第四十七話
部長さんに宛がわれた部屋はベッドが部屋の両脇に二つずつ並んだ四人部屋でジャンケンで勝った私は窓側のベッドを確保した、と言っても一年生の女子は私を含めて三人なので窓側を勝ち取る確率は三分の二だったりするのだけれどね。
部屋に入り荷物を下ろすとついつい年寄りみたいなため息が出てきてしまう。移動中はずっと姿勢が固定されていたのもあるけれど、二泊三日程度とはいえ持ってきた荷物がそれなりにかさばっていたのも原因の一つだったりして。
事前の連絡では合宿中に使う画材などの道具は部のほうで準備するので持参する必要はなしとは聞いてはいたものの何も持っていかないのもちょっと・・・などと考えてしまい、最低限暇つぶしにも使えそうなものをと追加で用意したのだけれど、その最低限が結構な重量になってしまったんだよね。まあ、集合場所に集まっていた他の部員たちの手荷物の状態も似たり寄ったりだったのは安心したのだけれどもね。
先ほどのため息が聞かれていなかったかと確かめようと振り向くと瞳をキラキラさせた二人が鼻息も荒くすぐそばまでにじり寄っていて、咄嗟に悲鳴を飲み込んだ私は褒められてもいいと思う。
「ねえねえ、バスの中で木下君と結構いい雰囲気だったじゃない?何、どんな話をしていたの!?」
大体予想通りのことを聞かれたけれど、バスの中での話かあ。那月ちゃんのことを相談していたなんてみだりに人に言うような話じゃないしね。
「どんなって言われても普通に世間話をしてたくらいだけれども」
「えー、つまんなぁい。もっとこう、甘かったり酸っぱかったりする内容は無いのぉ?」
「甘いとか酸っぱいとか、そんな関係でもないのにどうやったらそういう展開になるのかな・・・ああ、そういえば」
「なに、何かあったの!?」
「あっと、そっち方面の話ではなくてね、木下君って甘党だったんだなあって」
「へぇ、そうだったんだぁ」
「あれ?二人とも知らなかったの?」
二人の反応を窺うもどうも初耳っぽい。二人とも内部生で中等部の一年の頃から美術部所属、木下君もそうらしいのでかれこれ部活動での付き合いも三年と半年になろうかという長さになるのに知らなかったのか。
「うん、別に甘いもの食べてても特に反応無いし。まあ、普通に食べてるし嫌いじゃないんだろうなって」
「そだねぇ、甘いものでも辛いものでもいつも一緒だもんねぇ」
んん?それじゃあ別段甘いものが好きってわけじゃないのかな?じゃあ、あの時のあの表情はいったい何だったんだろう、甘党じゃないとするともっと他の何かの要因があったのかな?
「でぇ?森山さんはどうして木下君がぁ、甘党だって思ったのぉ?」
「え?それは、さっき大判焼きを食べていた時の表情が・・・って、今のナシ、なんとなくそう思っただけだよ」
考え事してたせいでつい正直にバスの中での出来事を話す途中で二人の表情の変化に気が付いて我に返りましたよ、なに二人に餌を与えるようなことをしているのだ私は。
「おやおやぁ?木下君の表情がどうかしたのかなぁ?」
「それはアレかな!?彼が私にだけ見せてくれる油断した顔がって惚気なのかな!?」
「いやいや、単純に甘いものが好きなのかなって思っただけだから、すぐそっちの方面に話を持って行かないでよ」
ちょっとドキッとしたのは事実だけれども、それだけでいきなり惚れた!大好きだ!なんてなるわけじゃないし。
「二人もだけど部の人たちはどうして私を木下君とくっつけようとするのかな、私が入部する前に二人ほど追い返したって聞いていたし、木下君を狙う人間は追い出したり苛められたりするのかなって想像してたくらいなんだけれども」
それが実際はどうよ、部員みんな世話焼き婆さんかよ!状態だし。
「んー?別にそんなことないよぉ?部内恋愛禁止してるわけじゃないしぃ、ていうかむしろ部長と副部長、付き合ってるくらいだしぃ?」
「まあ、あの二人組みたいに『私達、部活には興味ありません。男を探しにきただけです』みたいなのは流石にお断りだけどね!」
なんと!部長さんと副部長さんって付き合っていたんだね、衝撃の事実が判明したましたよ。
「それは分かったけれども、じゃあなんで私なのかなって、むしろ二人だって部員同士で長いんだし好きになったりはしなかったの?」
「私は婚約者いるしぃ」
「顔はカッコイイよね、顔は。観賞用かな!」
またまた衝撃の事実!成松君と玲奈さんもそうだけれど、普通に婚約者がいるんだもんなあ、清鳳学園に通っている人ってやっぱり一般とは少し違うよね。
「森山さんを推すのはぁ、単純にお似合いかなぁって」
「だよね、木下君があんなに面倒見よくするなんて思わなかったもんね、みんな驚いてたもんね」
入部当初から割とよく面倒を見てくれていたし、不愛想だけれども面倒見はいいのかなって思っていたのだけれども、実は他の部員からしてみれば驚きの事実だったらしい。流石にそれだけで勘違いするようなことはないけれども、それでも少しは気を配ってくれていたのかなって思うと嬉しいかも。でも、それってもしかしたら私が『キュンパラ』のヒロインに転生していたからなのかな?もしそうじゃなく、全然関係の無いただの一般人だったらどうだったのかな、相手にされなかったり、あの私に絡んできた二人組のように美術部を追い出されたりしたのかな。
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