第八十六話
クリスマスパーティが終わって今は年末年始を待つ冬休み。
そして私は今、玲奈さんのお宅にお邪魔していたりする。
夏休みと違って宿題の少ない冬休み、特にすることもなく懸念事項も一つ片が付いたといってもいいという安心感も手伝って部屋でゴロゴロしていたところに玲奈さんからお誘いを受けたんだ。
車で迎えに来てくれるというので最初は遠慮したんだけれども、玲奈さんの家がバス停から遠くて結局そこまで車で迎えに行くことになるからと言われてお願いした。車には詳しくないけれどそれでも一目で高級車とわかる車が家の前に停まっている光景には少し気後れしたけれどね。
木下君のお家が和だとすると、玲奈さんのお宅は洋の豪邸だね。木下君のお家にも立派な日本庭園があったけれど、こちらも負けず劣らずの立派な庭園が広がっている。
その庭園の一角の温室の中、色とりどりの花に囲まれてお茶をご馳走になっています。
「ドレスは大丈夫だったかしら?」
「ええ、なんとかシミも全て綺麗に落ちるみたいで安心しました」
クリスマスパーティのときに着ていたドレスは学園の紹介してくれたクリーニング店に持ち込んだところ、こぼしてしまったジュースのシミなんかも全て綺麗になりますよって言われて一安心だ。
クリーニング代はこちらが支払うという玲奈さんは言うのだけれども、こぼしたのは自分が持っていたジュースなのだしと断ろうとしたら
「貴女には迷惑をかけたのだからお詫びの一環として支払わせて頂戴。不満なら新しいドレスを贈呈させてもらおうかしら」
「クリーニング代、ありがとうございます」
ということで断り切れなかったよ。
ドレス一着をポンとくれようとしたけれど、絶対になんか高いやつだよね。それに、そう何着もドレスを持っていても私には着る機会というものが無いのだしね。まあ、機会があったのなら貰っていたのかというとそうでもないのだけれども。
それからはクリスマスパーティの、木下君に引っ張って行かれたあとの顛末を教えてもらった。
あの後は二人もすぐに会場をあとにしてゆっくりと話し合ったらしくて、その結果、改めて婚約をしたらしい?継続ではなくて新しく婚約をしたというのは、なんでも元々の婚約関係には何か条件が付いていて、それが二人、というか成松君には不満だったから条件の無い新しい婚約をということらしい。そういえばあの時もそんなようなこと言っていたっけ?
あ、ちなみにこのお茶会には私と玲奈さんの他に成松君も最初からいたりするよ。とってもニコニコしてて、ティーテーブルの下ではずっと玲奈さんと手を握ってらっしゃる。ここまでのお話中、玲奈さんは口調とかは普段通りなのだけれども、ずっと顔を真っ赤にして俯け気味だったりして。普段は美人だとかカッコイイって言葉がぴったりだけれども、今はとっても可愛らしいです。
これまでの二人の距離感はどちらかというと付かず離れずといったふうに見えていたのだけれども、どんな話し合いをしたのか少し気になります。もしかして、学園と違って家ではずっとこんなだったのかな?
「玲奈から話は聞いたよ、ずっと一人で悩んでいたことも」
玲奈さんは成松君に全部話したみたい。自分が転生者であることとか、「キュンパラ」のこととか、幼少期にしたことと、何故できたのかということも。話したの自分の周りのことだけで私や木下君、那月ちゃんのことは話していないとか、二人はともかくとして私のことくらいは別に話しても問題ないけれど。特に秘密という訳でもなくて、話しても信じられないから言わないだけなのだし。
ヒロイン役に転生した私と違って玲奈さんが転生したのは悪役令嬢役で、どれだけ自分に思い聞かせても振り払い切ることのできない破滅への不安に押しつぶされそうになってクリスマスパーティへと繋がる一連の行動に出たらしい。
「貴女には本当に迷惑をかけたわ。負傷まで負わせてしまって、ごめんなさい」
「俺からも謝らせて欲しい。俺が玲奈の不安に気付くことが出来ていれば防げたことだろうし」
二人揃って下げられる頭に思わず恐縮してしまいそうになるのを我慢して、きっちりと謝罪を受け入れる。それがこれからも二人と友達として付き合っていくためのけじめだと思ったから。
「二人の謝罪は受け取りました。罰として、玲奈さんと成松君は絶対に幸せになってくださいね」
「ええ、ありがとう」
「今後、玲奈の未来に不幸が待っていたとしても俺が守るよ」
これで、二人のことは一応の大団円となるのかな。これから起きる問題があったとしても二人で解決していくんだろう。もちろん、私も友人の一人として何か手伝えることがあれば喜んで手を貸すけれども。
さあ、これで次は私の番、になるといいなあ。
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