彼らは気付かない
発する言葉を持たぬから
結局、
彼らはただのひとり虫
発する言葉はあるのに
それを使わない私も
結局ただのひとりむし