第六十三話
「無視して普段通りにしていればいいのよ」
「・・・ですよねえ」
噂のことを耳にしてから数日、どうしたものかと考えてはいるものの正直どうしようもないなあと諦めてもいたりして。噂なんてものは第三者が好き勝手にアレコレと言うもので、当事者がどうにかしようとして直ぐに鎮静化する特効薬のような解決手段なんてモノは存在しない、有ったら教えて欲しい、切実に。人の噂も七十五日などという言葉もあるように時間が経ってほとぼりが冷めるのを待つくらいしかできないんだろうね。
それでもまあ、何もしないでのほほんとしていられるほどには図太い神経を持っていないので、何か出来ることは無いかと考えあぐねて誰かに相談してみることにした。電話越しで話すのもアレなのでということで学食内のカフェ風スペースで相談に乗ってもらうことになっての相手の一言目が先ほどの言葉だ。
ちなみに相談に乗ってくれた相手は玲奈さんだったり。噂の内容通りであれば私と玲奈さんは恋敵で、そんな相手に噂のことで話があると言えば修羅場待ったなしになりそうなものだけれども、実際には噂の中身は事実無根なのだしこうして相談に乗ってもらうことで事情を説明することも出来るかなと思った訳ですよ。
「噂なんてものは当事者が慌てれば慌てるほど面白おかしく尾ひれがつくものだからね。気にしないのは一番だよ」
待ち合わせの場所には噂のもう一人の当事者である成松君も来ていた。待ち合わせ場所に玲奈さんを見つけた時、成松君も同席しているのには少々驚いたのだけれども、考えてみれば成松君も噂の当事者なのだし一緒に話を聞いてもらった方が合理的だよねと。
話を聞いてもらう場所についても個室とかでなくて大丈夫なのかなって思ったけれども、オープンな場所で何でもないことのように話した方がいいらしい。むしろ、密室でコソコソとやる方が噂のネタを提供する結果になりかねないんだとか。
「それで?貴女の相談は終わったわけだけど、これからどうするの?」
「えっと、他に何か無いんでしょうか、ああすればとか、こうした方が良いみたいな」
「無いわね、さっき言った通りよ」
あっさりと切られてしまった。まあ、根も葉もあるようなことなら行動を正したりなんかの対処法もあるのだろうけれど、今回見たいなのだったら何かをするだけ逆効果になるってことは誰かに相談したところで変わることもないか。何もしないことが一番の対処法なんだろうけれど、好き勝手言われている側からしたらちょっと腑に落ちないというか。
それにしても、何だろうか?何かこう、玲奈さんの様子がいつもと違うような、元気が無い?不機嫌ぽい?まあ、自分の婚約者が他人と交際疑惑、だなんて噂が出回ればことの真偽がどちらであっても面白くないだろうし機嫌の一つや二つも悪くなるか。
「すみません玲奈さん、変なことに巻き込んじゃって」
「別に貴女が謝ることじゃないでしょうに。・・・それとも、何か謝らないといけないことがあるのかしら?」
私のあずかり知らないところで勝手に出回った噂で、中身も事実とはかけ離れた出鱈目で気に病むことは無いのかもしれないけれど、玲奈さんの様子を見ていたらつい謝りの言葉が出てきてしまう。いきなり謝られた玲奈さんはというと、呆れたような困ったような表情をしたかと思えば一転して人聞きの悪い、それこそ事情を知らない人が聞けば大いに誤解されそうなことを言いだした。表情を見ればこちらを揶揄うような意地の悪い感じの笑みを浮かべていて本気では言っていないことは丸わかりだけれども、如何せん周りに普通に人が居る状態なので焦ってしまう。けれども、少しだけ調子が戻ってきたみたいで少しだけ安心かな。
まあ、実際に玲奈さんに何かあったのだとしても隣で知らん顔してる婚約者さんが何とかフォローしてくれるのだろう、それが婚約者の甲斐性というものだと思う。
「それにしても、どうしてあんな噂が出てくるんでしょうかね?」
「うーん、別に怪しまれるようなことなんて無かったと思うんだけどな」
私の方に今回のような噂にされるような心当たりは無い、それは成松君の方も同じようで顔を見合わせて二人して首を傾げても答えは出てこない。
「フラ・・数は・・てる・・ね?・っぱりゲーム・・響が?なら・・ままいけば・・・・スパーティが・・・・ントに・・・」
玲奈さんの方はというと何かを考え込んでいるみたいに俯いている。ブツブツと独り言が漏れ聞こえてくるけれども思考に没頭しているのか気付いていないみたいだ。でも、声量は抑えられていて何を言ってるのかはよく分からない。
ただ、玲奈さんには何かの心当たりがあるらしいというのはなんとなく分かるかな。今はいろいろと考えているみたいだけれども結論が出たら教えてくれるんだろうか。
ただ、若干その顔色が青くなっているような気がするのはなんでだろう?
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