第六十九話
「ゲーム内で展開されていた状況とこの世界での今の状況は確かに丸っきりの別物と言っても間違いはないだろう。──だが、それは果たしてゲームとこの世界を別の物と断じる根拠となりうるのか?」
「え?でも、ゲームの通りになっていないのなら別の物じゃないの?」
そうだよね、ゲーム通りの展開になっていないのだからゲームとは別物。うん、どこもおかしくない。けれども、木下君はそうだとは限らないって言っている。
んー、どういうこと?ゲームの展開とは違う状況になっているのにそれはゲームとは違うという証明にはならない?
「そもそも、”ゲーム通り”の状況とはどういうものだ?」
それは、私にわかるのはせいぜいがゲーム開始直後くらいまででシナリオの中身までは知らないけれども。
それだけでも成松君は俺様な性格してて家庭環境は最悪で、玲奈さんは分かりやすい典型的な悪役令嬢してて、稔君は歴とした男の子の筈だし智也くんのところの姉弟も今のような関係じゃなかった。
それに、木下君も美術部にはいないし、北島さんとの関係だって今みたいな淡泊よりもなお薄いものでは──
「ゲーム通りと言っても、そのゲームの中ですら五通りのルートがある。そのルートに辿り着く道程に至ってはプレイする人間によって違ってくるものだ」
狙いを絞ってひたすら一人のキャラのイベントばかりを追う人も居れば、効率を重視してルートが分岐する手前までは複数人を同時に攻略を進める人も居る、中には全ての選択肢を網羅しようとする猛者だって居るのだろう。ちなみに私は気に入ったキャラをひたすら追っかけていくタイプでした。
攻略対象が五人でそれぞれ一本ずつで五ルート。それぞれのルートでもグッド、ノーマル、バッドと三つのエンディングがあるのだし、そこに至るまでの選択肢の選び方はプレイヤーそれぞれで、ゲーム内に刻まれていく歴史は千差万別で十人十色なものになると木下君は言う。
「プログラムに用意された限られた選択肢だけでも状況は千々に変化する。その中のどれが”ゲーム通り”だと言える?解釈なんてものは人それぞれで、プレイする人間の数だけ『正史』が存在するというのに」
「ゲームの中でも選んだ選択肢で状況が変わるのだから、この世界の状況がゲームと違うのもただ選ばれた選択肢が違うだけってこと?でも、ゲームなら最初の選択肢が出るまでは誰がやったとしても同じ展開になる筈だよね?けれども私が入学する前からもうゲームとは違う展開になっていたよね、それはどういうこと?」
「ゲーム上では選択肢を選び取れる者はお前──いや、森山華蓮という主人公唯一人で、その一人の選択によって状況が動いていた。だが、この世界は俺たちにとって現実だ。ならばこの世界で生きる全ての人間が選ぶ選択肢に影響を受けてもおかしなことなど無いだろう」
「・・・稔君は?」
「一匹の蝶の羽ばたきで地球の裏側で嵐が起こるくらいだ、何がどう影響するかなんて俺が知るか」
ゲームとは違う状況であってもそれは選ばれた選択肢が違うだけでそれだけでゲームとは全く別の世界だとはならないってことだよね。ちょっとこんがらがりそうだけれどもそこまではなんとか理解できそうかな。
「んっと、あれ?でも、結局ゲームの展開とは違う状況になっているんだからもうあのゲームとは別物って言ってもいいんじゃないの?」
「まあ、そうなんだが。ここまではあくまでも前提の話だ。ここからが本題なんだが──その前にこれを読んでもらった方が早いだろうな」
そう言って机の引き出しから取り出したのは数冊のノート。
「これは何?」
「俺が『キュンパラ』について憶えていることを書き出したノートだ。製作者サイドの視点も入っているからまあ攻略本みたいなもんだな」
攻略本!この世界が「キュンパラ」の世界だというのならそれは未来に起こり得る出来事に対するあんちょこみたいなものじゃないか、ちょっとしたチートアイテムだよねこれ。あ、でも、入学時点であそこまでゲームの中との差異が出来ていたのならもう役に立たないのか。
ノートは全部で六冊あって、それぞれ表紙に「設定・共通ルート」と「成松ルート」みたいに攻略対象者の個別ルートと書いてある。
ノート一冊にしてもそれなりの分量になるんだけれども・・・。
「これ、全部読むの?」
「いや、取りあえず付箋の貼ってあるページだけで構わない」
あ、良かった。取りあえず一冊を手に取ってパラパラとめくってみたけれど、結構細かい文字でびっしりと書き込まれてたんだもん。
中身はとっても気になるけれど全部読んでいたら流石に遅くなってしまうだろうし、下手をしたら今日一日で読み終えれるかも分からないしね。
さて、と。じゃあ一番付箋の数が多い設定と共通ルートのから見ていきますか。
お読みいただき、ありがとうございます。




