第3話 師匠の手紙
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「そういえばユーリ、パパから手紙を預かってきたの。ちょっと待ってて」
そう言ってリリーは封筒を俺に渡す。
待て待て。今、谷間から出てこなかったか?
何故か手紙が温かいぞ。
「ユーリ、先ずは読んでみて」
「わかったよ。ちょっと飲み物取ってくるから、読んでる間にリリーは紅茶でも飲んでて」
「できればクッキーも欲しいな。ユーリママのクッキー、私大好きなの。てへ」
「はいよー」
母から受け取った飲み物とお菓子をリリーに渡して、俺は落ち着いて師匠の手紙を読み始める。
『親愛なるユーリ
この手紙を読んでいるということは、
真のリリーを受け入れたことと思う。
どうだ? 可愛いだろう?
だが、娘は強い男にしかやらん!
ちょっと女が離れただけで
めそめそしてる女々しいやつなんぞ
もっての外だ。
ユーリ、お前の事だぞ!
職業診断の結果より修行しろと
あれだけ言っておいたのにだ。
さて、聡いお前なら感じただろう?
職業診断の違和感を。
まずは俺の予想を述べてみよう。
お前の職業は狩人あたりか。
そしてソフィア嬢は聖女。
隣町の町長の息子、サトルが
勇者に認定されたかもしれん。
どうだ?ほぼ正解だろう。
気づいていると思うが、
これにはカラクリがある。
職業診断を行う神官が得られる情報は
魔法が使えるかどうか、
外観から判断する体格の良さ、
あとは、親と教会の関係性だ。
我々のような一般人の中からだと
魔法が使えれば衛兵や狩人。
使えなければ農民や商人になる。
この辺りは釣り合いがとれるように決まる。
魔法が使えて体格や見た目が良ければ
王国の下級兵士に採用される。
親の寄付が多ければ騎士になれるかもしれん。
このように、親と教会の関係性は
教会への寄付で強くすることができる。
親が教会関係者であればなお良い。
身内に対して甘いのはどこの世界でも一緒だ。
神官の子は大体神官だ。
教会は身内を囲い込む傾向が強い。
更に多額の寄付があれば聖女になれる。
ソフィア嬢の場合がまさにこれだ。
そして親が非常に多額の寄付をした中で
ごく僅かな割合で勇者が誕生する。
勇者は一人ではないのだ。
この事はあまり知られていない。
ただ、子を持つ親の多くは
職業診断のカラクリに気付いている。
何せ、50年以上も続いているのだからな。
しかし、誰もこれに反論しない。
教会と王国との癒着が強く反論できないのだ。
ヴューラー王国のみならず、その周辺国含め
教会なくして、経済も人材も成り立たない。
50年でそれほど教会は力を付けた。
その教会と対立してソフィア嬢を取り戻すには
並々ならぬ覚悟が必要だ。
お前が7年以上も行ってきた修行で培った力は
その覚悟を後押しするだろう。
また、リリーもお前の力を必要としている。
今こそ修行の成果を見せる時が来たのだ。
この3年でリリーに魔族としての知識を与え
魔王にまで任命されるほどになった。
まぁ魔王は魔族の辺境伯のようなものだ。
そしてリリーは新人魔王だから
過度の期待は禁物だぞ。
2人で力を合わせてソフィア嬢を救うのだ。
頑張れよ。
お前の頼れる師匠 アルバス』
おおー、なんか分かり易い手紙だったな。
さすが師匠。
「ってか、リリーは魔王になったの!?」
「そうだよ! すっごいでしょ!」
大きくなった胸を張るリリー。
いや、けしからん。
けしからん過ぎる。
「3年間、頑張ったんだ。偉いね」
悟りを発動して、何とか頭を撫でる俺。
近いうちに僧侶になれるかもしれん。
「人族や魔族についても色々勉強したんだよ」
「ちょっと教えてよ」
「人間が魔力を発生させて魔法を使うためには魔力炉が必要なの」
「魔力炉? 俺は聞いたことないな」
「ユーリの修行では意識しない様にわざとパパは教えなかったんだって」
修行の邪魔になるからという理由か。
修行好きな師匠にも困ったもんだ。
俺の知識が滅茶苦茶偏ってるだろ。
「それでね、魔力炉は魂と結びついていて目に見えないの。でもね、魔族や魔獣は魔力量が凄く大きいから、魔力炉が固体化して魔石になってるの」
「へー、あの魔石ってそういうものなんだな。何も考えずに魔獣を狩ってたから知らなかったよ」
「でしょー。えへん!」
「リリーは威張るの好きだな」
「いいでしょ? これくらい」
「まぁね」
言いながら、再びリリーの頭を撫でる俺。
「ほえ? なんでナデナデしてくれるの?」
「いや、頑張ってるから定期的にね」
「嬉しー! でもちょっと義務感みたいな……」
「そんなことないよ! リリーが可愛いから。自発的だよ」
「それならいいけど」
ふぅ、とりあえず納得してくれたようだ。
「魔族は色々な種類がいて、竜人や獣人も含まれるの。人間と身体の仕組みはほどんど一緒だから、人との間に子供もできるのよ。私みたいにね」
言いながら、リリーは上目遣いで照れている。
可愛いが、なぜ照れているのか?
女心はよくわからん。
成長したらわかるようになるのか?
いや、転生前も分からなかったからなー。
「あとね、魔族は弱った人間の魔力炉を吸収して魔力を強化することができるの。吸収されちゃった人はほどんど魔法が使えなくなっちゃうのよ」
「へー、そりゃいいな」
「魔石を食べたらお腹壊しちゃうだけだけど、弱った魔獣を『使役』することもできるのよ! 凄いでしょ!?」
「ほう。じゃあ俺が魔獣を弱らせる役目だな!」
「ううん、違うの。ユーリは私の栄養だから大事にしろってパパが」
「え、栄養なの……?」
「うん。定期的に吸わせてもらわないとだから」
「は、はぁ」
「魔族は原則、専守防衛なの。人間と違って数が少ないし、新しく生まれにくいから。ダンジョンに籠って守るのが基本よ」
「そうなると、わざわざ勇者を任命して倒そうとしなくてもいいんじゃない?」
「そうなんだけど、教会の権威を維持するのに必要だってパパが言ってた」
「なかなか教会の仕組みも複雑なんだな」
「だからね、気を付けて罠を張って、ソフィアちゃんを助け出さないとなの!」
だんだんこの世界の仕組みが分かってきたぞ。
くそう、師匠め。
リリーの栄養だから、色んな知識を教えずに修行ばかりやらせたのか。
く、悔しい!
「ねぇ、ユーリ。早く外にお出かけしようよー」
騒ぐリリーの横で独り、涙目になる俺であった。
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