第五十三話
ホームセンターに着いて買い物メモのリストにあるものを買いそろえてゆく。
対応してくれた店員さんはやっぱり慣れているらしく、学園名を出すまでも無くこちらの制服姿を見るや破顔して声を掛けてきたかと思えば手渡したメモを元にあっという間に品物を揃えてくれたうえに「じゃ、今日中に届けちゃいますね」という声と請求書を残して全ての荷物を荷台に収めるとさっとトラックで行ってしまった。
後に残されたのは呆気にとられた私達だけ。流石にこの展開は成松君にも予想外だったのかポカンとした表情を隠すことも無く開いた口をさらしている。
「くっふふふ、なんだかとってもフットワークの軽い店員さんだったね」
「すぐに配達に出てくれたのはありがたいけど、他の仕事はよかったのかな」
お互いに相手の呆けた表情がおかしかったのか顔を見合わせるとどちらからともなく笑顔がこぼれる。
「せっかく付いてきてくれたのに、なんだか無駄足になっちゃったみたいでごめんね」
「重いものを持ってたよれるところをアピールするチャンスだったけど、仕方ないかな」
買い出しにでる前の予定では木材などの重いものは配達をお願いする予定だったのだけれども、配達をしてくれるタイミングが読めないので軽いものや細かいもの、塗料の缶みたいなそこそこ重いものでもすぐにでも必要なものは自分たちで持って帰るつもりでいた。
でも、店員さんの意外なフットワークのおかげで荷物全てをすぐに届けてくれることになって二人とも手ぶらになってしまった。私達のしたことと言えば店員さんの後をついて回って世間話をしたくらいだ。私としては楽が出来るのだから問題無いのだけれども、成松君はわざわざ荷物持ち要因として付いてきてくれたのに完全な無駄足になってしまった。別に私の責任って訳じゃないのだろうけれどちょっと申し訳ないよね。
まあ、罪悪感を感じるというよりはちょっと気まずいというのが本音かなというところなのだけれども。帰り道が文字通りの手持ち無沙汰になってしまったのはどうしようか。
「あ、どうせだから台詞回しの練習でもしながら帰ろうか、演技までは無理だけれども一応台詞は一通りそらんじられる程度には頭に入っているからチェックくらいならできると思うよ」
今回の劇の発案者である脚本兼監督の熱い指導の賜物によって我々裏方班ももしもの時に代役になれるようにと台詞を覚えられるように練習させられていた。しかも、誰の代役になってもいいようにとほぼ全ての台詞を覚えさせられたのだからもしかしたら役者の子たちよりも大変かもしれない。一応、台詞さえ頭に入っていればよくてこまかい演技まではそこまで求めないというのが救いだったのかも。
そうして私達の大道具班は準備期間の前半は他の班より暇だったこともあって大体全員が台詞を一通り暗記してしまって、今では作業しながら台詞回しの練習が出来るまでに進化してしまった。
まあでも、演劇の練習なんて普段しないことをクラスのみんなとわいわいとやるのって意外と面白くてすんなりと覚えることが出来たんだけれどもね。
台本の出来も全くの素人がアレンジしたとは思えないくらいの出来で、元々の作品は悲劇なのだけれども、アレンジ版はハッピーエンドになっていて一般受けするんじゃないかと、制作サイドに回っている身内の贔屓目含みで充分面白い劇になるんじゃないかなって思う。
今回の劇の発案者で脚本兼監督の男子は舞台作家さんの息子で、彼自身もお父さんの背中を追っかけて脚本家を目指しているんだとかで、今回の劇の成否はそのまま彼の将来への評価にも繋がっているとのことなのだから熱の入れようにも頷ける話だよねと。そういう世間話も挟みつつ学園へ、劇の台詞を発しながら二人で歩くという不審者チックな行動をしたものだけれども、学園周辺の住民の皆様も慣れたものとでも言うべきか、あらあらもうそんな季節なのねぇって生温かく見守る視線であいさつをしてくださったりと地域交流もばっちりな様子だった。
明日を学園祭本番に控えた平日──とは言っても明日は高等部の方は内部公開のみで本当の本番は一般の方も入場できる二日目なのだけれども、準備のほうも最後の追い込みということで希望者は届け出を出せば泊まり込みで準備を続けることができる、ということでクラスの半数くらいが泊まり込みで準備を進める予定だったり。まあ、準備の方はもう大方終わっていて本当なら泊まり込んでまで準備をする必要なんて無いのだけれども、折角のお祭り前日の雰囲気を味わおうという趣旨の元、有志を募った結果だ。
大道具班も準備はもうしっかりきっちりと終わらせていたのだけれど、浮かれたクラスの連中にせっかく作った大道具を壊されたりしない様に見張ろうという建前の元に私を含めた数人で泊まり込みの予定だったりして。
お読みいただきありがとうございます。




