小説を読んでもらう 誰に?
私は今小説を書いています。いえ、別に小説家ではありません。ただなんとなく私でも書けるかなと思いたって書き始めました。きっかけはある素人投稿サイトの作品を読んだことです。はっきり言いますと全然ダメダメ作品でした。こんなのなら私の方が上手に書けるわと書き始めたのです。云わば反面教師ですね。だからあの作品は私にとってはターニングボイント、道を示してくれたマイルストーンです。でも、今読んでもダメダメなことに変わりはないんですけど。
でも、いざ書いてみるとこれが結構難しい。あるワンシーンくらいならさらさらと書けるのです。でもそれに肉付けしようとすると途端に筆が止まります。そのシーン自体は私の頭の中で完成しているので自分が読む分には違和感もないのですが、知り合いに読んで貰ったらダメ出しのオンパレードでした。
彼女曰く。
「この人、誰?」
「別れたいの?縁りを戻したいの?」
「そもそも、どれくらいの付き合いだったのよ。」
はい、私の中の漠然とした設定を事細かに聞いてきます。中には私が想定していなかったことまで聞いてくるものですからムカつきました。その事を今度は別の友人に愚痴ります。
彼曰く。
「それはね、君の作品が良すぎたのさ。だから文章に表されていなかった事まで知りたくなったんだ。」
はい、彼は私が癇癪を起こさないように言葉を選んでいます。でも単純な私はころっと騙される。そうか、私は全てを知っているけど、彼女は私が書いた文章からしか情報を得られないんだもんね。興味を持って貰えたならその動機や背景を知りたくなるのも当然よね。つまり、私と彼女ではこの物語に埋め込まれている情報の量に差があったのだ。まさか、こんな身近で情報格差を実感するとは思いませんでした。ん~っ、これって使い方あってます?
私が書いた文章は云わば映画のクライマックスだけを抜き出したものでした。確かに感動もんの場面かも知れませんが、そこに行き着くまでの過程を知らない人にはただの修羅場にしか思えなかったのでしょう。なら、そこも書けよと言われそうですがこれがまた難しい。なまじクライマックスシーンに思いいれがあるものだから、そこへ行くまでの過程がドロドロだったり、薄っぺらだったりと自分の中で釣り合いが取れないのです。今度は自分で自分の文章に突っ込みを入れられます。
「なんでそんな事で怒り出すの?」
「あんた、本当にその場限りねぇ。」
「お前、それって世間じゃ二股っていうんだよ!」
ぐすんっ、しかも出来上がった過程部分ってどこかで見たようなエピソードがてんこ盛りです。多分、韓流ドラマです。もしかしたら昼ドラかも知れません。なんだ、私って自分でオリジナルを書いたつもりでいたけど結局パクっていたのか・・。でもここで挫けては私をこの世界に導いてくれたあのダメダメ作品に申し訳がたたない。いや笑われてしまう。それだけは嫌だ。
私は出来上がった小説をまた彼女に読んで貰う。うんっ、別にマゾじゃないわよ?私のまわりで一番はっきり言ってくれるのが彼女だからです。
彼女曰く。
「グラム千円の肉を卓上コンロで焼いたみたい。」
「表紙だけはかわいいエロ雑誌ね。」
「モナリザの絵に幼稚園児が落書きしてるわ。」
くっ、そこまで言うか!でも最後のモナリザは褒めてくれてるんだろうか?
結局、私は自分だけが判ることを、書き連ねていたみたいだ。だから読んだ人がどう感じるかなんて考えていなかった。きれいな所だけを切り取って、ほらきれいでしょう?と自慢する。その後ろで散らかっている汚い部分はシーツを被せて目隠しだ。
だから実際に書いてみたらあのダメダメ作品と同じになってしまったのだろう。あの作品の作者も自分だけが判る世界を書いたのだろう。だから私にはダメダメに見えたのだ。
この前私を慰めてくれた彼はそれでもいいじゃないかと言う。自己表現なんだからやり方は人それぞれだと言ってくれた。確かにそうだと思う。でも私は書くだけじゃ嫌だ。みんなに読んで貰いたいのだ。でも今の私には読んで貰える作品を書けない。どうしよう?そこでまたまた彼女の登場だ。
「あなた、もしかして自分を天才だと思っているの?」
いや、そんな事は・・。
「初めて書いたんでしょう?それって普通なんじゃない。」
はい、そうですね。でも、初めて書いた小説で一発当てた人もいるって聞いてるし・・。
「あなた、努力って嫌いだもんね。料理もレシピ通りに作らないし。」
いや、そこはなんというか、創意工夫を隠し味に・・。
「でも、ストレッチは続けているわね。それだけは褒めてあげるわ。」
ううっ、だって私って太りやすいからさぁ。昔の私には戻りたくないのよ。
「継続すれば結果はついてくるんでしょう?なら、続けるのね。来年になったらまた読ませてよ。」
らっ、来年なのかいっ!今は4月だぞっ!せめて夏くらいと言えんのか、お前はっ!
でも、そんな彼女の励まし?で私は新たな小説を書き出す。よしっ、今度は彼に読ませる事を念頭に書こう。内容は私の思いではあるが、読ませる対象を思い浮かべることにより深みがでるはずだ。それを読んだ彼は感動の涙を流しながら私の元に駆け寄ってくるだろう。
人はそれをラブレターという。
作者より
エッセイと言ったらこれは外せないでしょう。小説の書き方、対象編。基本、今の子供に時代小説は受けないと思うし、年配者に異世界ものは理解できないでしょう。女性の方にアクションは敷居が高いだろうし、男性にあまあまの恋愛物は胃がもたれそうだ。
だから小説もジャンルという専門店別にそれぞれの対象に別れるのだろうけど、この垣根もあやふやですね。この総合デパート然とした投稿サイトでは主流を外した作品を見つけるのは骨が折れます。まぁ、異世界ファンタジーのコメディ部門が好きな方には宝島なんですけどね。