第四十二話
「あー、暇だあ」
自宅の自室でやることもなくゴロゴロと何するでもなく流れる時間に身を任せてみる。人によっては贅沢極まりない時間の使い方を平日の昼間から過ごすことが出来るのも今が夏休みだから。
夏休みに入ってすぐは由美や沙耶香、他にもよくグループを組んだりして仲良くなったクラスメートたちとも遊びに出たりもしたのだけれど、そうそう連日予定が詰まっている訳でもなし夏休みも半ば近くになればこうしてすることも無くダレる日も出てくるさ。
結構な量が出ている宿題も午前中に今日の分は済ましてしまったし、今日は美術部の活動も無いしなあ。暑いだろうけれど何処かに写生にでも出掛けようか、暑いだろうけれど。
「美術部と言えば来週から合宿に行くらしいけれど、美術部の合宿って何をするんだろう?」
前世では部員とは名ばかりの幽霊部員だらけの部活だったしで、合宿をするような活動的な部活に入部するのは初めての経験で何をするのか予想がつかない。いや、運動部だったらわかるよ?青春っぽいことするんだろうなあって大体の映像は思い起こすことが出来るけれど美術部のような文化部が合宿で何をするのかは正直分かりません。これが同じ文化部でも吹奏楽部とかならまだ想像できるのだけれどもね。
そうそう、吹奏楽部といえば由美はギリギリ赤点を免れて補習を回避できました。なので練習にフルで参加して夏休みを満喫していると先日会った時に真っ黒に日焼けした顔で報告してくれた。なんで吹奏楽部なのに真っ黒に日焼けしているのかは分かんない。因みに沙耶香の方は陸上部だというのに日焼けしている様子は全くない透けるような白い肌のままでした。実は二人の部活動を私があべこべに勘違いして記憶しているんじゃなかろうかと時々真剣に悩むことがあったりなかったり。
話を戻して美術部の合宿だけれど、渡された合宿のしおりを読む限りでは特段に必要な荷物というものはなく日程分の着替えと各自でそれぞれ要りそうなものを持って来いと、なんともアバウトな指示。集合場所は学園だけれども学園内の宿泊施設──学園には合宿なんかをしたりする為の宿泊施設があって、しかも結構なランクのホテル並みには快適らしく、運動部なんかは割と頻繁に利用してたりするらしい──を使うわけでは無くそこからバスで移動するみたい。目的地は私は行ったこと無いのだけれども有名な避暑地で風光明媚なところとしてもよくテレビなどでも取り上げられることもあって今からちょっと楽しみだったり。
数日後に迫った美術部合宿のことに思いをはせていると充電中のスマホから着信が、誰からかと手に取ってみれば相手は那月ちゃんだった。
特に意外ということはない。学園の敷地としては一括りになってはいるものの高等部と中等部はそれなりの距離があるため直接、顔を合わせるという機会こそ少ないものの初めて会って以降はこうしてちょくちょく電話し合っていたりするからね。
前世の世界の話を気兼ねなく出来る相手として貴重で、転生したときの年頃も──玲奈さんよりは──近いとあって仲良くなるのに殆ど時間はかからなかったし。
当時見ていたというアニメの絵を記憶を頼りに描いてあげたらとても喜んでたっけ。意外なことに豚トロさんのことを知っていたので今度木下君に頼んで何か描いてもらえないかなと思ってたり。
「もしもし、那月ちゃん?」
『あ、もしもし華蓮お姉様ですか、今お時間よろしかったでしょうか?』
「うん、大丈夫。さっきまで暇だ暇だあってゴロゴロしてたくらいだし」
『ふふ、それなら良かったです。それでですね、実はこれからプールに招待されておりまして、もしよろしければ華蓮お姉様もご一緒にどうか、と思いまして』
「おお、プールかあ、いいねえ。あ、でも私がお邪魔しちゃってもいいのかな?ご家族でお出掛けとかじゃないのかな?」
『ああ、いえ、智也は居りますが家族で、という訳ではありませんので。それに人数の制限なども言われておりませんし、華蓮お姉様さえ良ければ是非にと』
「それなら私もご一緒させてもらおうかな。それで待ち合わせの場所とか時間はどうすればいいのかな?」
『車でお迎えにあがりますので、三十分ほどしたら出てきていただければ、と』
うーん、いいね、プール。なんとも夏休みらしいスポットの一つじゃなかろうか。
あ、でも智也くんも一緒らしいけれど大丈夫なのかな?なんとなくだけれども、人混みとか苦手というかそんな気がするのだけれども。夏休みの前半に由美たちと行ったレジャープールは話題もあってか流石というかなんというかもの凄い混み様だったのだけれども。
おっと、考え事している場合じゃないね、家まで迎えに来てくれるまで余裕はあるけれど水着とか準備しないと。
水着と言えば、合宿のしおりにも荷物のところに水着持参を推奨!ってあったのだけれども、どこか泳げるところでもあるのかな。
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