第八十七話
年末を控えた冬休み、私は相も変わらず部屋でゴロゴロしていたり、たまにスケッチをしに外へは出るもののあまりの寒さに完敗の日々だったり。
玲奈さんのお宅に御呼ばれしてお茶をご馳走になった日、収まるところに収まったという感じの二人を見て次は自分の番かなと意気込んだのはいいものの進展というものは今のところ全くない。
接点のある学園ならばともかく長期休暇の間は積極的に接点を作っていかねばどうにもならないことは分かっているけれど、いざ動けという段階になると尻込みしてしまう自分がなんとも情けない。
思い返せば二学期の後半は木下君のお宅に招待されたり、クリスマスパーティではパートナーになってもらったりといろいろと接点の多かったものだけれども、それというのも私の周りに起こっていた「キュンパラ」絡みのトラブルの相談に乗ってくれたりしていただけで、そのトラブルがこの度目出度く綺麗さっぱり解消されたとあっては、出来つつあった木下君との接点も綺麗さっぱりと解消されかねない。
木下君に相談に乗ってもらっていた二学期の一連のトラブルの元である私と成松君との仲にまつわる噂も、クリスマスパーティでのあの騒動を大勢の学園生が目撃した人から伝わる新しい噂で立ちどころに駆逐されるだろうし、そもそもの大元である「キュンパラ」からの影響だか強制力みたいなものも、私のバッドエンドということで片が付いたとみていいかなと思うと、これまでのゲームのキャラクターに転生した者同士という接点に頼らない何らかを不断の努力で育んでいかねばならないというのに。
いざ連絡を取ろうかと携帯を手に取るも何と言えばいいのか分からないまま固まって時間だけが過ぎてゆく。このヘタレと笑いたい人がいるのなら笑えばいいと思う、これが自分のことではなくて他人事なら私も笑っていたのかもしれないのだから。
今、こうして携帯を片手に固まっているのはお年始に初詣へとお誘いできないかなと、でも木下君のお家とかお正月なんて絶対に忙しいだろうしなとか、なかなか一歩が踏み出せずに悶々としているわけだ。
「うわぁ!? っと、と」
かれこれ三十分くらい画面の中の通話ボタンを押す手前で固まっていたところに突然鳴り響く着信のメロディーと元気に震える本体に思わず取り落としそうになるのを慌てて抑えて覗き込んだ画面にもう一度驚いてから急いで着信に応答する。
「もしもし、木下君?」
『森山か、いきなり連絡してすまないな、今少し話せるか?』
「ううん、うん、今は丁度暇していたところだから大丈夫だよ」
先ほどまで貴方に連絡しようとしていました、なんてことはおくびにも出さない様に気を付けて、全然暇でしたよという体で澄まして答える。慌てていたせいか若干おかしな返答になってしまったような気もするけれど。
こうして相手の方から連絡してきてくれるのを珍しいなと思いつつも嬉しさで声が上擦らないように気を付けて話を続ける。
「木下君のほうから連絡してくるなんて珍しいよね、何かあったのかな?」
『少し・・・では無いか、厄介なことがあって頼みたいことがあるんだ』
普段は部活動の連絡事項だったりと用事でも無ければ連絡なんてしてくれないので、今回もその関連だろうかとあたりをつけて聞いてみると、とっても意外な返答があった。
これまで接してきた木下君という人のイメージ的に問題が起きたとしても誰かに頼ったりはせずに自分で解決してしまう気がする。勿論、これは私の勝手なイメージなんだけれども、これまでこうして頼み事をしてきたことがないのもまた事実で。
まだ、どんな頼みなのかも聞いていないけれども、それでもこうして私の事を頼ってくれるんだって思うと嬉しくなってしまう。なんて思っていたのだけれども、木下君の頼みとやらは私の想像するようなものでは無かったらしい。
『家では毎年、年賀の祝賀会を開いているのだが、母がその会に森山のことを招待したいらしい』
「ええ!?」
『昭恵さんには口止めをお願いしていたんだが、どこからか聞きつけてきたらしい。どうにか思い留まらせようと粘ってはいたんだが結局押し切られた。急な話になってしまったことも重ねて謝る』
それで取りあえず出席だけでもして欲しいと木下君は続ける。
二学期の一連の騒動の際に相談に乗ってもらうために木下君のお宅にお邪魔したのを木下君のお母さんが知って興味が湧いたのだとか言うことで、一度お話がしたいと言い出したらしい。
最初は個別に招待してお話をということだったらしいのだけれども、それを思いとどまらせる為の譲歩が今回の会の招待なんだとか。
私からしてみたらどちらも難易度の高すぎるイベントのような気がするけれども、確かに面と向かって個別にお話をするよりは、いち招待客としてお話をするだけの方がいくらか難易度は低いのかな?正直、判断が付けられないのだけれども。
「私みたいな一般人が行ってもいいのかな?自分で言うのも何なのだけれども」
『母からの招待なのだから問題ない。そこまで厳格な集まりでも無いしな』
しばらく話を続けてから電話を切って、通話が切れているのを確認してから大きく息を吐く。
つい数十分前まで初詣に誘えたらなとか思っていたのに、随分と大きな話になってしまったものだと思う。
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