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第六十四話

 玲奈さんたちに相談にのってもらってから数週間が経つ頃。年々遅くなっていく衣更えも済まし、駆け足で秋が終わって季節は冬に入ろうかというところ。

 方針通りに放置していた噂も収まりをみせ・・・るどころか、段々とその盛り上がりを増しているみたいだ。直接に私の耳に入ってくるようなことはないのだけれども、由美や沙耶香をはじめとしたクラスメートの面々から人づてに聞くだけでもそうと感じ取れるくらいにはエスカレートしているみたいだ。

 元々の噂が「二人が付き合っている・・・かも?」みたいなどこぞのゴシップ記事の見出しみたいなものだったのに対して今では「二人は付き合っている」と断定的なものが主流になっているらしい。

 こうした事態に困惑を覚えるのも噂が広まり始めてからもう何度目になるかわからない。もし仮に、私と成松君が付き合っているのが事実なのだとしたのなら、噂が広まってかつ、その内容が具体的になっていったのだとしても不自然ではないと思う。でも今回の件については噂が広まる前にも特に心当たりは無いのだけれども、噂が広まってからは尚更に燃料になるようなものは無い筈なのに噂だけが独り歩きしている状態なのだから。

 あともう一つ、不思議に思うことがあったりする。それは、玲奈さんと成松君の二人の関係について。私と成松君との間のことは噂として広がっているにも関わらず、玲奈さんと成松君の間柄については不仲であるとかそれに類するような噂は出ていないらしい、その逆についても。今出回っている噂の真偽がどちらだとしても噂の相手が成松君なのだとしたら、その婚約者の玲奈さんとのことも噂として出てこないと不自然ではないかなと。

 けれども、私と成松君が付き合っているという噂はあるのに玲奈さんと成松君が別れる(別れそうだ)という噂は無いということで、こちらでもやっぱり噂が独り歩きしている印象が大きいんだよね。

 


 学園内に広まる噂は、その内容にこそ困ったものだとは思うものの、実害という面から見れば殆ど無いと言ってもいいくらいだった。あるとすれば、校舎を歩いているときに誰かに見られていると感じることが増えたくらいで、居心地が悪いと言えばそうなのだけれども、それだけと言えばそれだけだった。

 でも、噂の中身が具体的に断定的になってきたことに関連しているのか困ったことが出てき始めた。

 

 「あれ、華蓮?そんなところでボーっとして、どうしたの?」


 「あ、おはよう。えーっと、アレなんだけれど、・・・どう思う?」


 直面した事態の判断に困って立ち尽くしていたところに同じく登校してきた由美にも意見を聞いてみることにしてみた。


 「アレ?・・・ああ」


 指差した先を見て私が立ち尽くしていた理由を察したのか、不思議そうな表情が一転して苦笑いを浮かべたものに切り替わる。たぶん、私も今、同じような表情をしていると思う。

 朝、登校してきて上履きに履き替えようと下足箱を開けたら中身が空っぽだった。一旦、扉を閉めて名札を確認しても自分に割り当てられた場所で間違いない。そもそも誰かと間違えていたとしても下足か上履きのどちらかが入っているもので空っぽというのがおかしいのだけれども。

 辺りを見回してみたら下足箱の天板の見つけやすい位置に上履きが置かれていた。特に名前を書いてあるわけでは無いのでパッと見ただけで私の物と確定は出来ないけれど、状況的に私の上履きで間違いないと思う。

 さっさと手に取って確認すればいいのだけれども、何故自分の棚ではなくてそんなところに置いてあるのかを考えているところに由美が登校してきたという訳だ。

 たまたま、何らかの理由で転がり落ちていたものを見つけてくれた人が踏まれたり蹴られたりしてどこかに行ってしまわない様に上に上げてくれた──名前が書いて無いので誰のものか分からない。適当な所に突っ込むわけにもいかないし、片っ端から開けて行って上履きの入っていない所を探すわけにもいかないので天板の上に──という可能性もあるけれど、鍵は付いていなくても扉はあるので勝手に落ちるとも考えづらいし私のだけが落ちている状況というのも想像しにくい。

 今の私の置かれている状況を合わせて順当に考えれば、そういうことなのだろう。ただまあ、ゴミ箱や焼却炉、もしくは側溝に捨てるような悪質なものではなく、直ぐに見つかる場所に置いてある分だけ子供の悪戯じみていて微笑ましいというか救いがあるように思える。

 ただ、今回は微笑ましいというか、苦笑いを浮かべる程度で済んだのだけれども、これが噂に触発されて起きた事態なのだとしたらこれで終わりということも無いんだろうし、むしろこれが始まりなのだろうね。そして、いつまでも「微笑ましい」レベルで済まされるとも思えない。

 入学式前に抱いていた、噂を聞きつけた時に抱いた不安が、心の中で大きな暗雲となって膨らんでいく様子が頭の中で繰り広げられていた。

お読みいただき、ありがとうございます。

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