第七十一話
木下君の言うことに、私は成松君のルートを進めている状態らしい。・・・正直、意味が分からない。
「私、別に成松君のことは好きでもなんでもないよ?」
私の好きな人は目の前にいるからね。
もちろんのこと、成松君のことを嫌っているわけでもない。好きか嫌いかのどちらかと聞かれたのなら好きだと答えるだろうけれど、それは友人やクラスメートとしての「好き」であって恋愛対象としての「好き」ではない。多分だけれども成松君に同じことを聞いたとしても同じように答えるんじゃないかな?少なくとも嫌われているとは思わない。ないよね?
「その辺りのことは俺は関知していないが、『キュンパラ』におけるルートの決定条件は知っているか?」
いや、そこは是非とも関知していてください。でも私が好きな人が誰かバレバレなのもそれはそれで恥ずかしいし、なかなか複雑な心境だ。
それはそれとしてルートの決定条件ね、もちろん知らないけれど、一般的に考えるならフラグを回収しているかとか好感度が高いかとかだよね。
「まあ、一般的な他の恋愛ゲームと殆ど変わらないんだが。必須のイベントを含む規定数のイベント発生と規定値以上の好感度パラメータの上昇を達成している対象の内、一番好感度の高い相手が選ばれる。条件として盛り込まれているのはあくまで攻略対象から主人公への好感度であって、主人公から攻略対象への感情は関係ない」
え?それって木下君より成松君の方が「キュンパラ」でいうところの私に対する好感度が高いってこと?それに、私の感情は関係ないって酷くない?
「この世界で好感度をどのようにして量っているか不明だからそこは保留にするとして、もう一つのイベント数で判断するならば、お前に聞いた話からすると条件を満たしているのが成松だけになる」
成松君のルートが選ばれたのは他の人のイベント数の条件を満たしていなかったかららしい。好感度の方はこの世界での判断基準が分からないから保留とのこと。それはそうだよね、ゲームでは数字としてはっきりと分かるものだけれども、現実の世界で人の気持ちが数値として分かる訳ないもんね。
成松君よりも木下君の方の好感度というものが低いことが原因じゃないみたいなのでホッとしたけれども、結局のところ木下君が私のことをどう思っているのかは分からないままってことでもあるよね。それが当然といえば当然なんだけれども、見れるなら数字としてはっきりと見たいよね、好感度。
「ちなみにだが、円城寺はルート条件が特殊なので置いておくとして、江里口と百武はイベント数不足、俺は必須イベントを達成していない状態だな」
もう少し詳しい説明をしてもらったところ、百武先生とは教師と生徒としての接点くらいしかないので問題外として、智也くんはイベント数不足──要は会った回数が足りていないとのこと。
稔君とのルートに入る条件が特殊というのは、稔君とのルートへ入るには他の誰とも条件を達成していないことが条件とのことで成松君のルートへの条件を達成しているので稔君とのルートへ入ることは出来ないらしい。
そして、木下君とのルートなんだけれども。木下君とのルートへ入るための必須イベントには彼のルートにおけるライバルキャラ──北島さんが絡んでくるのだけれども、そもそも木下君と北島さんとの間に殆ど接点がないからイベント発生のしようがないらしい。
木下君と北島さんとの間に接点が無いってことには安心するところがあるのだけれども、そのせいで木下君とのルートへと入ることが不可能になっていたらしいとは、世の中そうそう上手いことにはならないみたい。
けれども、私が好きになったのはゲームの中の木下君ではなく現実の人としての木下君だ。ゲームのストーリーに沿った恋がしたいわけじゃない、どこかのだれかに決められた流れに流されるんじゃなくて現実の森山華蓮として攻略対象じゃない木下君と恋がしたいんだから、ルートに入れなかったことはむしろ良かったのかもしれない。
そちらはそれでいいとして、今問題になっているのはというと。
「結局のところ、その成松君のルートに入っているってことが今の私の現状の原因ってことなのかな?」
「ああ、そうだ。お前と成松が付き合っているという噂と、それが広まることによって始まる嫌がらせ。それらに対処するうちに成松の心の支えとなっていきエンディングへと向かっていくわけだが、その辺りは長くなるので割愛させてもらう。気になるならノートを貸してやるからあとで自分で読めばいい」
あ、ノート貸してくれるんだ。続きとか気になっていたし貸してくれると言うのなら是非とも貸してほしいです。
「それで、だ。今のお前の環境をどうにかするという話だが、原因──この場合は犯人をどうにかするというのが手っ取り早いだろう。で、この場合、噂の方はどうだか知らないが嫌がらせの方の犯人はというとだな──」
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