第八十一話
今日は二学期の終業式であるとともにクリスマスパーティが開かれる日でもある。
私達が転生したこの世界の元になっていると思われるゲーム「キュンして恋やぁ、パラダイス」──相変わらず酷い題名である──でも山場となるイベントの舞台になる日だ。各ルートとも形は違えどもこのクリスマスパーティを経て正式に攻略対象と恋人関係になることは共通している。と、木下君に見せてもらったノートには書かれていた。ゲームとしては一年生の終わりまで描かれているけれど、これ以降の、冬休みと三学期は恋人パートとして甘々な描写と団円に向けて問題の解決に邁進することになるらしい。
私にとっても今日が山場であることに変わりはない。木下君によると私はこれまで成松君の個別ルートを進めている状況になっているとのこと。もちろん、私に成松君とどうにかなりたいなどという願望は無いのだけれども、ゲームの影響を受けているのだろうこれまでの噂やいやがらせなどは今日でなんらかの決着がつくのだろう。
現在はクリスマスパーティに合わせてオーダーしたドレスに着替えている途中だったりす。パーティの会場は学園ではなくホテルのホールが使用されてる。終業式を恙なく終えたあと、制服のままバスで移動してそれぞれにあてがわれた控室でドレスに着替えているという訳だ。
階段から転げ落ちてから一週間ほどが経っているというのに完治が間に合わず、固定されたままの手首では普段着ならともかく着慣れない衣装の着替えには一苦労だ。階段から転げ落ちたさいに痛めたのは手首と腰。腰の方は幸い軽い打ち身で湿布を貼って数日で痛みも痕も残らずに消えたが、手首の方は捻挫ということでガチガチに固定されてしまった。利き手側だったせいで生活の諸所において不便であったが、期末試験も済ましまともな授業の残っていなかったことは不幸中の幸いと言うべきか。
階段から転げ落ちたのは自分で足を踏み外したことにしてある、由美と沙耶香には心配されたり呆れられたりしたけれど。背中を押されたような感覚はあるけれども、その瞬間を目撃したわけじゃないので玲奈さんがやったとも言い切れないし、落ちた本人よりも死にそうな顔した玲奈さんのことが気になったのもある。
あれから玲奈さんとは話をしていない。それ以前からも若干避けられているようなフシもあったし、こちらから連絡をしようかと思ってもなかなか踏ん切りのつかなかったのもある。どちらにせよ今日、この後でなにかしらの決着がつくのだろうと高を括っているせいもあるかもしれない。
クリスマスパーティは社交の練習や勉強という意味合いもあって出席にはパートナー同伴を推奨とかいうルールがある。このパートナーは別に恋人や婚約者でないといけないということはなく、仲の良い友人やクラスメートでも、極論唯の臨時の間に合わせでも構わない。勿論、恋人や婚約者が居る人はその人との出席を推奨されいるけれど。
推奨、というだけなので絶対に連れ立って行かないとダメということもないけれど、多くの生徒はお互いをパートナーにして出席しているみたい。比率としては八対二くらいといったところかな。
実際のパーティの中身は立食形式の軽食と雑談、それと生徒会が用意した催しがいくつか、という程度なので会場で常に一緒に行動しないといけないという訳でも無いので、会場に入るときと出るときに一緒にいるというくらいの意味合いでしか無いのだけれども。それでも、仲を深めるきっかけであることは間違いないので頑張る人は多いということだろう。
今回は私もちょっと頑張ってパートナーを木下君にお願いした。ゲームの通りであるのなら成松君のルートを進めている私は成松君をパートナーにして今回のパーティに出席している筈だけれども、私と成松君はただのクラスメートでしかないし、ゲームの通りにはいかないようにという建前で。
パーティの前半は和やかな雰囲気で進行していった。由美や沙耶香の他に数人のクラスメートの女子で集まって冬休みの予定やらを雑談している。玲奈さんからの視線も感じるけれど絡んでくるといったことも無いし、他の誰かが絡んでくるということも無かった。
もしかしたら、何事も無く平穏なままパーティが終わってしまうのではないかと思ってしまう。このまま何事もなく済んでしまってもいいのだろうけれども、それはそれで今までのは噂やいやがらせは何なのだというもやもやが残るというかなんというか、やはりすっきりすっぱり解決したい。
問題が起きたのはパーティの時間も中盤をすぎて後半にさしかかろうかという頃だった。
飲み物のお替りを貰おうと雑談していたグループから離れてスタッフのからジュースを受け取ったところで別行動をしていた木下君とパタリと会った。せっかくパートナーとして来てもらったのだしこのままお話でもしてその後も一緒に、と思ったところで肩、というか二の腕のあたりに軽い衝撃があった。
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