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第八十八話

 「今年は暖冬だってテレビで言われているけれども、寒いものは寒いなあ」


 年末の大掃除の最中、買っておいた正月飾りに買い忘れがあることが判明して追加の買い出しの用をお母さんから申し付けられた私はコートを羽織って玄関から歩き出してすぐに吹き付ける寒風に身を縮こまらせてしまう。

 テレビやらなんやらで今年は暖冬だって騒がれても寒いものは寒いものだ。

 目当てのホームセンターはすぐ近くだし、と油断してコートしか着てこなかったことを数歩で後悔してしまった。


 「お母さーん、ごめんマフラー持ってきて!」


 「んもぅ、だからそんな軽装で大丈夫?って言ったのに」


 玄関をくぐりなおして追加装備を持ってきてもらうようにお願いしてから待つこと少し、お小言付きで持ってきてもらったマフラーと手袋を装備して再度の出発。

 年末のホームセンターは大掃除の道具やら正月の準備やらを求めてやってくるお客を相手にして賑わっている。

 微妙に混雑している店内で正月飾りが陳列されているコーナーを目指す、とはいっても入口近くに特設されているのですぐそこなのだけれども。

 早速、目当てのものを手に入れて後はお会計を済ますだけなのだけれども、折角寒い中でここまで来たのだから入口だけ見てすぐに引き返すのもなんだか勿体ない気持ちがあってなんともなしに店内を見て回る。

 

 「あれ、百武先生?」


 「おや、森山さん、こんにちわ。君も年末の買い物かい?」


 店内で珍し・・・くは無いのかもしれないけれど、近くに住んでいるとは思っていなかったので意外ではある人物に出くわして思わずと言った感じで出た声が相手にも聞こえたのか、こちらに声を掛けながら近寄ってくる。


 「あ、はい。お正月の飾り物で買い忘れたものがあったので」


 「それは御苦労様。どうだい、宿題の方は進んでいるのかな?」


 そうやって聞いてくる百武先生こと百武ももたけあきらは清鳳学園の教師、のみならず私達のクラスの副担任でもある。

 ちなみに私、というか森山華蓮にとってはそれだけではなく、「キュンパラ」の説明書で紹介されていた五人の攻略対象キャラクターのうちの最後の一人、という関りもある。

 とは言え、私も玲奈さんもこの人のことを攻略対象としての関わり合いが成立するとは考えていなかった。

 何故かと言うと──


 「ええ、順調ですよ、夏休みに比べたら量も少ないですしね。・・・それで、そちらの方は奥さんですか?」


 ──既婚者だからである。ゲーム内では独身だったのだけれども、こちらの世界では既に結婚している妻帯者なのだ。年齢は一回り近く上の筈なのに衰えを見せるどころか年上の色気もプラスされる美貌はクラスどころか学園の中でも人気が高いのだけれども、同時に奥さんとの仲睦まじさも知れ渡っている。

 まあ、人によっては奥さんがいたって関係ないと考えるような剛の者も居るのだろうけれど、生憎と私にはそこまでのガッツは無い。


 「あれ、知っていたのかい?妻の早苗だよ。こちらはうちのクラスの森山華蓮さんだ、中々に優秀な生徒だよ」


 「百武ももたけ早苗さなえです、初めまして。いつも明がお世話になっています」


 「いえ、そんな!お世話になっているのは生徒の私の方ですよ!」


 そう言って悪戯気な笑顔を浮かべる美人さんが百武先生の奥さんの早苗さん。こうしてお会いするのは初めてだけれども、その存在と名前だけは玲奈さんやクラスメートたちから聞いていた。あと美人だということも。

 玲奈さんからは追加でゲームの中での早苗さんの扱いについても聞いている。早苗さんはこうして百武先生と結婚しているのだし、ゲームの中ではライバルキャラなのかと言えばそうではなく、ライバルキャラはライバルキャラで別に居るらしい。というのも、早苗さんはゲーム開始時点よりも数年前に既に故人となっていて百武先生のルートで名前だけでしか登場しないらしい。

 百武先生のルートはずっと前に事故で亡くした婚約者のことをずっと引きずっていて、それ以降誰とも付き合ったり結婚を考えたりとかしなかった先生が、婚約者の面影をみたヒロインと触れ合う中で婚約者の死と向き合い新たな恋へ、というのが概略らしい。

 その婚約者というのが目の前の早苗さんのことで、百武先生は私、というかヒロインにその面影を見たらしいのだけれども・・・。

 そこまで考えてからもう一度早苗さんのことを改めてこっそりと観察。改めて見てもやっぱり美人さんである。どちらかというと凛々しいという言葉が似合う容姿とスラッとした体型で、女子校なんかにいたら王子様とかいっておおいにモテそうだ。正直なところ、失礼ながら私が似ているとはとても思えないのだけれども、ゲームの中の百武先生はいったい私の何処にこの麗人の面影を見たのだろうか。

お読みいただき、ありがとうございます。

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