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第七十九話

 誘拐事件から数日経って日常の方も落ち着きを取り戻してきた。スケジュール的には特に忙しいってこともなかったのだけれども、なんというか心理的にバタバタしていたって感じかな。

 あの後は病院に行って簡単な検査とカウンセリングを受けたりしてきた。私的には事件の当時には怖い思いをしたけれども、こうして無事に戻ってこれたのだし終わったことということで割と平気だと思っている。ただ、カウンセラーさんの言うことにはそうやって平気だと思っている人でもふとしたことで事件当時の感情がぶり返すこともあったりで注意がいるんだとかで、定期的なカウンセリングの為に来院することって約束させられてしまった。

 学園では私が事件に巻き込まれたという情報は広まっていないようで特に話題に上がるようなことも無く事件のことで問題が巻き起こるなんてことも無かった。清鳳学園には流石に話が行っているみたいで担任の先生からは些細なことでもいいから何かあれば相談してきてくれと言ってもらえた。

 あとは後日に那月ちゃんに会いに行ったときにまた抱き着かれた大泣きされてしまった。その時は智也くんも一緒にいて宥めるのを手伝ってもらったりもした。那月ちゃんはしばらく一人行動は禁止らしくここ数日はずっと智也くんと一緒に居るらしい。智也くんの方はというと「ぼくが那月をまもる」と言っていたりで、普段はどちらかというとぽやんとしているところを那月ちゃんにお世話されているというイメージが強いのだけれども、そう言っていたときはキリっとしていて格好良かった。

 両親ともたくさん話し合いをした。お母さんからはしばらくの間外出禁止を言い渡されそうになったがそこはお父さんの執り成しでなんとか撤回してもらった。二人にはもの凄く心配を掛けたと思うし自分自身、とても怖い思いもしたけれども、流石に出歩けなくなるのは困るし犯罪に巻き込まれるのが怖いからと言って家に閉じこもっていればいいというのも何か違うと思うからね。その代わりと言うか門限については以前よりも厳しくなった。お父さんからは学園へ通うのに車で送迎しようかと提案されたけれどもそれは断らせてもらった。安心させるためなら送り迎えをして貰った方がいいかなとも思ったけれど、毎日だとお父さんの負担が大変なことになりそうだったから。

 


 事件の余韻もおさまってきた休日、今日は木下君のお宅に二度目の訪問をしていた。

 誘拐事件のことで話したいことがあるということで自宅に来ないかと、私の方も少し聞きたいことがあったので丁度良かった。木下君とはクラスや美術部で顔を合わせているけれどそれらの場では二人でゆっくり話し合うっていうのはなかなか出来ないからね。

 今回もバス停まで木下君が迎えに来てくれていた。今回はもう道筋も分かっているのだし家で待っていてくれればと言えば、この辺りは高級住宅街で人通りも少ないからなと返されてしまった。

 自室へと案内されてお茶を淹れてくれた昭恵さんが下がったところで向かい合った木下君が頭を下げる。


 「すまなかった」


 「ええっ!?ちょ、ちょっと待って、なんで木下君が謝るの!?」


 今回の事件は那月ちゃんを狙った誘拐犯が勘違いして私を攫ったのが発端で、木下君に責任なんて全くない、ましてや凄い怖い思いをしているときに現場まで駆けつけてくれて私としては感謝の念しかないというのに。


 「流石に誘拐事件など起こる訳が無いと高を括っていた。もっと真剣に対策をしていれば違った結果を得られていたかもしれん」


 まさかあんな理由で誘拐されるなんてとても予想できたものではないし、事件の発生を未然に防ぐことは出来なかったにしても、何らかの手段で私の居場所を把握できるようにするなどしていればもっと監禁時間を短くできていたかもしれないと。

 今回はたまたま何事も無く帰ってこれたけれども、場合によっては取り返しのつかない事態になっていたかもしれないのだからと。

 そう言って頭を下げ続ける木下君になんとか頭を上げてもらって聞きたかったことを聞いてみる。


 「どうしてあの時、あの場所に木下君が来てくれたのかな?」


 「あの場に(攻略対象)が居た方が良いと思ったからだ」


 そう言ってからあの事件が解決に至るまでの経緯を説明してくれた。

 

 「あの事件、中身はゲームのそれとは全く異なるが、事件の起こった日付と攫われた人物、そして監禁された場所。これらからゲームと全くの無関係とは言い切れないと考えた」

 

 私の監禁場所が判明した理由は警察からもある程度聞いている。私が攫われてすぐ、那月ちゃんのおうちの車が追いかけてくれたこと。場所が郊外で相手が怪しまれない様に安全運転をしていたことからすぐに追いつけたこと。でも街中に入って交通量が増えたことなどから見失ってしまったこと。それから見失った場所の周辺で監禁場所出来そうな建物に心当たりがあると木下君が提案したこと。木下君の心当たりを含めて周囲を警察が捜査をしたところ犯人の車を見つけたことなどなど。

 私の監禁場所については案の定というか、ゲームで使われた場所と同じだったみたい。


 「本来なら、犯人の逮捕や人質の解放は警察の仕事で俺のような一般人が首を突っ込んでも足手まといが関の山なんだが」

 

 ゲームでのそれは玲奈さんに依頼された暴漢に攫われて、襲われそうになったところを既の所で成松君に救われるというのが事件の概要だ。

 もし、今回の事件が少しでもゲームの影響を受けているというのなら、ヒロインを攻略対象が助けるという形に、少しでもゲームに添うようにした方が無事に助けられる確率が上がるんじゃないかって予想したんだって。


 「成松が駆けつけるのがベストだったのだろうが、流石にそんな余裕はなかったからな」


 そう言って苦笑する木下君。

 でもね木下君、私は木下君が駆けつけてくれて、とても嬉しかったし、心強かったよ?

 

 

お読みいただき、ありがとうございます。

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