第四十三話
皆さま、新年あけましておめでとうございます。
言われた時間となったので家から出ようと玄関を開けるとモアっと熱気が襲ってくる、先ほどまで冷房の効いた部屋に居た身としては相当こたえるものがある。もし私が眼鏡っ娘だったのならこの一瞬で視界が真っ白になっているんだろうなとかしょうもないことを考えつつも引き返すわけにもいかないので門から出ると見覚えのある車が既に待っていた。
急いで駆け寄ると待機していた運転手さんがドアを開けてくれるので短くお礼を言いつつ急いで車に乗り込む。それにしても運転手さん、以前に乗せてもらったときと変わらずにキッチリとしたスーツ──多分、夏用の──姿なんだけれども暑くないのかな?この暑さの中、車の外で待っていてくれた割には汗をかいている様子もないのだけれど、ここは流石はプロフェッショナルという評価でいいのだろうか。
「ごめんね、お待たせしちゃって。もうちょっと早くに出てくればよかったね」
「いえ、お伝えした時間通りですし、私達も今着いたところで殆ど待ってはいませんから。それに、お誘いしたのはこちらなのにお姉様を炎天下にお待たせすることなんて出来るはずがありません。」
「ふふ、気を遣ってくれてありがとうね。智也くんも、お久しぶり」
「ん」
両手のひらを横に振りながら畏まる那月ちゃんにお礼を言って、那月ちゃんを挟んで反対の窓側に座っている智也くんとも挨拶をする。そうしている間にも車は静かに走り出して一路目的地へ。
そう言えばプールとは聞いたけれども、どこのプールかとは聞いてなかったっけ。
丁寧な運転だからなのか全く揺れを感じない車に揺られながら智也くんと那月ちゃんとお話をすること十分少々、運転手さんの「着きましたよ」の言葉に外に目を向けるもプールらしき施設は見当たらず目に映るのは高層建築のビルばかり。
こんなところでプール?と疑問に思いつつ、視界に入ってきた一つのビルに心当たりが。
そう言えばここのビル──ホテルの最上階がプールになっていたっけ。夜間もナイトプールとして開放されていて流行りのスポットとして特集を組まれていたのをどこかで見たことあるや。
ロビーで待機していた支配人さん──ここも江里口家が所持しているホテルなんだって!──に案内されて最上階のプールへと。
水着に着替えてプールサイドへと行くと、夏休みに入ってすぐに由美たちと行ったレジャープールのようなイモ洗いという比喩がぴったりな惨状──あれはあれで場の雰囲気というか、楽しいものなのだけれども──とまではいかないもののそれなりに利用している人はいると思っていたのだけれど、予想に反して閑散としている、というか誰も居ない?と思ったら一人だけ居た。
その一人も水の中には入っておらず、プールサイドに置かれたデッキチェアに身を横たえて優雅に読書をしている。・・・プールにまで来て読書?
「玲奈さん、プールに来てまでなんで読書なんかしてるんです?泳がないんですか?」
「あなた達を待っていたのよ、一人きりで水に浸かっていても寂しいだけだもの」
一応水着に着替えてはいるものの体は全く濡れておらず、一度も泳いでいないことが容易に窺えるたった一人の利用者──玲奈さんに声を掛けるとこちらに顔を向けてそう答える。まあ、そうか、広いプールをたった一人で使っても、それが水泳の練習とかでもなければ何が楽しいのかは私にもわからないし。
「一人って、他の利用客とかは居ないんですか?」
「この時間は貸切よ、他人が居ても煩いだけじゃない。特にここは下がホテルになってることもあって稀に変なのが湧くのよ、未成年を部屋に誘ってナニをするつもりなのかしらね」
とてもじゃないが同い年とは思えない肢体に目をやってから自分の体に視線を落とす、止めておこうため息が出るだけだ。その誘ってきたという人もまさか相手が高等部に上がってすぐの年齢だったとは思わなかったに違いない、と思っておこう。
それにしても、比較的に利用客の少ない時間帯らしいとはいえプール一つ貸切とは流石という言葉しか出てこないね。本当は夜の時間帯を貸切にしようとしたらしいけれど、そちらは勘弁してほしいと泣きつかれたみたい。那月ちゃんたち、中学生を誘うにはちょっと不適切な時間だし、一般の利用客にも迷惑かかるしで諦めたんだとか。
「私たちが来るまで一人って、成松君は来ていないんですか?」
「来ていないわよ、誘っていないもの。あら、来ていた方が良かったかしら?その水着、とても可愛くて似合っているものね見せられなくて残念だったわね。せっかくだし今度、ナイトプールにでも誘ってみたらどうかしら、ここからの夜景は結構な見ものよ?」
「そういうのじゃありませんから、誘ったりなんかしませんよ」
何でこの人はこう、成松君に私を嗾けようとするのだろうか。仮にも自分の婚約者だろうに、確かにゲームの中ではそういう展開もあったんだろうけれども、この世界はゲームとは別物の現実だとはっきり言ったのは玲奈さんなのに。
お読みいただき、ありがとうございます。




