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第1話 運命の職業診断

ブックマークありがとうございます。

拙い文章ですが、コツコツ更新していきます。

 黒髪の美少女リリーが引っ越してから更に3年の月日が経ち、俺とソフィアは運命的な日を迎えていた。

 サン・マスナダ教会の神官による職業診断が行われるのである。

 俺やソフィアが住むヴューラー王国の子供たちは、15歳になると教会に集められ、職業診断を受けることになっている。

 サン・マスナダ教会はヴューラー王国を中心とした周辺国で唯一の宗教団体であり、王国とかなり深い関係にあった。

 そのため、この職業診断の結果に従わなければ王国を追放されるという絶対的なもので、50年ほど昔から変わらず行われてきたらしい。

 転生者である俺からしたらかなり謎めいた風習だ。

 王国の兵士や騎士、衛生兵から魔導士、神官、村の衛兵や狩人、農民、商人など幅広い職業が存在するが、冒険者は職業ではないらしい。

 冒険者は、冒険者ギルドに登録した人たちがそう名乗るだけで、ほぼ兼業か無職のようだ。


 アルバス師匠は職業診断の結果なんぞ気にする暇があったら修行しろと言っていたが、やっぱり実際は気になってしまう。


 「ユーリちゃんは何の職業になりたいの?」

 早朝、隣町の教会へ向かう相乗り馬車の中で、ソフィアは俺に心配そうな顔で聞いてきた。

 「そうだなぁ。師匠は職業なんて気にするなと言っていたけど、希望としては村の衛兵か狩人かな? ソフィアは? そいう言えば、ソフィアのお父さんは昔、教会の神官だったんだよね?」

 「そうなの。今はお母さんと一緒に教会の事務員なんだけどね。私はユーリちゃんの側に入れれれば職業は何でも良いから……」

 ちょっと照れて俯きながら、ソフィアは隣でモゾモゾしている。

 なんて可愛いやつなんだ。

 相乗り馬車の中じゃなかったら思いっきり抱きしめてるぜ。

 

 嬉しくなった俺は、落ち着かせるようにソフィアの手を握りながら馬車の揺れに身を任せ目を閉じた。

 「まぁ、なるようになるさ……」


 「私ね、心配だからお守り作ってきたよ」

 「おお! ありがとう、ソフィア。ちょっと見せてよ」

 「ちょっと待っててね」

 手提げの中を探るソフィア。


 「じゃーん、紐を編んでみたんだよ。お揃いだから、一緒に着けたいな」


 おお、これは現代で言うところのミサンガだ。

 色彩豊かで奇麗だな。

 手間がかかってて、作るのに随分時間がかかりそうな紐だ。


 「ありがとう! ソフィア。これは手首に巻くのかな?」


 「そうなの。この紐で繋がってるから、ずっと一緒だよ!」

 「そうだな。でも着けなくても俺たち、いつも一緒にいるだろ?」

 「気持ちが大事なの。わかるでしょ」

 「分かるよ。おかげで良い診断をしてもらえそうだ」

 「うふふふふー♪」



 2時間後に到着した隣町は、普段よりいくらか騒がしい様子だった。

 町人の噂では、なんと久しぶりに町の子供から勇者が見出されたらしい。

 しかもなんと町長の息子であるサトルのようだ。


 図体ばかりデカいだけのサトルが何故勇者という診断なのか疑問に思いながらも、俺はソフィアと手を繋ぎながら教会に向かう。 

 不安な気持ちのせいか、少し早歩きになってしまった。


 俺たちが教会の正面階段を上がっている途中で、上から人影が落ちてきた。

 ふと見上げた先には、件のサトルの姿があった。

 昔さんざんソフィアにちょっかいを出してきたアイツは、彼女を見ながら気持ち悪くニヤニヤしている。

 心持ちソフィアをかばう様にしながら、俺はサトルと対峙する。


 「よぉ、ユーリ。まだ騎士の真似事してんのか?」

 「サトルには関係ない」

 「そうはいかねぇ。なんせ俺様は勇者だからな!」

 勇者だから何故関係するのか分からないが、とりあえずここは先に行くべきだ。

 「そうか。俺たちは用があるから失礼する」

 「くっくっく、せいぜい今のうちに楽しんでおきな……」


 気持ち悪い笑いを浮かべたままのサトルを後に、俺とソフィアは教会の入り口で職業診断の受付を行う。

 男女別々に診断を行うため後で落ち合う約束をして、ソフィアより先に奥へ向かう。

 

 教会内の長い廊下を進んだ先にある小さな礼拝堂の中が職業診断の場所のようだ。

 入口近くに不安そうな男子が2人、順番を待っている。

 どうやら入り口と出口は別らしく、診断後の様子は分からない。


 15分後に名前を呼ばれ、礼拝堂の中に入る。

 ノックして声をかけてから入ると、大きな水晶の横に年老いた神官が一人立っているだけだった。


 「ユーリ君だね?」

 「はい。ラドック村から来たユーリと申します」

 「よし。その場で跪いて、床に描かれた聖母の絵画に手を置き、じっとしていなさい」


 俺は言われた通りに行動した。

 これで何がわかるのか。

 ちらっと神官の様子を見ながら、静かに跪く。


 年老いた神官は水晶を覗き込みながら、小さな声で何か呟いている。

 「ふむふむ、この身なりで――魔法が使えるのか――、しかし、お布施の額が――、つまりこの場合は――、ということになるかの」



 「ユーリよ、職業診断の結果が出た」

 「はい」

 「お前は村の狩人として働くようにと、神のお告げだ」

 何やら無難な職業に決まった。

 安心した俺は神官に礼を言い、退室した。

 

 

 教会の外でソフィアを待ちながら、さっきの診断について思いを馳せる。

 一体彼らは何を根拠に俺を狩人と決定したのか。

 何故サトルが勇者なのか。

 水晶を見ていた限り、何かが映っていた様子はない。


 手を置いた絵画から若干魔力を吸われる感覚がしたが、それだけだ。

 おそらく、魔法が使える使えないの判断をあれで行うのだろう。


 既に30分以上経過し昼ご飯の時間が近づいてきたころ、何やら教会の周辺が騒がしくなった。

 不安になった俺は教会の前に戻り、周囲の人の様子を伺う。


 「今日、聖女様が誕生したらしいぞ」

 「昨日の勇者様に引き続き、今年はありがたい年になりそうですね」

 「聖女様はとても美しい娘らしいぞ」

 「最近魔物たちの様子が活発化してるから、勇者様や聖女様には頑張ってもらわねばなるまいて」


 何やら聖女が誕生したらしい。

 そしてソフィアが戻ってこない……。


 不安になって俺は、職業診断の受付に問い合わせる。

 「今日、一緒に職業診断に来た子が出てこないのですが?」

 「どなたですか?」

 「隣村のソフィアという娘です」

 「ああ、ゾーイ神官の娘のソフィアさんですね? おめでとうございます。彼女はめでたく聖女に認定されまして、先ほど勇者サトル様と共に王都へ出発されましたよ」

 「何だって!? もう一度教えて下さい!」

 「ですから、先ほど王都へ出発されましたよ」

 受付嬢が何を言っているのか、途中から全く分からなくなった……。


 「すみません、聖女とはどんな職業なのでしょうか?」

 「聖女様は勇者様、魔導士様らと共に魔王を倒すべくこの世に生まれた特別な職業なんですよ。この町から生まれたのは久しぶりなんです」


 なんてことだ……。

 ソフィアが聖女になるなんて。



 何故、ソフィアが聖女に認定されたのか。

 何故、既に王都へ出発しているのか。

 何故、俺の側を離れているのか。

 ソフィアは今頃一人で不安になってるのではないか。



 ぐるぐる思考がループしながら、どう帰ったのか分からないが、気づくと俺は家の自分のベッドの中で泥のように眠りに落ちていた……。

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