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第四十九話

 さて、一人で切り抜けねばならないというのはいいとして、肝心のその方法が全然思い浮かばないということが問題だ。

 経験が少ないのだから仕方ないじゃないなんて自己弁護したところでこの状況が変わる訳でもないのでここはひとつ何かいい方法を考えねば。

 幸いなことにまだ囲まれてはおらず逃げようと思えば逃げられるはずなので、いざとなったら大声出して逃げちゃおう、うん。


 「えっと、私には付き合っている人がいるのでそういうお誘いは間に合ってます」


 短時間でそんなにいい案が思い浮かぶはずもなく、咄嗟に口をついて出てきたのは使い古されたような常套句。使った本人が言うのもなんだけれども、こんなんで諦めてくれるよう人っているんだろうか?やっぱり今すぐに回れ右してダッシュで逃げた方がいいのかもしれない。


 「そ、そっかぁー・・・じゃあ、仕方ないね」


 「ざ、残念だなあ。じゃあ、俺たちもう行くから、彼氏さんにヨロシクねー」


 「肉は沢山あるから気が変わったら来てくれよな」


 おや?通用しましたね?なんだ、しっかり通用するんじゃないか常套句、やっぱり使い古されるからにはそれなりの信頼と実績があるってことなんだろうか。

 なんだか去り際の三人の顔が引きつっていたような気がしたのだけれども、無事に切り抜けられたことだし細かいことは気にしなくてもいいよね。

 気も削がれてしまったことだしみんなのところに戻ろうか、とっくに着替えも終わっていることだろうしね。


 「ふぁっ!?」


 「人の顔を見るなり変な声を出すな」


 ああびっくりした、振り向いたらすぐ近くにいるのだもの、変な声はでちゃったけれども悲鳴をあげなかったことを褒めて欲しいくらいだよ。

 水着に着替えパーカーを羽織った木下君はどうしてか、とっても不機嫌そうな顔をしている。

 さっきの人たちはもしかして私の発言が効いたのではなく、この不機嫌オーラ振り撒く木下君を見て退散したのだろうか?なんか彼氏によろしくとか言っていたし、木下君を私の彼氏かなにかだと勘違いでもしたのかもしれないね。実際にはもちろん、そんなことはないのだけれども勝手に勘違いしてくれるのであればそれに越したことも無いのだろうし。


 「一人でフラフラとしている姿が見えたからな、追いかけてきた。奴らみたいな浮かれて羽目を外そうという輩もいるんだ、あまり不用心にうろつくもんじゃない」


 「あ、心配してくれたんだ?」


 「誰かが問題を起こせば合宿どころじゃないからな、部の連中のところまで戻るぞ」


 そう言ってこちらの反応を待たずに踵を返して歩きだして行ってしまった。せっかく迎えに来てくれたのに一人で放っておかれたら意味がないのでは。

 でもまあ、表情は不機嫌丸出しなままで口にした理由だって不愛想なもので、それでもこうして気にして面倒を見てくれて、そういうことが嬉しいってこともあるんだろうけれども。やっぱり、部活の合宿とか初めての湖水浴とか非日常の中で浮かれているんだろう。

 こうして普段であれば絶対に取らないであろう行動をしてしまうのは。


 「なんだ、この手は?」


 「問題を起こさないようにしてくれるんだよね?こうしていれば虫よけになるかなあって」


 盛大に呆れたような態度をしたとしても、「皆から見えないところまでだぞ」なんて言って、振りほどかないあたりやっぱり優しいよね、と思う。

 もし、ここが本当に「キュンパラ」の、ゲームそのものの中だったとして、そのシナリオの中のいちイベントシーンだったとしたのなら、選択肢によってはもしかしたら主人公わたしは腕を組んでみたりもっと積極的な行動を取っていたかもしれないけれども、今、水着というこの格好でそんなことをするのは、いくら非日常という浮かれ空間の熱に満たされていたとしてもゲームのキャラクターでもなんでもない私には脳内に浮かび上がる選択肢なんて無いし、あったとしてもその選択肢を選ぶだなんてレベルが高すぎます。こうして手を取っているだけの今でさえ、割と心臓が煩くなってる気がするというのは我ながら経験値が少なすぎだろうとは思わなくともないんだけれどもね。

 それとも、こうして好きな男子の手を握るという行為はどんなに経験を積んだとしてもドキドキしたりするものなのだろうか。今度、千穂あたりに聞いてみるのもいいかもしれない。

 ん?今、私は何を考えていたのかな?

お読みいただき、ありがとうございます。

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