第六十七話
はい!やってまいりました木下邸です!
なんというか、こう、すごく・・・大きいです・・・。いやいやほんとにね!ほんっとうに大きいんだって!
角を曲がってからずっと同じ塀が続いていて中はよく見えなかったのだけれども、林と呼べそうなくらい木が植えられていて料亭かなにかだと思っていたら、やっとたどり着いた門に木下の門札が。木下君からも「ここだ」とのお言葉があり、間違いないみたいです。
「すごく広いっていうか、立派なお屋敷だね」
「広いだけで住む分には不便なだけだがな」
一般市民からしてみればすごいなー、広いなー、なんて感心しきりな立派なお屋敷だけれども、実際に住んでいる人からしてみればそれなりに不満点もあるらしい。まあ、たしかにじゃあ実際に住んでみるか?って言われたら広すぎて落ち着かないだろうなあとは思うかもね。
実際のところ、敷地の半分はお庭で、もう半分もお茶室(おばあさんがお茶の師範?っていうのかな、お弟子さんに教えているんだって)や(今は殆ど使われていない)武道場が占めていて生活スペースは見た目よりは狭いんだとか。それでも私のような小市民からしてみれば十分以上に広いんだけれどね。
「昭恵さん、ただいま戻りました」
「おや、おかえりなさい。お早かったですね」
「ああ、人を迎えに行っていただけですからね」
玄関を通されてこれまた立派な廊下を少しドキドキしながら後を付いていくと、途中のお部屋に声を掛けると中からお年を召した女性が顔を出した。
あれ?今日って家族は誰も居ないんじゃなかったっけ?って疑問を察したのか、女性の紹介をしてくれた。昭恵さんは木下家の家政婦というかお手伝いさんをしていて、このお屋敷の家事のほとんどをお世話してくれているらしい。
「あ、お邪魔します。木下君のクラスメートで森山華蓮といいます」
「あら、あらまあ、お坊ちゃんも隅に置けませんねえ。こんな可愛らしいお嬢さんをお連れになって、奥様がお知りになったら大騒ぎしそうですねえ」
「はあ、それが分かってたから今日を選んだんですよ。昭恵さんも、森山とはそういう関係ではありませんので勘違いしないでくださいよ」
「ええ、ええ、分かっておりますとも。奥様には内緒にしておきますとも。さて、今日はお赤飯にしましょうかねえ」
そう言ってコロコロと可愛らしく笑って奥へと行ってしまうのを見送って大きなため息をつく木下君。
お手伝いさんといっても、木下君のお父さんが産まれた頃にはもうお家に入っていて家の事(子供の世話を含む)をされていたとかで、木下君もお父さんも昭恵さんに頭が上がらないらしいんだって。
「ほら、ずっと突っ立っていないでさっさと部屋に行くぞ」
ここまで誰かいにいいようにあしらわれる木下君というものが珍しくてついまじまじと見つめていたら、羞恥に耐えられなかったのか赤みを差した顔を背けて歩き出してしまった。私の視線を遮るように差し出した手をポフンと頭に置いてから・・・。
今の何ー?今の何ー!?お家に招待されたかと思えば、普段は見られないような木下君の表情は行動のオンパレード、これから木下君のお部屋に行くんだよね?そこでこれまで以上のことが起きるんですかね!?私に悶え死ねと!?なんだか朝からずっとドキドキしっぱなしなんだけれども、私の心臓今日一日保つんだろうかしら。
はい、やってまいりました木下君のお部屋です。あ、もういいですか、そうですか。
こうやって男の子のお部屋にお邪魔するのって初めてだから緊張するね。あ、お子様なときは前世も今世も何度か男の子のお宅にも上がったことあるよ。けれどもそうじゃなくて、男の子、女の子と異性を意識するような年頃になってからは初めてってことね。
思っていたよりも遥かに綺麗に片付いているね、っていうか物が少ないね。他を知らないから標準がどんな感じかわらないけれどもね。
木下君っぽいといえば木下君っぽいお部屋かな。もしかしたら昭恵さんがお掃除してくれているのかもしれないけれど、木下君だって年頃の男子なのだし、他人に見られたら不味い物件とか所持しているかもしれないしやっぱり自分でお掃除していたりするのかな?
そんなことを考えているとついつい視線が本棚や押し入れ──和室だからか、ベッドは無かった──に向かってしまう。
「あまりジロジロと見回すな」
「あ、ごめんごめん」
ジロリと向けられた視線と言葉に居住まいを正すけれども、すぐにソワソワと視線が泳ぎそうになる。だって緊張してるし、気になるんだもの。
そんな私の様子に言っても無駄と思ったのか呆れたように息を吐き出すと今日、私を部屋に呼んだ本題を切り出すことにしたみたい。
「今日お前に家まで来てもらったのはだな──」
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