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第六十六話

 すっかりと黙り込んで考えに没頭してしまった木下君。部活動中は雑談をしている時でも殆ど手が止まることの無い人が手を止めて考え込むという珍しい行動に、自分の言葉のどこにそんな木下君の手を止めさせる要素が?って思うものの、心当たりなんて直前の時期についての言葉くらいしかない。でも、噂や嫌がらせが始まった時期を聞いて考え込むなんて、木下君にはこの一連の件に心当たりでもあるんだろうか?


 「次の週末の予定は空いているのか?」


 「へ?」


 「次の週末の予定は空いているのかと聞いた。学園内だと何かと煩いからな、外で話した方がいいだろう」


 「え、あ、うん。あいてる、空いてます、大丈夫です」


 いきなりの誘いにびっくりしたけれど、どうにか返事をすることは出来た。でも、それ以降の部活動は話をする前とはまた違った意味で集中することが出来なくなってしまった。

 部活道の時間が終わって帰ろうとしたところを千穂達に捕まってカフェスペースに連行されて木下君との週末デート(凪咲談)について散々冷やかされてしまった。嫌がらせのことについても聞かれたかと思ったのだけれども、そちらについては聞かれていないみたいで触れられることは無かった。部活動中に手を止めてまで話し込んだり考え込んだりする木下君というのは彼女たちにしてみても珍しい行動みたいでそれとなく注目していたらあのお誘いの言葉で、これは是非とも冷やかさねばということで今の状況らしい。なので、それより前のことについては聞いていないみたいだね。

 噂のことについては彼女たちも知っているけれども、幸いというかなんんというか、私が誰のことを好きでいるかバレバレになってしまっているため、噂の内容がデタラメだということを理解してくれている。何かあるとこうして冷やかされたりお茶のネタにされてしまうのにはまいってしまうけれども、それと同じくらい励ましたり応援してくれたり、特に今は噂に惑わされずに嫌がらせにも加担していないだろうと思える安心感は非常にありがたい。でもやっぱり今のようにお茶会のネタにされるのは勘弁してほしいけれど。



 週末、木下君と約束した日。

 待ち合わせの場所に時間の三十分前に着いてしまった。当然ながらまだ木下君の姿は待ち合わせ場所には見当たらない。朝も随分早い時間に起きてしまったし、昨日なんて家に帰ってから遅くまでずっと今日着ていく服を選んでいたし、ちょっとは落ち着けと自分にツッコミを入れたい。

 けれども、私が妄想するようなアレコレが実際に起こるとは思えないのに時間より早く家を出たり気合を入れておめかしをしたりしてしまうのは恋する乙女の本能として仕方ないと思うんだよね、ということにしておこう。


 「なんだ、もう来ていたのか、待たせたか?」


 「ウウン、イマキタトコロダヨ」


 こういう場面でのお約束を達成しました!・・・滅茶苦茶棒読みだったり、男女の立場が逆だったりするような気がするけれど。まあ、正しいバージョンは正式にお付き合い出来るようになったらまた改めて達成しよう。


 「呼び出したのはこちらなのに待たせて悪かったな。目的地に向かう前にどこか寄って行くか、詫びじゃないが茶の一杯くらいは奢ろう」


 「え、いいよ、そんなの」


 「気にするな。ほら、行くぞ」


 そう言うとこちらの言い分やらなにやら色々とスルーしてそのままスタスタと歩き出してしまった。


 「それで、目的地っていうのは?お話だったらさっきのお店でも良かったと思うけれども」


 途中で寄ったお店で一服して今は目的地とやらに向かっているところ。お店の中では昨日の話の続きはせずに普通に雑談をしていただけだった。


 「ああ、俺の家だ。話の中身が中身だからな、あまり人に聞かれたくないし、見せたいものもある」


 「へえ、木下君のいえ・・・家!?」


 「今日なら家族も出ているから丁度いい。見つかったら煩いからな」


 「しかも二人っきり!?」


 こちらのリアクションを悉くスルーして歩き続ける木下君に置いて行かれない様に慌てて追いかける。

 えっと、なんだろう?そういうことにはならないだろうって思いつつもアレやコレやと妄想というか期待という名の想像を膨らませていたのだけれども。まさか、その斜め上を行く急展開が待っているだなんて。

 え?もしかして、ほんとうにそういう展開が待っていたりするのかな?

 いろいろと妄想したり期待を膨らませたりしていたけれど、それは実際には現実のものにならないと思っているからで、いざそれが現実に起こりそうになるとですね、決して嫌というわけじゃないけれど、その、経験値不足の身としてはですね、準備が、心の準備がですね、間に合いそうに無いんですが。

お読みいただき、ありがとうございます。

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